第40話 尾張統一戦、萱津の戦いの事
史実の『
織田信秀が亡くなって、家督争いで揉める弾正忠家を見限り、鳴海城の山口親子が裏切り、『赤塚の戦い』が起こります。
その後始末に追われる隙を突いて、信長方の松葉城と深田城が清州の坂井大膳らの一味に襲撃された戦いです。
松葉城と深田城には、織田伊賀守と織田信次と信長ちゃん支持派の織田一門の城でした。
犬山城の信清、守山城の信光(孫さん)も信長ちゃんを支持していたので、弾正忠家一門(信勝を除く)は信長ちゃんを支持していた訳です。
つまり、林秀貞と土田御前を筆頭に家臣団が信勝を支持し、弾正忠家一門は信長ちゃんを支持していた訳なのよ。
弾正忠家一門(信長派) VS 弾正忠家家臣一同(信勝派)
松葉城と深田城を攻めた坂井甚介・河尻与一・織田三位は、清州の坂井大善の指示で動いています。
その大善は清州が陥落すると、一目散に今川に亡命している。
鳴海城の山口親子の寝返りも今川の画策でしょう!
松葉城と深田城を攻めた事まで、裏で今川のプロディースじゃない?
誤算が1つあった。
信勝も柴田を援軍に送ったのよ。
織田一族が襲われて、見殺しにできなかったのよ。
戦いは、信長ちゃんの家臣である
織田伊賀守と織田信次を始末できなかったので、信長ちゃんの影響力は意地できた訳だけどね。
この後も織田一門が事故や事件や暗殺で姿を消してゆく。
ちょっとミステリーだと思わない?
後ろの正面、誰だ!?
◇◇◇
慶次様をリーダーに倉街の守備を担う警邏隊500人と黒鍬隊500人、馬600頭と馬車100台を船で輸送して、夜の内に土岐川(庄内川)の西岸に降ろした。
そして、私、信長ちゃん、慶次様の三人は松葉城が見える林で夜が明けるのを待っています。
私と信長ちゃんは居ない事になっています。
ですから、黒い装束に身を包み、頭の上から黒のマントを覆い被さり、口元を隠すスカーフのような物を捲いています。
誰が見ても私と信長ちゃんとは思わないでしょう。
「なぁ、忍、本当に松葉城を襲うのか?」
「松葉城か、深田城だと確信している」
「その根拠は何でしょうか?」
「1つは、清州の大和守家と岩倉の伊勢守家の確執かな? 一緒に連携して那古野を叩きましょうと手を繋ぐ事ができない」
「どちらが上かで揉める事になります」
「そうなると那古野に攻めるのには、稲生街道・美濃路・佐屋街道の3つでしょう」
「信安軍が木曽街道を進む可能性はないのですか?」
「ないね! 5,000人の兵で6万人が住む町の真ん中を通るかしら?」
「まぁ、ないだろうな!」
「あっ、なるほど! 稲生街道と美濃路は那古野手前で合流しています。つまり、信安軍は稲生街道、信友軍は佐屋街道から那古野を目指すしかない訳ですね!」
「そういう事!」
佐屋街道で土岐川(庄内川)の川渡しをやっているのは万場宿だ。
万場宿の舟渡しの西側に松葉城と深田城がある。
地図で見れば、一目瞭然だ。
退路確保の為に絶対に落としておきたいよね。
土岐川(庄内川)を渡った先は岩塚宿であり、その先は荒子城と米野城がある。
その城主である前田家と中川家が寝返っているので大した障害はすでにない。
見事な調略だ。
寝返りそうもない織田一門の織田伊賀守と織田信次を始末するだけで、織田の弱体は避けられない。
「おぉ、本当に来た!」
「慶次、疑っていたの?」
「話を聞いて納得はしていた。だが、そう巧く事が運ぶかは疑問に思っていた」
「実をいうと私もそうです」
「まぁ、仕方ないわね。私だって絶対とは思っていないから見張りを送っている。でも、確信はあった。不思議な事に同じ場所で戦は何度も起こるのよ。だから、条件が変わっても戦場はここになると思っていた」
「まぁ、その話は終わってからゆっくり聞くとしよう」
そう言って慶次様は林の奥に入って行きます。
日も明けない朝靄の中で清州から来た清州軍が松葉城に近づいてゆきます。
ばおおぉぉぉ~~~~~~ん!
法螺貝の音を合図に坂井甚介・河尻与一・織田三位の旗が一斉になびき、5,000兵が襲い掛かります。
不意を突かれた松葉城の対応が鈍く、撃ち返す弓の数がまばらです。
『一気に落とせ!』
弓矢の数で松葉城の守兵を圧倒し、大手門に丸太を運んで潰す準備に入ってゆきます。
織田伊賀守の反応が悪過ぎる。
まだ、頭が寝ているのぉ?
「こりゃ、半刻(一時間)もあれば落ちるね!」
「はい、近くの農民も避難して城に入れていますから、1,000に近い兵がいるハズですが、反撃の矢の数が少な過ぎます」
「せっかく、貸し出したクロスボウが役に立っていない」
貸し出したのは鉄砲10丁とクロスボウ500挺だよ。
ハッタリの一斉射撃で敵の勢いを消せるのに!
