証拠ならあるぞ
なじみがこんなにやる気を出すなんて滅多にないことだ。
今のうちにさっそく勉強をはじめることにする。
「とりあえずノートを見せてくれ。どこまで勉強してるか確認したいからな」
「はいどーぞ」
なじみがノートを開いて俺に差し出す。
見事なまでに一ヶ月前からなにも進んでいなかった。
「よくそんなドヤ顔で見せられたな」
「えへへ、すごいでしょ」
「逆にな」
先月の勉強会以来、一文字もノートを取ってないってことなんだからな。
少しくらい不安になったりとか……しないんだろうな。
いつも幸せそうな顔で寝てるし。
「そういうなじみの楽観的なところが俺は好きだけどな」
「コウがいつもノートを貸してくれるから、アタシも安心して授業中に眠れるんだよ」
「じゃあなおさらちゃんと教えないとな」
「えへへ、頼りにしてるからね」
「つまり崎守が諸悪の根元ってことじゃない」
志瑞の的確なツッコミは聞こえなかったことにしよう。
英語の小テストはその月にやった範囲から出題される。
なので今日の勉強会も、月初めの授業から順に復習していく形になった。
ちょうどなじみは一ヶ月前からなにもしてないので、ノートを書き写すのもそこからはじめることになる。
ノートを書き写しつつ、俺たちはそのころの授業を思い出しながら勉強するのだが、なじみがノートでわからないところを聞いてきたり、他の人がわからないところを質問したりすると、上手い具合にかみ合ってお互いにいい勉強になるんだよな。
また、なじみが疑問に思いそうなところは先回りしてノートにメモしてある。
だからそこを見るだけでも、俺にとってもいい復習になるんだよな。
佐東も俺のノートを確認していた。
「功のノートはいつもわかりやすくまとめられてるから、こっちも助かるよ」
「そういってもらえると、がんばってまとめたかいがあるよ」
「いつもありがとうコウ」
「気にするな。おかげで俺の復習の役にも立ってるしな」
それは本当だが、やっぱりなじみにほめられるとうれしいし、やる気も出るよな。
よーし、ちょっと真面目に勉強しようかな。
俺たちの思いがひとつになったのか、やがて私語もなくなり、静かに勉強をはじめた。
まわりが真面目に勉強していると、なぜか自分も真面目にやらなきゃって気持ちになるんだよな。
一人だとついつい誘惑に流されがちになるけど、みんなでやるとやっぱりはかどる。
「あーっ!」
そんな静寂の中に、急になじみの大声が響いた。
「どうしたんだ」
「アタシよだれ垂らしながら寝てないんだけど!?」
ノートを開いて俺に見せつけてくる。
どうやら居眠りしているなじみを描いたイラストを見つけてしまったらしいな。
やっぱり怒ったか。うんうん、予想通りだったな。
「なんでちょっとうれしそうにニヤニヤしてるのよ!?」
おっと、さすがなじみは鋭い。
「そういうと思ってたから、ちゃんと証拠を用意しておいたぞ」
「えっ、ま、まさか、アタシの寝顔の写真を……?」
「ああ。ちゃんと動画に納めておいた」
「動画!?」
うちの学校は授業の撮影も許可されてるからな。
それをちょっと横に向ければバッチリとなりの席も取れるんだよ。
「もー消して消して! そんなの消してー!」
再生しようとする前に、なじみが俺のスマホを奪って動画を削除する。
ああ……、俺のなじみの寝顔コレクションが……。
「まあいいか。志瑞もその動画持ってるしな」
「和歌ちゃん!?」
怒りの矛先を向けられた志瑞が面倒くさそうに顔を上げる。
「あんたの彼氏が授業中に『天使見つけた』とかいって動画を送りつけてくるのよ」
「なじみはいつも寝てるからなあ。コレクションが増えて大変助かっている」
「ううう~……! もう寝ない! 授業中はもう絶対寝ないもん!」
涙目で宣言するなじみを、俺は笑いながら見守っていた。
なじみはずいぶん固く決意したみたいだが、それと同じことを先月も言ったんだよなあ。
次こそちゃんと勉強してくれるようになるといいんだが……。
そんなことを考えながら、俺は再びノートに向かう。
やがて志瑞のスマホを確認していたなじみが、再び俺に向けて怒りの声を上げた。
「やっぱりアタシよだれ垂らしてないんだけど!?」
やっべバレた。
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