第6話 まあ、彼女欲しいって思わなければクリスマスなんざただの一日に変わってくれるさ。
次の月曜日。一限二限と授業を受けた僕は昼休みに同じ授業を取っている友達と学食でお昼ご飯を食べていた。
「そういや上川―、ゼミのレポート書いたかー?」
「いや、まだ五百字くらいしか打ってないよ」
「四千字ってなんだよーって感じだよな、ほんとあの教授厳しいよ」
「……まあそれには同意しておくよ」
「まあ、書いてないならいいや、なんかいい参考文献あるかどうかだけ聞こうと思っていただけだし」
「ん」
僕は学食の二五〇円のたぬきそばをずるずるとすすりながら首だけ縦に振る。もっとお金を出せばもっと美味しくていいものを食べられるけど、お金が本や漫画やDVDに溶ける僕にとって食費の削減は最優先事項だ。安く済ませられるのならそうする。
「……もうすぐクリスマスとあって、大学のなか男女二人でいちゃつくリア充共が増えてきたな」
「まあ、気分も上がるしねー」
「俺のタイムラインもなんかそういう写真ばっかり流れてきてよ、なんだよ、見せつけてんじゃねーよこちとら血の涙を流してお前らの黒歴史眺めているんだぞってな」
「黒歴史確定なんだね」
「あったりまえだろ? そんなイベント直前に『わぁ、クリスマスに彼氏彼女とデートしている俺、私、いいね』とか考えているやつらなんか長続きするわけないだろっ」
「でもクリぼっちは?」
「嫌だよぉ……一人アパートでクリスマスケーキなんか食いたくねぇよぉ……」
「……永遠のテーマになりそうだね」
クリスマスが近づくにつれ愚痴が激しくなる友人を温かい目で見守ることにしつつ、たぬきそばの最後のそばを食べきる。
すると、
「あ、あの……上川君……このあと、授業ある……?」
僕と友達の近くに古瀬さんがおずおずとやって来た。
「あ、古瀬さん……いや、今日は二限で授業終わりだけど、どうかした?」
「こ、この間のお願いの続き、いいかなって……」
「うん、いいよ。今すぐのほうがいい?」
「できれば……」
「オッケ―わかった。じゃあ、そういうことだから、僕もう行くわ。じゃあね」
どんぶりが載ったトレーを持って僕が席を立ちあがると、前に座っていた友達は絶望しきった顔でこちらを向き、
「か、上川、貴様まさかお前まで俺を裏切る気か……!」
「はいはい。そんなんじゃないからねー」
そんなんだったらどれだけよかったか。ま、もうこの話は吹っ切ったからいいとして。
「いこっか、古瀬さん」
「あ、ありがとう……」
わめく友人を背中に、僕と古瀬さんはこの間話を聞くのに使った0号館へと向かった。
0号館は簡単な喫茶が二階にある建物。一階には体育系の部活が主に使うトレーニングルームやシャワー室、三階から五階にはサークルや部室に貸し出している会議室や和室、音楽室などがある。で、この建物、二階の喫茶にはかなり人がいるけれど、三階より上に行くと全くと言っていいほど人がいなくなる。
まあ、人に聞かれたくない話をするには打ってつけの場所ってわけ。
五階の自販機スペースにある扇形のベンチに古瀬さんを座らせて、僕は適当に温かい飲み物を買う。
「はい、コーヒーとお茶どっちがいい?」
「え、あ、さすがにそれは悪いんでお金出します、いくらでしたか?」
「いいっていいって。学食来たときちょっと息切らしてたし、結構僕のこと探し回ったんでしょ? それ代ってことで」
「じゃ、じゃあ……お茶で……すみません……」
「いえいえ」
僕は手にしたお茶を古瀬さんに渡し、残った缶コーヒーを開けて一口呷る。
「それで……あ、あのっ、上川君って、島松君と同じ語学の授業取ってますよね?」
……島松君、が今回古瀬さんが僕に相談してきた片想い相手。
「うん、取ってるよ」
「あの……どういう服とか、どういう雰囲気が好きとかわかったりしますか?」
「うーんと……さすがにそこまでは分からないかな……」
「聞いてもらうことって……できますか?」
……まあ、島松とも仲はいいから、できなくもないか……。
「うん、まあ、やるだけやってみるよ」
「……ありがとうございます」
その後、一時間くらい僕と古瀬さんは話をして、またそのうち会う約束をして別れた。
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