第30話 竹取り乱(3)の事。
「俺が織田三郎信長だ」
すっきりとした透き通る声が戦場に放たれたのです。
「我が同盟国である水野家の刈谷における乱暴狼藉が目に余るゆえに討伐に参った。今、ここで許しを請うならば、許してやろう。如何なさるか」
「話にならん」
信長の口上に付き合ってくるようです。
出て来たのは、重元の家臣です。
名乗ったけど、忘れた。
要するに、水野氏が衣ヶ浦で活動しているのが気に入らない。
自分達の取り分を分捕っているから襲い返していると言うのです。
行政も警察もない時代だからね。
「いずれにしろ、乱暴・狼藉を許す訳にはいかん」
「最早、問答無用。あれ射取れや者ども!」
ギリギリまで我慢していた弓士と弓隊の兵が信長ちゃんに向かって一斉に矢を放ったのです。
そう、弓の強者が放った矢は、矢先を揃えてさんざんに射てきます。
しかし、私と慶次様と宗厳様は少しも怯む事もなく、立ちはだかり、私は棍棒を、慶次様は槍を、宗厳様は刀を振り翳すのです。
ぶおん、ぶおん、ぶおん!
向ってくる矢をすべて切って落とす、敵も味方も息を呑み。
言葉を探り、目を見開いたのです。
おぉぉぉぉぉぉぉぉ!
突然の歓声、声が上がっているのは味方の陣です。
ふふふ、『矢切の忍』と呼んでちょうだい。
いやぁ、実際は反射の結界ですけどね。
切ってないし、弾いてもない。
「なぁ、忍。結界なしでも大丈夫だぞ」
「駄目です。弓の攻撃が終わるまで我慢しなさい」
「宗厳からも言ってやれよ」
「某は忍様の御心のままで」
「ちぇ、いい子ちゃんが!」
いやぁ~慶次様もかっこいいけど、宗厳様には及ばないんだよね。
大人の余裕。
あと4・5年もすれば、追い抜くと思うけどさ。
「えええい、何をやっておる。矢が駄目なら押し出せ!」
矢を射るのを諦めて、人数を押し込もうと押し寄せます。
私は金棒を30mもある長竹に持ち帰ると横に一振り。
「よいしょ」
さらに、逆にもう一振り。
「よいしょ」
押し寄せる敵を二撫ですべて横倒しです。
「これぞ、100万馬力の威力だ」
“10馬力です”
AIちゃん、突っ込まないでよ。
とにかく、一瞬で100人近い足軽が横倒しです。
それを待っていた
慶次様と宗厳様が走り出し、鎧武者を撫で切りです。
あれっ???
「さっさと立てよ。相手してやるから」
おい、予定と違うぞ。
慶次様は正々堂々と戦いを挑みます。
立ち上った鎧武者が槍を持って慶次様と対峙します。
「「いざ、参る」」
刹那!
すばらしい。
一瞬で鎧武者を討ち取って、その武威を示すのです。
「次は、誰だ!」
でも、次はないのです。
足軽は逃げ出し、近くの鎧武者の8つの首を、すでに宗厳様が落として終わっていたからね。
紅い噴水が噴き出しているくらいだよ。
ちぇ、慶次様はちょっと拗ねます。
宗厳様は容赦ない。
あれが鬼というモノだね。
「鬼じゃ、こんなの相手にできるか」
「俺は降りる」
「兄貴、待ってくれ!」
「逃げろ、殺される」
「助けて、おかちゃん」
倒すのは鎧武者のみ、足軽に要はない。
・
・
・
大浜軍長田重元の先陣100人くらいが瞬殺されたのです。
残る重元の下に200人くらいが固まっています。
動けないと言うより理解できないのでしょう。
何が起こったのか?
さて、私達を囲む稲熊氏、天野氏、永井氏の3土豪に突っ込んでくる勇気はあるか?
敵も味方も静まって、一瞬の静寂が訪れるのです。
そこで信長ちゃんの手が上がります。
だだだだだだだだだっだっっっん!
100丁の鉄砲が一斉に火が噴きます。
「何だ、何の音だ」
「織田の種子島です」
「おもちゃではなかったのか」
「恐ろしい音じゃ」
だだだだだだだだだっだっっっん!
だだだだだだだだだっだっっっん!
続け様に鉄砲が連射されて、恐怖が増幅されてゆきます。
次に信長ちゃんが腕を降ろします。
ぶしゅ~ん、ぶしゅ~ん、ぶしゅ~ん、ぶしゅ~ん!
鉄砲隊の後に配置したバリスタから竹槍が発射されてゆきます。
竹はしなるので矢の材料として不適切なのですが、豊富にあるので採用しました。
しかも、中空です。
これがいいのです。
特製ダイナマイトを放り込んで発射すると、着地した後に大爆発します。
どがぁ~~~~ん。
少し間隔が空いて、次の竹が爆発します。
どがぁ~~~~ん。
どがぁ~~~~ん。
私が造った特製バリスタの射程は1,000mです。
打ち出した竹槍が敵の後方に突き刺さってから大爆発します。
どがぁ~~~~ん。
打ち終わると、10人が一斉に弦を引いて、次竹槍を装着し、続けて発射されます。
「殿、後ろで大爆発が」
「判っておる」
竹槍が着地する場所がどんどん近くなって来ます。
焦っている。
焦っている。
最初から打ち込まれるより迫ってくる方が恐怖だよね。
「殿、如何なさいますか」
「それは進めという意味か?」
進むと言う事は、あの朱染めした甲冑武者『赤鬼』の前に身を晒す事です。
「すでに前衛は崩壊し、お味方の必要なしかと」
「おぉ、そうであるな。大将が戦う気がないならば、我らは無用であるな」
「はぁ、大将は戦う意志もなく、ただ立ち尽くすのみ。最早、勝敗は決しました」
「ならば、帰城するぞ」
「全員反転」
退却ではありません。
城に帰るのです。
「帰城」、「帰城」、「帰城」、「帰城」、「帰城」
伝令が走り、西条の吉良家臣が生き返ったように反転してゆきます。
それを見た長田氏や熊谷氏の足軽達が逃げ始めます。
世知辛いね。
百姓が殿の為に命を惜しむ訳もなく、金で雇われた加世者はさらに逃げ足が速い。
一角が崩れれば、蜘蛛の子が逃げるように散ってゆきます。
「逃げるな! 留まれ! 留まれ!」
武将達の声はむなしく、ただ叫んでいるだけです。
長田城の長田、棚尾城の熊谷、東端城の神谷、石川丈山城の石川、木戸村城の石川の兵は四散し、最早これまでと退却を開始します。
冗談じゃないと、稲熊氏、天野氏、永井氏の三土豪も逃げ出します。
残されるのは、長田重元の軍のみです。
しかも足軽共はすでに逃げており、ここに残るのは死ぬ事と同義なのです。
「殿、お逃げ下され」
「どうしてこうなった」
「赤鬼の所為でございます」
「赤鬼が織田に助力した所為でございます」
「えええい、退却だ」
信長ちゃんが両手を横に広げたので、バリスタの攻撃が終わります。
『勝鬨を上げよ』
信長ちゃんの声に足軽達が大きな声を上げます。
『えいえいおぉぉぉぉ、えいえいおぉぉぉぉ、えいえいおぉぉぉぉ、えいえいおぉぉぉぉ』
それに取り残されているのは、譜代衆のみなさまです。
「林殿、どうなってしまったのでしょうか」
「我らが勝ったと言う事でしょう」
「しかし、竹槍の後に、我々が突撃すると言う話は?」
「どうぞ、突撃して下さい」
「「「林殿」」」
鉄砲にしろ、バリスタにしろ、2,500人の敵兵を倒す能力はありません。
脅しです。
ハッタリです。
敵が信長ちゃんを相手にせず、本隊に攻められた場合、織田は数的に負けていたのです。
(私が本気を出さないと言う前提でね)
ホント、破れかぶれにならなくてよかったよ。
「初勝利、おめでとう」
「ありがとうございます」
「初陣が無事に終わってよかった」
「では、大浜城まで兵を進めます」
「うん、予定通りだね」
遠見で戦を見物に来ていた衣ヶ浦湊の地元衆は、
そういう寺もあるんだね。
衣ヶ浦では、季節外れの赤潮が出たとかで騒いでいたんですよ。
もちろん、知りませんよ。
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