2-15 選ばれし者たち





――コンコン




ノックの音に反応し、ハルナが返事をする。


すると、ハイレインが一人で部屋に入ってきた。

エレーナは立ち上がり、挨拶をする。




「悪いのだが、”ディグド”のことは、他の者には黙っておいてくれないか……あれは、どちらかというと特殊な例だからな……」





ハルナとエレーナはその申し出を受け入れる。

たった一日だが、ハイレインの人の良さは身に染みて感じている。



ディグドについても、エレーナが困っているということもあって、特別に呼び出してくれていた。


精霊使いとして、他の精霊とディグドを通じてだが意思の疎通ができることはかなり優位なものである。

ハイレインはそのことを、ひけらかすようなことはしない。


それは、妖精を預かっているお妃への気持ちの現れでもある。


ディグドのような妖精は、精霊の進化のひとつの形でありゴールではない。

目指そうと思って目指せるのかもわからない。

それよりも、王国としては精霊使いとして優秀な人材が育ってくれることを祈っている。

それが、王国の利益であり国を維持するために受け継がれてきた理念なのだから。



全て言い尽くせていないが、以上のことからディグドの存在は秘密にしておいて欲しいとのことだった。





「あの、ハイレイン様」



ハルナは用事が済んで退室しようとするハイレインを呼び止める。

ホッとした顔で振り向いた。



「ん?どうした?」



「従者の方に、昨夜ハイレイン様の家に泊まったのかという質問をされて、“はい”と答えたのですが……何か問題があるのでしょうか?」



ハイレインは少し宙をみて、思い返す。


「……いや、特別何も悪いことはないと思うが?……どうかしたのか?」




「い、いえ。ちょっと気になったもので……すみませんお止めして」



(ふむ……従者の中でよくない話しは聞いたことがあるが)




心配させないため表情には出さないが、このことを記憶に止めておく。




「何か困ったことがあったら、言うといい……そうだな、“ディグド“」


「何だい?ハイレイン」


「少しの間、ハルナたちを見守ってくれないかな?そして、何か問題があったら私に知らせて欲しいんだ」



「わかったよ、任せといて!」



「それじゃ、また後で会うことになるだろうからそれまでゆっくりとしているといい」




「「はい、ありがとうございます」」




ハイレインはドアを開け、ハルナたちに片手を挙げて応えて部屋を出て行った。






そして、いよいよ今回の精霊使いが一つの場所に集まる。



ハルナたちは従者に呼ばれて、支度をする。

付き添いは一名まで可能とのことだった。



エレーナはアルベルト、ハルナはモイスティアの代表と言うことでソフィーネが付き添うことになった。



ハルナも一応、エレーナやメイヤなどと目上の人に対する挨拶や礼儀などの訓練はしている。

が、付け焼き刃のため応用や自然にできるかどうか不安だった。



昨夜は、ハイレインに一通りこれからの話しは聞いていたので情報が全くゼロではなかったことが安心材料だった。




集められた場所は、ハイレインの執務室。

初めてディグドと会った部屋だ。


会話の内容が漏れないようにしているため、両開きの扉は厚く重い。

昨日のハイレインの屋敷の調度品と比べると、アンティークなものが多く王国の施設としての役割を果たすべく立派なもので揃えられていた。

使う本人にしては、嫌なところもあるだろう。




エレーナとハルナが部屋の中へ通されると、既に二組が部屋の中にいた。

部屋の中は真ん中にあったソファーとテーブルが片付けられ、四脚の椅子がハイレインの机の前に並べられていた。

ハルナはその様子を”面接会場“だと思った。


先に入室している精霊使いは椅子に座り、その背後に付き添いの人物が立っていた。




ハルナたちはそのうちの一人に、見覚えがあった。





「――ソルベティ!」





エレーナは思わず、声をあげた。


ソルベティはこちらをちらっとみて、一礼だけする。





そして、ソルベティの以前と雰囲気が違うことにハルナとエレーナは気を引き締めた。




”――ここは王選のために来た”のだと




しかもソルベティが立っているということは、今回選ばれたのはソルベティではなく他の人物ということになる。

ソルベティが王選に参加したかったのかどうかはわからないが、選ばれなかった者としては大きなチャンスを逃したことになる。

それも一生に一度のチャンスを。



王選自体が、いつも行われているわけではない。

王子が誕生し、その時代の女性……しかも精霊使いでなければその競争に参加できない。

これは時間のタイミング、行ってきた行動、運など、全てが揃わないと目指せないものだった。



今ここに、そのすべてを乗り越えてきたものが揃っている。

ハルナだって負けてはいない。


モイスティアでの事件を超えて、今ここにいる。

ティアド、アーテリア、エレーナ達の信用を得てここにいる。

それもちゃんとした実力と運が重なった結果だ。





そう、理由はいくらでも付けることができるが、ここにいることが全てだった。










その一つ奥には、見知らぬ女性が座っていた。

土の町からの精霊使いのようだ。


そして端にハルナ、その隣にエレーナが腰を掛け、その後ろにソフィーネ、アルベルトがそれぞれ立つ。


部屋の両脇にはハイレインの従者が並び、部屋の主が入室するのを待つ。



ハルナ達が着席してから、一分も経たないうちにハイレインは部屋の中へその姿を見せた。


そのまま自分の机の椅子に座り、長い髪で隠れていない片方の目で四人を見渡す。



「王都へようこそ……私がここの施設を担当している”ハイレイン・ミカ”だ、よろしく頼む。お前たちが王都に滞在している間は、こちらの施設が拠点となる。必要なものや、困ったことがあれば遠慮なく申し出て欲しい」



言い終わると、ハイレインはその席を立ち、四人の前まで歩いていく。



「では、確認のため自分の町と名前を告げて欲しい。では、そちらの端からお願いできるかな?」






「はい……ソイランド(土の町)代表、クリエ・ポートフと申します」



「フレイガル(火の町)から来ました、ルーシー・セイラムです」



「ラヴィーネ(風の町)代表の、エレーナ・フリーマスです」



「モイスティア(水の町)の代表で、ハルナ・コノハナです」



ハイレインはそれぞれに頷いて告げた。





「それでは、最後にお前たちの契約した精霊を見せてみよ!」





四人はハイレインに応えるため、自分の契約した一斉に精霊を呼び出した。






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