売れない人気ライトノベル作家と、その担当さんとの恋愛事情と、その結果。

月乃兎姫

<第1章>『キミにキスを、あなたに花束を。』

第1話 始まりはいつも王道で……

『あなたの口癖はなんですか?』

 人間誰にでも口癖があるように朝霧智也あさぎりともやにも当然それはあった。


「ほんとマジめんどくせぇ。この状況……」


 右手で後頭部を掻きながら面倒くさそうに、そうぼそりと呟いた。


 まぁ もっとも月曜の朝っぱらからこんな状況ならば誰しもそう言ってしまうだろう。それもそのはず、まるで漫画の主人公のような展開ならば余計に、だ。


「あぁん!? てめぇ……昨日奴だな! 確か2年の朝霧智なんとかだよなぁ?」


 見るからに頭が悪そうな……もとい不良のリーダーとおぼしき男が、智也に睨みをきかせながらそう言葉を吐き捨てた。


(いやいや、そこまで覚えてらっしゃるのなら最後まで言おうぜ。あと唾飛んでくるんでできれば離れてほしい)


 と智也は切実に願った。


「これはこれは。我が愛しの朝霧君ではないですかぁ? かの有名な名門私立フィリス学園サッカー部を代表する、期待の大エース様がこれは一体なんの真似でしょうかね?」


 この場にはとても似つかわしくない真面目そうな優男やさおとこ大津一哉おおつかずやが一歩前に出て喋りだした。『元』をやたらと強調され、更には中途半端にへりくだった敬語が智也の神経を逆なでするが、智也は反論しない。


 なぜ生徒会長でもある彼が不良共と一緒にいるかわからないからだ。



「別に大先輩方に用はないですよ。オレが用あるのはコイツだけなんでね」


っと何回も留年している上級生に嫌味を返し、智也の背中に隠れるようにいるクラスメイトを後ろ手に右親で指差した。


「あ、朝霧君」


 智也の制服を握り締めながら、智也のクラスメイトで転校初日の倉敷葵くらしきあおいは、今にも泣き崩れそうな顔で両目を瞑りながらそう声を絞りだした。


「うっせ。お前はそこでじっとしてろ。ぜってぇオレの背中から出るんじゃねぇぞ!」


 普段は感情をおもてにしない智也だったが、後ろで隠れている葵を安心させるようにそう言うと、茶目っ気に右目でウインクしながら「すぐ終わっからな!」っと葵を怖がらせないように少しだけ笑いかけた。


 智也の後ろに隠れている葵は「うんうん」っと震えながら頷いた。


「やれやれ……これではまるで我々が悪いみたいじゃないですか。ねぇ~……朝霧君・・・?」


 全然悪ぶれた素振りじゃない感じで、両手をこりゃまいったなっと言わんばかりに大げさに上げていた。それはとても軽い口調・素振りだったが、大津のだけは笑っていない。


「ほんと。なんでこんなことになったんだか……それは俺がの方が聞きたいよ」


 っと智也はため息混じりにそう呟いてしまう。その原因を語るには2日前の土曜日の午前中まで時間を遡らなければならない。

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