#4.5 Dimanche matin
Ⅴ
「……うう、痛い、痛い、痛い」
「何よ、ちょーっと走っただけでしょ?」
先輩が呆れたような目を僕に向けてくる。
そう、僕は昨日の一件で走り続けた挙句に翌朝である現在、筋肉痛を起こしている。
「いくら走る機会の少ない
先輩がさらに呆れた様な目で僕の顔を覗き込んできた。
「結構走りましたよ? 細い路地でしたし」
「まぁ、いくらシャル君が痛い痛いとわめいたところでシャル君の今日の仕事が減るわけじゃないけどね!」
先輩はあざ笑うような顔で僕にさらに追い討ちをかけてきた。
昨日の男! 許すまじ!
「おはようシャルル、昨日は大手柄だったな」
隊長はニヤニヤしながら持ち場へとやってきた僕に話しかける。頼むからそんなにニヤニヤしないで欲しい。笑い事じゃないんだ。筋肉痛のままでは仕事にならない。朝1番に自分で自分の太腿に治癒魔法をかけてみたが今一つ効果が出なかったのだ。仕方がないので先輩にも頼んで治癒魔法をかけてもらったがこれもまた今一つの結果に終わったのだ。
「なあ、そういえばジャンヌは? 今日もあいつと一緒じゃないのか?」
隊長に訊かれて、僕は先輩がいないことに気づいた。さっきまで一緒にいたのに……
「あれ、さっきまでいたんですけどねぇ、どこに行ってしまったのでしょうか?」
「いや、俺が知りたいわ」
「あれー? どうしちゃったんでしょうね?」
「なんだ、シャルルならジャンヌのことくらい全て把握してると思ったんですけど、あー痛い」
「そりゃそうやってつま先立ちしたら痛いだろうな、俺だって筋肉痛で高いとこの戸棚に物をしまう時とか苦痛で仕方ない」
「なにをしまうんですか」
「娘のおもちゃとか? クリスマスプレゼントとか」
「あっはい、お父さんですね」
「そりゃそうだろう、あっ、シャルル、あれ、あそこ、ジャンヌじゃないか?」
そういいながら隊長は僕の後ろの方を少し背伸びしながら指差す。
僕が振り向くと、先輩が……あれは、ブリジットさん? を引き連れている。ブリジットさんは先輩に引っ張られているというよりも引きずられていると言った方が正しいかも知れない。
「あっ、シャル君〜」
そう言いながら先輩は笑顔で左手で僕に手を振り、右手でブリジットさんを引きずってくる。
僕も笑顔で先輩に手を振り返す。
「ね、ねえ! ロミュ! やめてよ! 引きずらないで!」
ブリジットさんは半泣きにすらなっている。
僕と隊長の目の前に先輩と先輩とブリジットさんがくると、隊長は呆れたような顔を見せた。
「あー、ジャンヌ、まずはだな……人を引きずるのはやめようか」
「仕方ないことですよ。これでシャル君が黙ってくれるなら私は鬼にもなる覚悟です!」
先輩は手本のような敬礼をする。
「……すでに鬼みたいなもんじゃない」
ブリジットさんはついに泣き出してしまった。
「あー、ジャンヌ、女を泣かせるもんじゃないぞ」
「そんなことより、シャル君! ブリジットを連れてきたわ! ブリジットは治癒魔法も私たちよりかは上手よ! ブリジット、治癒魔法使えるよね」
「……ぐすん」
「ブリジット……今度一緒にご飯行こ?」
「いつでも行けます! 両方の意味で」
ブリジットさんて、すごい現金な人?
「ねぇ君だよね? 筋肉痛の子、君だよね? ちょっとさっさと足出してくれない?」
ブリジットさんのキャラが変わって僕の扱いが雑……
まぁ、治してもらえるのは治してもらえるそうなので素直に僕は足を出す。
するとブリジットさんは杖を取り出して僕の足に当てた。
ブリジットさんの様子に変わった様子はない。魔法をかける時にはどうしても魔力が漏れてしまうものだが、そのような様子はない。だが、確かに僕の足に魔法がかけられているのは感じる。温かい。朝、毛布の中で起きようか二度寝しようか迷っている時のような感覚。
「はい、次」
ブリジットさんが短く言うので僕も素早く反対の足を出す。
再び温かい毛布の中のような感覚。
「はい、終わったよ」
僕がブリジットさんの治癒魔法の温かさに少し眠気を感じるようになった頃、治療が終わったらしく、ブリジットさんが軽く伸びをする。ブリジットさんの大きい一部が強調され、ブリジットさんの治癒魔法が温かい理由が少し分かったような気がした。
「ありがとうございました」
「いいのよ、別に。むしろ私がお礼を言いたいくらいね」
「え?」
「ほら、あなたが筋肉痛になってくれたお陰でロミュとご飯に行くチャンスが得られた」
「は、はぁ」
「そういえば……シャルル=アルノース?」
突然、僕のことをブリジットさんが尋ねて来たことに僕は驚きを隠せなかった。
「ええ、そうです。僕がシャルル=アルノースです」
するとブリジットさんは僕の周りをぐるりと一周した。僕の体の隅々まで凝視しながら。
こういうことされたのは国防大学に最初に入学した時以来だ。スキンヘッドの教官がちょうどこんなことをしていたのを思い出す。
「ふーん、ロミュの幼馴染みってね……じゃあね」
僕のことを凝視するだけ凝視したら満足したのか、してないのか、釈然としない表情で去っていった。
「ねぇ、ロミュ、後で連絡くれますよね?」
「なんなんだあいつは」
隊長がぼやく。
「でも僕も先輩も治せなかった筋肉痛を治せたんですから、腕は凄腕なんでしょうね」
「天才と変人は紙一重か?」
「さすがにそれはブリジットさんに失礼では……」
「隊長、早く台に上がってくださいよ」
先に台に上がっていた先輩が隊長を急かす。
「はいはい」
隊長も台に上がる。
「金を出せ‼︎」
となりのパン屋から大声で脅すような声と、悲鳴。
こんな……パレードの日にすぐ横に
いや、紙一重で天才なのか? そうであってくれればまだ救いようがあるのだが……
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