第27話

 三日月の出ている夜の事である。わたしは眠れないでいた。自室で読書をしているとノックの後、姉の愛菜がドアを開ける。


「明かりが見えたから来たけれど。まだ、起きているの?」

「えぇ、今夜は季節の移ろいを感じさせるいい風が吹いているの」


 わたしは少し嘘をついた、三日月が目に焼き付いて眠れないのだ。そう、自分の顔を鏡で見ると椿色の瞳が三日月の様に欠けて見えた。まるで幻術にでもかかった様に不思議な気分であった。その気分は頭を覚醒させて眠るのを邪魔していた。


「わたしの瞳は普通?」


 わたしは姉に三日月に欠けた瞳の事を問う。


「えぇ、普通よ」


 姉は不思議に答えるのであった。わたしは姉の前で再び鏡を見ると椿色の瞳が輝いていた。普通だ……。三日月が幻覚を見せていたらしい。わたしは姉と一緒に寝静まったキッチンに向かい。紅茶を入れる。姉の愛菜もわたしの入れた紅茶を飲む。


「薄いわ……」


 喧嘩を売っているのかと思いきや、確かに薄い。やはり、夏の入れた紅茶の方が美味しい。


「落ち着いたわ、夜も遅いし寝ましょう」


 わたしの言葉に姉は頷きそれぞれの自室に戻る。それから、市販の眠剤を飲みベッドに横になる。わたしは薄暗い部屋の中で右手を上に伸ばす。あの、三日月に見えた瞳は何であったのであろう……?わたしは魔女を自称しているがごく普通の人間である。少し眠い……寝るか。日差しが部屋の中を照らしていた。気がつくと朝であった。


「恋菜様、お時間は大丈夫ですか?」


 夏の声がドアの外から聞こえる。わたしは時計を見るとこんな時間かと思う。

急いで支度をしたので寝ぐせがついているのが後で分った。やれやれ、失敗だ。

わたしは朝から跳ねた寝ぐせを気にする破目になった。

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