好きになってもらいたいから
ちょっと集中力が中だるみしてきた頃合いに、となりに座るなじみが俺の方へと体を寄せてきた。
一通りの勉強が終わったことで、ついに攻勢に出てきたようだ。
「ねえねえコウ、この単語ってどういう意味?」
そういいながらさりげなく体を傾けてくる。
寄りかかってくるから腕もくっついているし、サラサラの髪がうなじのあたりに当たってめっちゃやわらかくてめっちゃ気持ちいい。ふわりとただよう香りが鼻をくすぐって危うく意識が飛びかけた。
「あれあれ~?」
俺のすぐ真横からニヤニヤした笑みが見つめてくる。
「どうしてそんなにアタシから顔を背けるの? もしかしてドキッとしちゃったのかな?」
からかうように言いながらさらに顔を近づけてくる。ガチ恋距離がうれしすぎて顔がヤバい。俺はますます顔を背けた。
こんな顔を見られたらせっかく隠してるのにめちゃくちゃ好きだって一発でバレてしまう。
それもこれも、なじみがかわいすぎるからだ。
「なじみがかわいすぎるからだ」
おっと、つい本音が口から漏れてしまった。
「……えっ?」
なじみも驚いたように俺を見つめている。
「あ、いや、なじみがかわいいのは生まれたときからなんだけど……、今日のなじみはいつも以上にかわいくて、それでつい……」
「そ、そんな、急にほめたりしないでよ……。でも、そんなこと言うってことは、コウはアタシのこと好きってことなんだよね?」
「そんなの当たり前だろ」
俺がそういうと、なじみが感激に目を潤ませた。
「コウ、やっと認めてくれたんだね……。これでアタシたちやっと一緒に……」
「だって、そんなに俺に近づいてくるのは、それだけ俺に好きになってほしいからだろ?」
「え……?」
「なじみがそんなに俺のこと好きなのかなって思ったら、すげえうれしくってさ……。いやもちろんなじみのことは最初から好きなんだけど、今のでもっと好きになったっていうか……。おかげで、さっきから顔がニヤケるのを止められないんだよ」
なじみの顔がぼぼぼっと赤く染まっていく。
慌てたように俺から離れてしまった。
「ち、ちがっ……! これはそういうんなじゃにから……!」
「えっ、ちがうのか……?」
それはそれでメチャクチャ落ち込むんだけど。
「ああっ、そういう意味じゃなくて、違うんだけど違わないというか……。確かに、言葉にすれば、その……コウがアタシを好きになってくれたら、うれしいというか……」
「そっか……なんか、ありがとう……」
「そ、そんなにうれしそうな顔しないでよ……! アタシまで恥ずかしくなってくるじゃない……!」
「いやだって実際うれしいし。まさかなじみが、俺のことをそんなに好きだなんて思わなかったからさ……」
「こ、コウこそ、それくらいでうれしくなるなんて、アタシのこと好きすぎるでしょ……っ。そりゃもちろん、アタシもコウのこと好きだけど……」
「いやいや俺だってなじみのこと好きだぞ」
「アタシだってコウのこと好きだよ」
「まあなじみの方が俺のこと好きみたいだけどな」
「コウの方がアタシのことを好きみたいなんだけど」
「なじみの方が俺のこと好きだろ!」
「コウの方がアタシのこと好きでしょ!」
「早く素直になって俺と結婚したいって言えよ!」
「コウこそいつになったらアタシにプロポーズしてくれるのよ!」
「「なんだとおおおおおおおお!!」」
俺となじみがにらみ合うあいだ、佐東と志瑞は黙々と勉強していた。
「あー今日も勉強めちゃくちゃはかどるなー」
「皮肉なんていうだけ無駄よ。どうせこの二人には聞こえてないんだから」
「というか、こんだけ大声出してるのに店内の誰も驚かないのすごいな」
「もう学校中に知れ渡ってるからね」
「このファミレスってたまに他校のやつも利用してるよな」
「他校にまで知られるのも時間の問題ね」
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