何やっているのぉ?
◇◇◇
ドドッ、ドドドッ、ドドッ、ドドッドド、ドドッドド、ドドッ、ドドドッ、ドドッ!
地響きのような音が近づき、騎馬隊の一団が軍の後背から一気に斜めに駆け抜けます。
ちょっと時間が掛かったのは、敵の背後に回る為です。
「おりゃ、おりゃ、おりゃ、らららぁ!」
赤い甲冑を身に纏った慶次様が駆け抜け、緑の迷彩服に軽装の鎧を身にまとった騎馬隊が後に続きます。
慶次様の後を『槍の三左衛門』と異名を持つ
勢いを殺さずに槍を捌き、生まれた道に500騎の武者が通り過ぎると、そこには死体の道が生まれるのです。
「二人とも動きが派手だから迫力があるわ!」
馬も怖い!
日本馬ではなく、ヨーロッパにいる重種の馬です。
日本馬は体高が125~135cmくらいで、体重も350~400kgと軽種と呼ばれる馬です。
ヨーロッパには重種と呼ばれる体高が160~170cmくらいで、体重も800~1,000kgもあります。中には200cmを超え、体重も1,300kgを超えてきます。
その超重量馬を慶次様と三左衛門が操っているのです。
他の500頭も重種です。
スピードこそありませんが、800~1,000kgの巨体にチタン製の鎧を身に付けさせた馬は歩く重戦車です。
槍捌きなんてオマケです。
しかし、余りの出来事に清州軍の動きが止まっていました。
坂井甚介・河尻与一・織田三位も武者が背負っている織田の旗で敵であると認識できますが、余りの出来事に何の指示も出せずにいるのです。
ダドドッ、ドドドッ、ドドッ、ダダッダッ!
騎馬隊が走り抜けると、松葉城の影から馬に引かれた荷馬車に乗った一団が現れます。
そして、荷台の上から弓とクロスボウが次々と放たれてゆくのです。
荷馬車というより、3人乗りのチャリオット(戦車)と呼んだ方がいいでしょう。
80台の戦車は160本の矢を打ち込むだけですから大した戦果はありません。
焼石に水です。
ですが、横を流れる一方的な攻撃に清州軍を混乱させるには十分でした。
城攻めをしていた前衛にとって、チャリオット(戦車)は目の前に飛ぶ蠅のようなものです。
「弓を前へ、槍を回らせろ!」
前衛がチャリオット(戦車)を捉えようと前掛かりになれば、本陣との距離が開きます。
戦がはじまれば、各々が好き勝手に指示を出すので混乱します。
戦国の
総攻撃と退却以外では、各個撃破になるのです。
それぞれの武将が好き勝手に動くのです。
斜めと横から揺さぶれば、軍が瓦解するのは、あっという間です。
「敵が割れた。突っ込むぞ!」
「「「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」」」」」」」」
慶次様が叫び、皆が応えます。
慶次様らは馬の勢いを殺さずに迂回して、最初から本陣への一点突破を狙っていたのです。
「うら、うら、うらぁぁぁ!」
目を輝かせて楽しそう!
坂井甚介・河尻与一・織田三位を守る肉の壁を蹴散らして、三人のいる本陣に迫ります。
大将らしい一人を見つけると、一直線に慶次の馬が駆けてゆきます。
「滝川慶次郎利益、いざぁ、尋常に勝負!」
すれ違い様に一閃です。
ドドッ、ドドドッ、ドドッ、ドドッドド、ドドッドド、ドドッ、ドドドッ、ドドッ!
慶次様らは足を止める事なく、通り過ぎてゆきます。
『坂井甚介様、討死』
大将の一人が討ち取られ、清州軍は崩壊寸前です。
否ぁ、これからです。
盾隊を集めて、重量馬を如何に止めるか!
そこに掛かってきます。
河尻与一と織田三位の力量が試されるとき?
「あららら、大将が逃げ出した」
「そのようですね!」
ある意味、見事です。
河尻与一と織田三位が一目散に逃げてゆきます。
残された武将たちも狼狽を隠せません。
「とにかく、退却だ!」
「退却」
「退却」
残された清州軍の武将の指示で伝令が走って退却を命じます。
今更ですが、松葉城を守っていた織田伊賀守が大手門を開いて討って出てきました。
おぉぉぉぉぉぉ!
松葉城の兵士が逃げる敵を追って行きます。
私と信長ちゃんは慶次様の横に移動します。
「終わったみたいだから、次に行ってくる」
「気をつけろ!」
「慶次もね!」
下手に討って出てきたので、慶次の仕事は松葉城の兵を守る護衛に変わります。
敵も馬鹿じゃないでしょうから、
下手をすると、松葉城の兵に甚大な被害がでるかもしれません。
そうならないように!
ちょちょいのちょいと抵抗勢力を潰すのが、慶次様の仕事に変わったのです。
ですが!
慶次様、やる気を失くして指揮権を三左衛門に預けます。
三左衛門は部隊を5つに割って、護衛に付かせます。
慣れたものです。
慶次様は馬上で寝転がって休憩を始めます。
「つまらん」
流石、大ふへん者です。
らしいけど、我儘だね!
うん、転移!
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