2-28 【リリィ】サイド






リリィはハルナと共に、足元も見えない真っ暗な闇の中を進んで行く。




「ハ……ハルナさん、大丈夫ですか?付いて来てますか?」



「大丈夫ですよ、ちゃんと付いて行っていますから」





その言葉を聞き、リリィはさらに先に進む。

壁に設置されているろうそくの間隔が段々と広くなって行く。

それによって、見えにくかった足元に加え周囲の様子も見えなくなってしまった。

だが、リリィたちは進んで行かなければならないため、遠くで左右交互に見えるろうそくの炎を道の幅と推測しゆっくりと歩みを進めていった。


そこからさらに進んだところで、ようやく目的地と思えるような明るい部屋が見え始めた。

真っ暗の通路と比較すると、明るさがはっきりとしていたため、目印となった。


二人は徐々に目的の場所との距離が縮まるにつれ、歩く速度が速くなっていった。



目的地の明かりで足元の状態がわかる距離になった。

リリィは心を落ち着かせて、その空間の入り口に近づいて行く。





「……どうやら、この場所が最終地点のようですね」





ハルナはリリィに告げる。

部屋に入ると、リリィはその空間の広さに目を奪われた。




「祠の奥に、こんなに広い場所があるなんて……」




この部屋はドーム状になっており、その壁には壁画が描いてある。

リリィはその、壁に沿って描かれている壁画を眺めた。





「これは……大精霊様と大竜神様の物語?」



その壁画の物語は、リリィが幼い頃から聞いている物語に沿った話だった。

絵だけで表現されているが、展開から物語であることが分かったのだった。






そして目線を下ろすと、目の前にある台座の上には目的となる水晶が置かれているのが見えた。






「アレがそうなのかしら……」




リリィが台座に向かって近付いていくと、景色が一変してどこからともなく現れた霧が立ち込める。






「な……なに?何なのコレ!?」




一瞬の出来事で、リリィは驚いた。手で霧を退けてみても、無意味な行動であった。

しかし視界を奪われているだけで、毒やトラップの類いではないことはこの身に何も起きないことからわかった。


次第に霧が晴れ、先程の様子とは違うことにリリィは気付く。

目の前には、今まで見たことのない物語の世界だけの生き物がいた。






「……」






リリィは先ほどまでいなかった部屋一杯の大きさの竜が出現したことに言葉が出ず、ただただ口がパクパク動いているだけだった。

台座の横に身体を置き、長い首で台座を巻き込みこちらを見ている。


竜は目だけをギョロっと移動し、リリィの方を見つめる。





『……そこのニンゲン、ここに何をしに来た?』




リリィはこんな危険な状態たが、いろいろと思いを巡らせる。

なぜ王国は、こんな場所に入らせたのか?

……あたし達を消そうとして?

だとしたら、二人同時に消えてしまう可能があり王選に影響が出る。


……ここでの対応を試されている。

この考えが一番しっくりくる……この線か。

あとは、この竜がどのくらい危険なのか……





――ザクッ




リリィの左足の甲に、靴を貫通し氷の槍が突き刺さっている。

目でその状況を確認してから、リリィの頭に痛みという名の激しい感覚が遅れて届いた。





「きゃあああああああ!!!」





あまりの痛さに、リリィは叫ぶ。

過去に経験をしたことのない痛みだった。



『うるさい……静かにしろ』




竜は口から、息を吐きリリィの左膝から下を凍らせた。

リリィは、左足の感覚を失った。





『こざかしいことを考え、ワシの話しを聞かぬからだ。どうだ、痛くなくなっただろ?……これでゆっくり話ができるか?』




「……あ。……あ」





リリィは自分の足が不自由になったことに対し、気が動転している。


それを見かねた竜が、また意識を自分に向けさせようとする。





『まだ、先ほどの答えが返せぬか?……次はどこを凍らせてほしい?』



「……い、いや、大丈夫です。答えます!」



『そうか……では、もう一度訪ねよう。ここへは何をしに来たのだ?』




「は……はい!ここには、そちらの水晶を持ってくるようにと王の命令でございます!」



リリィは恐怖の気持ちを抑えながら、竜に対して返答した。




『ほぅ。このワシの持つ水晶が欲しい……と?それはどうやって持っていくのだ?このワシを倒して持ってのか?』




竜はリリィにそう告げた。

明らかにリリィの返答は困っている。竜と戦って勝った人物の話など聞いたことがなかった。

まともにやり合えるのは、大精霊くらいしか思いつかない。





『そうじゃな、お主たちだけでワシを倒せるなら、お主もこやつもこんな状況にはなっておらんだろうな……』




ハルナが竜の後ろ脚でつぶされた状態になっているのが見えた。




「は、ハルナさん!!」




その姿を見てリリィは叫んだが、ハルナの反応はない。




『安心せい、こやつはまだかろうじて生きておる。……そうだ。お主に選ばせてやろう』




竜はそう告げて、長い首を起こし顔をリリィに向ける。



『次の二つから選ぶがいい。何もせずにこのまま帰るか、”コイツ”をワシにくれて水晶を持ち帰るか……どうだ?』




リリィは迷う。


ハルナはもう助かりそうにない。しかも、今回の見極めは完全にリリィかハルナのどちらかを切り落とす手段に出ているのだ。

ならば、水晶を持ち帰ってその権利を受ける方が良い。



リリィは答えを決めた。





「……水晶を持ち帰ります」




『おぉ、そうか!では、これは貰っておくぞ!受け取るがいい』




竜が台座においてある水晶を、顔で押して落とした。



――ドスン



地面に落ちた水晶は、リリィの方へ転がる。

リリィは落ちた水晶を拾い上げ脇に抱える。


凍った左足を引きずりながら、手で壁を支えて歩いていく。



暗い通路に出ても、あの部屋を振り返ることはしない。

自分が行った判断を振り返るのが怖かった。



リリィは恐怖から解放されたが、後味の悪い気持ちを引きずりながら出口に向かい歩いていった。


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