メリーメリークリスマス♪
ありま氷炎
いち
町を彩るクリスマスのイルミネーション。
日中の間はその鮮やかな光を放つことないけれども、雪の結晶、クリスマスツリー、ベル、などを形どったチューブやライトが風に揺れて、華やかな雰囲気を町全体に与えていた。
そんな中、一人でうつむき加減で歩いている少女がいる。
少女の名は柱木(はしらぎ)涼子、17歳。
花咲き誇る無敵のJK、女子高生の……はずだった。
けれども悲しいかな、涼子はもさっとした黒髪、眉毛も手入れされていない、垢抜けていない外見をしていて、花というか雑草という類だった。
性格も不愛想、他人に無関心で、クラスの隅で影を作っているようなぼっち体質だ。
友達もいない彼女は自宅に帰ると、スマホをいじりたおす。または購入した漫画や小説を読み倒す。そんな毎日を送っていた。
母親はそんなぼっちな娘が心配でかまいたがり、それで喧嘩するのはいつものこと。
「化粧くらいしたらどうなの?そんなジャージばっかり着て」
華やかな彼女のクラスメートに比べ、母親は涼子に文句を垂れる。
「クリスマスとか何も誘いもないの?」
「ないけど」
「毎年ほかの子は集まっているみたいだけど、本当に誘いはないの?」
「うるさいなあ。私は一人がいいの!人に合わせるなんてまっぴらなの!」
「そんなんじゃ、社会に出たとき」
「うるさい!だったら、毎日出歩いて、遅く帰ってきてほしいの?そして、そのうち帰らなくなったら幸せ?」
「そんなはずないじゃないの!私はただあんたが心配で」
「余計なお世話なの。私の人生は私の人生。勉強だってしてるでしょ?私に構わないで!」
日頃の不満がたまっていた涼子はとうとう母親を怒鳴りつけてしまった。
すると母が泣き出し、居たたまれなくなった彼女は家を飛び出す。
――へ、くしゅん!
親父もびっくりなクシャミをして、涼子は自分がいかに薄着をしているかに気がついた。感情が落ち着き、やっと状況を把握したのだ。
勢いで部屋着のままで、財布どころかスマホすら持ってきていない。家に帰ればいいのだが、ムカムカして帰る気持ちになれず、せめてと外気をさえぎるため、彼女はショッピングセンターに入ることにした。
自動ドアが開き、中に入る。
数歩歩いたところで、後方でものすごい音がした。
振り返るとトナカイがドアにぶち当たったらしく、ひっくり返って気絶していた。
「ど、どういうこと?」
「責任とってもらいましょうか」
背後に現れたのは、白いヒゲに瓶底眼鏡、赤い衣装をきた体格のいいサンタクロースだった。
☆
(私、きっと。悪い夢みてるんだ)
ショッピングセンターの一角にある長椅子に涼子は腰掛けている。
その隣にはウェンスタンサイズのでっかいサンタクロースのおじいさん。腕にはトナカイを抱えていた。
「君のせいで、僕のトナカイが怪我をしてしまったようだ。この責任をどう取るかね?」
「いや、そんなこと言われても」
サンタクロースの格好をした変人とトナカイは、どうやら涼子以外には見えていない。怪しいサンタが現れた瞬間、逃げ出そうとしたのだが腕を掴まれた。
悲鳴をあげて助けを求めたのだが、変な目で見られるだけで助けてくれる人はいなかった。自動ドアの前で目を回しているトナカイに関しても、それを踏みつけて中に入ってくる人がいたりして、どうやら、誰にも見えていない。
誰にもではなく、涼子にしか見えていないようだった。
サンタクロースとトナカイの幽霊なんて聞いたことがない。しかし、実際にいたらしい。
「トナカイがいないと、プレゼントが配れないんだよねぇ。どうしてくれるんだ?」
「いや、だから。そのトナカイって全然怪我してないじゃないですか?大体、私のせいって、意味がわかんないんですけど」
このサンタとトナカイが見えていない人にとって、涼子が独り言を言っているようにしか見えない。だから変な視線を感じるので、涼子は早くこの幽霊だかなんだかよくわからない存在から逃げたかった。
「君のせいだよ。どうしてトナカイが中に入るまで待ってくれなかったんだ。おかげで、閉まったドアにぶつかってしまったじゃないか」
(ぶつかるって。大体これもおかしい。幽霊ってものをすり抜けるんじゃ?まあ、サンタのコスプレした人の幽霊なんだけど、頭おかしんだろうなあ。トナカイも一緒に死んじゃって。事故なのかなあ。それとも自殺?トナカイと一緒に自殺なんて、あまりにもひどい)
そう思うと、トナカイが哀れになって、涼子は逞しいサンタの腕の中で気をうしなったままのトナカイを見つめる。
「まあ、いい。責任はとってもらうから」
「は?責任?」
「当然だろう。君はトナカイの代わりに僕の助手をしてもらう」
サンタがトナカイを抱いたまま、立ち上がる。
空いた片手で、某紫色の悪役のように指を鳴らした。
「まっ」
何かがふわりとまとわりついた。
すると一瞬視界が真っ暗になり、再び明かりを取り戻す。
明かりに慣れるため、目を瞬かせていると金切り声が聞こえてきた。
「いなくなったわ!突然人が!」
それは涼子をちらりちらりと見ていたおばさんで、こちらを指差して騒いでいた。
(何言っているのよ)
そう声に出したつもりなのに、声がでなかった。
視点が妙に低いのも気になる。
「さて、僕の家に招待しよう。そこで君の仕事の説明をする」
サンタの声がして、抱きかかえられた。
(ちょっと何?!変態?!)
サンタの右腕にがっちり腹部を抱きかかえられしまい、涼子は暴れる。そうして彼女は自分の手足が茶色くて、毛むくじゃらなことに気がついた。
(どういうこと?)
「君は僕のトナカイになったんだ。クリスマスまでプレゼントを全部届けることができたら、元に戻すよ。責任を取らなきゃね」
(はあ?)
逃げ出そうとして暴れるが、サンタの腕はまったく動じず、涼子は最終手段に出た。
「いたっ!」
がぶりと腕に噛み付くと力が弱まり、彼女は一気に駆け出す。
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