不束者ですが
「俺の家に来いって、それはつまり……結婚しよう、って意味だよね……?」
「あ、ああ……。まあ、そういうことになるな……」
顔を赤くするなじみに、俺はうなずいて答えた。
「………………」
「………………」
今更冷静になってきたが、いきなり結婚しようだなんて、急すぎるにもほどがある。
ひょっとして俺はものすごい恥ずかしいことを言ったんじゃないのか?
俺は親父と「なじみが俺の家に嫁入りに来るなら結婚を認める」と約束した。
まだ高2になったばかりの俺がどうしていきなりプロポーズをしたのか、その理由を説明しようと思ったが、そうするとまるで「家のために告白した」みたいになりそうな気がしていえなかった。
あるいは、家を出る、という選択肢もあったかもしれない。
そうすればあんなやつとの約束を気にする必要もないからな。
でも、なじみのためにそんなことをしたと知ったら、なじみはきっと悲しむだろう。
それも、俺にそれを悟らせないために笑顔で悲しむはずだ。
なじみにそんな顔はさせたくない。
だからやっぱり、正直に告げるわけにはいかなかった。
なじみを説得して俺の家に来てもらう。これが一番いいんだ。
まあ今更余計なことはいわなくてもいいよな。
なじみも告白したんだし。
どっちからなんてこだわることでもないはずだ。
しばらくして、一度は泣きやんだはずのなじみの瞳から、再びぽろぽろと再び涙がこぼれだした。
「お、おい、どうしたんだよ」
「だって……コウはいつも、アタシが言ってほしいことをいってくれるから……」
「えっと、じゃあ……」
なじみが目元の涙を拭い、輝くような笑みで答える。
「はい。不束者ですが、よろしくお願いします」
普段のなじみからは想像もできないようなしおらしい仕草でお辞儀をした。
「……は、はは。そっか。よかった」
どっと安堵が全身にのしかかる。
成り行きでいってしまったけど、なんだかんだで全部上手くいってよかった。
俺たちはキスどころかまだ手もつないでいないのに、もう婚約までしてしまった。
なんだか順番がむちゃくちゃだが、それも俺たちらしいといえばそうなのかもな。
「へへ、なんだか恥ずかしいね、アナタ」
「いや、さすがにその呼び方はまだ気が早すぎだろ」
「そんなこと言っちゃって~、ほんとはうれしいくせに。顔がニヤケてるよ」
「そりゃそうだろう。こんなにかわいい子が彼女を飛び越えて結婚までしてくれるっていうんだから、うれしくないはずがない」
「そ、そんなストレートにいわれると、アタシもさすがに恥ずかしいな……」
「そんなに照れるなよ。俺まで恥ずかしくなってくるだろ……」
お互い顔を赤くしたままチラチラと相手の顔を見つめている。
なんだこれ。幸せ過ぎか。
「あ、そういえば、結婚してあげる代わりにひとつ頼みたいことがあるの」
「してあげるってなんだよ。自分がしたいんだろ」
「プロポーズしてきたのはそっちからでしょ。コウの方があたしと結婚したいくせに。そりゃもちろん、コウと一緒になれるのはすごくうれしいけど」
「俺だってなじみと一緒になれるってだけでめちゃくちゃうれしいよ」
「そ、そうなんだ」
「あ、ああ。まあな」
またお互い照れ照れとしてしまう。話が進まん。
「それで、頼みたいことってなんだ。エッチなことでもなんでもいいぞ」
「エッチなことなんて頼まないよ!」
「なんだ、そうなのか。顔が赤いからてっきりそうなのかと」
「それにアタシたちは恋人同士だし、将来結婚もするんだから、その、そういうことは……いつかは、するんだし……」
「あ、ああ。それもそうだな……」
そうだよな。
俺たちはもうそういう関係なんだ。
いつかは、なじみと……。
「……なにじろじろアタシの胸ばっかり見てるのよ。イヤらしい」
「ば、ばっか! 見てねえよ!」
ウソです。めっちゃ見てました。
でも今の流れなら仕方ないよな?
俺は空気を変えようと、わざと大きく咳払いをした。
「それで、なじみからの頼みごとってなんだ」
「あ、うん。あのね。実はコウに……、アタシの家へ婿養子に来てほしいの」
「え……?」
俺は思わず呆けた声で聞き返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます