頭の中グチャグチャだよぅ……!
「今度はわたしの体が目当てなの!? お兄ちゃんのエッチ! ヘンタイ!!」
マイがちょっと涙のにじんだ目でにらみつけてくる。
どうやらひどい誤解をされているようだ。
いやまあ普通は高校生の兄と中学生の妹が一緒にお風呂に入ったりはしないだろうから、変な想像をされるのも仕方ないのかもしれないが。
でもお風呂に入るだけで体目当てになるのも想像が飛躍しすぎじゃないか。
「一緒にお風呂に入るだけだぞ。どうしてそんなことになるんだ」
「だったらどうして一緒に入りたいなんて言い出したのよ!」
「昔はよく一緒に入ってたじゃないか」
「小学校に入る前の話でしょ!」
「じゃあ10年ぶりくらいになるのか。久しぶりだな」
「なんでもう入る前提になってるの! だ、だいたいお兄ちゃんはなじみさんが好きなんでしょ! なのに、わたしとそんなこと、ダメに決まってるよ……!」
「そんなことはないぞ」
「あるよ!」
「まあ待て。確かに俺はなじみと付き合っている。たとえば、そんな俺が他の女の子と一緒に暮らしてるって言ったらどう思う?」
「死ねばいいと思う」
きっぱりと即答された。
気持ちは分かるけど、死ねまでは言い過ぎだとお兄ちゃんは思うんだ……。
「とにかく、そんなやつはクソ野郎だとは俺も思う。でもこうしてマイと一緒に暮らしてても、なにも思われないだろう」
「そりゃ、家族なんだからそんなのは当然……」
言い掛けたマイがはっとして目を見開いた。
「そう、家族なんだから当然なんだ」
「家族なら、一緒にいてもいいの……? 好きになってもいいの……?」
「当然だろ。だって家族なんだから」
「で、でも、お風呂に入るってことは、その……」
ちらっと俺の体を見る。
体というよりは、なんとなく下のほうを見ているようにも思えた。
「どうした?」
「お、お兄ちゃんは、恥ずかしくないの……? その、裸を見るのが……」
ああ、なるほど。
たしかに言われたら気になるかもしれない。
何気なくマイの全身を見つめる。
マイは母さん似のため、ひいき目に見てもやっぱりかわいい。
中学生だから発育は今後に期待だが、母さんの遺伝子を継いでいるのなら、将来はきっと立派に育つだろう。
うんうんとうなずいていたら、急にマイの両腕が自分の体を抱きしめた。
「なんか目つきがイヤらしい……」
「そんなことないだろ。普通にマイはかわいいなって思ってただけだぞ」
「え、あ。そ、そうかな……。わたしかわいいかな」
「ああ、もちろんだ。自慢の妹だよ」
「そっかな……。えへへ……」
「体のほうはまだまだだけどな」
「やっぱりイヤラシい目で見てたんじゃん!」
「いやいや、そんなことないって。それよりもマイから見て俺はどうなんだ」
「ふえっ?」
「マイは俺のことをどう思ってるんだ」
「あ、そ、それは……」
真っ赤になってうつむいてしまう。
「その……お兄ちゃんは、すぐに変なこと言うし、わたしのことイヤラシい目で見てくるし、デリカシーがないと思うけど」
あれっ、てっきりほめられる流れだと思ったんだけど。
「でも、なじみさんのことを話す時はすごく楽しそうだし、とっても大事にしてるのがわかるし、そういうところはすごくいいと思うっていうか……わたしも、彼氏ができるとしたら、お兄ちゃんみたいな人がいいって言うか……うう~、なにいってるのわたし~~~~っ」
最後には真っ赤になった顔を両手で覆い隠してしまった。
「そうか……。うれしいよマイ」
「ううううう~~~~~~」
なぜかポロポロと涙をこぼしはじめる。
「ど、どうしたんだ」
「わからないよぉ……。お兄ちゃんを好きになっちゃダメなのに、ダメだってわかってるのに、お兄ちゃんのせいで心の中ぐちゃぐちゃだよぅ……」
支離滅裂なことを言いながら細い腕で俺に抱きつく。
俺はその頭をゆっくりとなでてやった。
「お兄ちゃんのバカぁ……。大好きぃ……」
この後めちゃくちゃお風呂に入った。
番外編:デートの予行演習 ~side.M~
功が舞の部屋へと入っていった。
兄妹なんだからそういうこともあると思うけど、このあいだの例もある。
もちろんいかがわしいことなんかするわけないけど、やっぱりちゃんと二人のことを見守ってあげるのが母親としての務めだ。
二人を疑っているわけではない。
むしろ二人のことは信用している。
信用しているからこそ、やっぱり私の杞憂であったと確認して、それでこの件は終わりにする。そのために確認をしないと。
部屋の扉に近づき、そっと聞き耳を立てる。ちょうど舞の叫び声が響いた。
「わたしの体が目当てなの!? お兄ちゃんのエッチ! ヘンタイ!」
やっぱりそういう関係だったのね!
……いえ、ちがうわ。きっと何かの聞き間違いよ。だいたい舞はこうして否定しているじゃないの。
妹に関係を迫る兄は問題があるけれど、舞がちゃんと拒否してくれれば問題はないわ。
兄妹の仲がいいことは悪いことではないんだし……。
そう、そうよ。
まだ決めつけるべきじゃないわ。もっとよく状況を確かめないと。
私はもう一度部屋の扉に耳を当てた。
すると、マイの濡れたような声が聞こえてきた。
「お兄ちゃんのバカぁ……。大好きぃ……」
もう落ちてる!?
ああ、やっぱり二人の教育を間違えたのかしら……。
私はふらふらとした足取りで自分の部屋へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます