悠斗:霊力操作
「手にしたいものを心に思い浮かべるんだ」
サイラスの言葉に従って、錫杖を心に描く。師匠から譲り受け、長年愛用してきた錫杖は、何度も俺を助けてくれた相棒だ。棒だけに。
馬鹿なことを考えたせいか、なかなか思うような形にならず、不安定なまま霞になって消えてしまう。
「いきなり大きなものは無理じゃろ。そうさなぁ、バファの実はどうじゃ?」
「あぁ、あのオレンジみたいな柑橘系の果物か」
ゴースの忠告に従って、俺は丸い果物を思い浮かべた。バファの実は見たことあるが、馴染みがないので思い浮かべるのはオレンジだ。
手の中心から霊気が流れ出し、丸く膨れる。丸だ、丸。丸い果実を思い浮かべろ。
安定しなかった霊気が、ゆっくりと丸い形に固まっていく。やがて、俺の手の上に、オレンジが一個現れた。少し凸凹した表面もオレンジそのものだが、色が白だ。ま、仕方ない。
「ふむ。できたようだな。では、手のひらを下にしてみようかのぅ」
「こうか?」
手を返しても、オレンジは重力に逆らって手の平に付いたまま。重さも感じないし、なんだか変な感じだ。とはいえこのオレンジも俺の身体の一部だから、当たり前っちゃ当たり前か。
「その果実だけを、手の甲に移動させてみるんじゃ。手は動かさずにな」
手品師か、と突っ込みたくなるのを我慢して、集中する。オレンジがユラユラと揺れて、少しずつ少しずつ動き始める。イメージとしては、オレンジが自分で動いているんじゃなく、オレンジを載せた台が動いている感じで……よっと、オレンジが手の甲の上にのった。余計に一周回ったのは、まぁ許容範囲だろ。
「作り出したものを自由自在に操れるようになるまで、ひたすら訓練じゃ」
「オレンジ、じゃないバファの実で?」
「当面は、な。お主は、霊気の練りが足らんと見た」
練りって。和菓子じゃないんだから。まぁ、年長者(霊でも年齢関係あるのか?)の言うことは聞いておこう。
※
二日で、オレンジを自由自在に動かせるようになった。動かせるだけじゃなく、ふたつみっつと数も増やせるようになった。それ以上だと気持ち悪くなりそうでやっていないが、十個くらいなら同時にオレンジを生やすことができそう。いや、だから気持ち悪いって。
「ふむ。ようがんばったの」
「他にすることもないからなぁ」
ゴースと話をしながら、俺はオレンジを頭の上でクルクル回して見せた。
「では、そろそろ次の段階に移ってもいいじゃろう。こんどは、バファの実の形を少しずつ変えて見ぃ」
「おう」
力強く答えて、俺はオレンジの実を手の平に出す。そして、そのオレンジの実をゆっくりと楕円形にして……。
「飲み込みがはやいのぅ」
「大分慣れたんでね」
「では、棒にしてみよ」
言われたまま、棒をイメージする。楕円形にひしゃげた果物が、ゆっくりと棒の形になっていく。なんとなく分かってきた。霊体を無理矢理イメージしたものに変えるんじゃなく、イメージで作った型枠に霊体を流し込む感じ。
俺の手の上に、長さ三十センチほどの棒があった。振ってみる。重さはない。霊体なんだから当たり前。でも、何かを手にして動かせるということで、気持ちが全然違う。
「今の感覚を忘れずに、何度も作ったり消したりするんじゃ。身体が覚えれば、簡単に出せるようになる」
「なるほど」
棒を出しても意味がないので、俺は棒ではなく使い慣れた独鈷杵をイメージした。うーん、細かい部分の細工はいまいち再現されていないが、まずまずか。これで練習しよう。
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