毎日睨んでくる美人転校生、実は幼馴染で俺のことが好きらしいのだがそんなハズがない
本田セカイ
第1話 今日も俺は美少女に睨まれている
高校二年生となった春からあっという間に一ヶ月が過ぎ、ゴールデンウィークという最高の休み期間が終わったその日、俺はとんでもなく憂鬱だった。
学校が始まってしまったから? それも一理あるだろう、だが俺の中に介在しているのはもっと別の問題だった。
そう、
「……いつかあの眼光で俺は殺されてしまうのかもしれない」
「は? なに言ってんだお前」
隣の席で弁当を食いながらスマホを弄っていた伊藤が俺の声に首を傾げる。
こいつは高校一年生の時に顔見知りになった男、それなりに馬が合う者同士なので二年でも同じクラスになった俺達は今日もこうして食を共にしている。
まあそんなことはどうでもいいのだ、今は伊藤にかまけている暇はない。
しかし警戒心を全開で菓子パンを口に放り込んでいたせいか、ようやくその視線に気づいた伊藤は実につまらなそうな声で「ああ……」とこぼした。
「
「何もしてねえに決まってんだろ、そもそも会話すらしたことないんだぞ」
「そう言われてもな……あの睨みは相当残酷な振り方でもしない限りしない鋭利さだぞ」
「面白いことを言うじゃないか、彼女が出来たことのない俺への当てつけか」
「俺も同じだから心配すんなって、ま、俺は時間の問題だけどな」
伊藤はそう返すとウザいまでに満足そうな笑みを浮かべてお茶をぐいっと飲む。
だが俺と
そもそも学園屈指とも言える美女と知り合いになる機会など、俺の性格上皆無と言ってもいいだけに、余計にあの睨みは恐怖でしかない。
彼女は所謂帰国子女という奴で、父親の海外赴任が終わった関係からこの春から俺の通っている県立宝明高等学校に編入してきた。
毛先が綺麗に整った、よく手入れがされていそうな艷やかなロングの黒髪に、クールビューティーと呼ぶに相応しい少し目尻の上がった端正な顔立ち。
スタイルも抜群に良く、特に目を見張るその大きな胸は並み居る女子生徒達を奈落の底へと突き落とし、そして羨望の対象へと変えてきた。
「一見すると取っ付きにくい雰囲気ではあるんだが、意外に社交的な一面もあるんだよなぁ。あれ程完璧だと女子も嫉妬する気力すら沸かんだろうな」
伊藤はそんな解説をする割に興味がないのか、愛するアイドル育成型スマホゲームから目を離さず、ピックアップガチャを回すべきかどうか悩んでいる。
確かに帰国子女と言われると海外にかぶれて斜に構えているか、鬱陶しいリア充的なノリをしていそうといった偏見を抱きがちだが、彼女は全くそんなことは無い。
そんな一面のお陰か男女共に皆が
「マジで一挙一動が睨まれるんだよな……この前なんて消しゴム落としただけで睨まれたんだぜ?」
「ヤバいなそれは。そこまで来ると生理的に無理って奴だろ。正人の全てが不快となれば、慎ましく生活しないといずれ全女子が敵になるかもしれんぞ」
「あんまりだ……」
元から目立つタイプの人間ではないが、僅か1ヶ月と少しでクラスの中心へとのし上がった彼女の権力は相当なもの、御眼鏡に適わないとなると本気でイジメの対象になりかねない……。
それならばと、死力を尽くして空気に徹してきたというのに……。
「! ……お、おいおい、
「んん……? 取り敢えずあれだな、もう喋るのは止めた方がいいな」
「成る程、それは名案だな」
「あとは息を止める」
「俺に死ねと申すか」
いや、しかし彼女からすれば俺の会話はそれぐらいの事なのか……つまり輪廻転生から解脱することこそが俺に残された唯一の道標――
「伊藤よありがとう……俺、極楽浄土目指して頑張るよ」
「悟り開く前に
「もっともだな、根本的な解決にはなってないが」
「俺にそれを求めてどうする。あ、どうせ教室を出るならカフェオレ買ってきてくれよ」
「人の気も知らないでこき使いやがって……」
とは言っても伊藤は俺よりはリア充こそあれ、クラスの中心をぶん回す男ではない、こいつにお願いした所で劇的に変わる事はないのは事実。
それにこのまま睨まれ続けていても順調にメンタルは削られていくだけなので、俺は溜息混じりに立ち上がると教室から廊下へと出た。
「きゃっ!」
「おっと!」
と、出た所で小走りの女の子とぶつかりそうになり、思わず声を上げてしまう。
その女子生徒は手に紙コップを持っていたので一瞬ヒヤッとしたが、幸いぶつかることはなかったので、ほっと一息をつき、口を開いた。
「わ、悪い、大丈夫だったか?」
「うん、全然大丈夫。こっちこそ前見てなくてごめ――って、
その言葉に俺は視線を上げると、そこには
茶髪のボブカットに快活そうな明るい顔つき、石榮さん程ではないがそれなりにスタイルも良い彼女は、
当然ながら我がクラスのトップカーストグループの一人だが、人を選ばない別け隔てのない優しい性格は多くの男子から支持されている。まあ俺はほぼ会話をしたことはないけど。
だからこそ、彼女が俺の名前を知っている(同じクラスなのだから当たり前な気もするが)のは少し嬉しくもあったが――
この如何にも気まずそうな表情を見る限り、どうやら良い意味で覚えられている訳では無さそうだ、悲しい。
「え、えーっと……ハロー? げ、元気してる?」
どんなに顔見知りでなかったとしても、日本人相手にハローでお茶を濁す奴はそういまい、恐らく彼女はどうにかして早く会話を切り上げたいのだ。
何故かって? 簡単な話だ、夏目さんは
美人の頂点と可愛いの頂点は引かれ合う運命とでも言うべきか、
つまり裏を返せば、彼女達の間に隠し事はないということ――
きっと俺はドブ以下の唾棄すべき存在として認定されているに違いない。謂れのない迫害行為ではあるがカースト頂点の意思決定は王の勅令と同等。
学園のマドンナ二人に軽蔑されるなどマゾでもなければ到底耐えられはしない、まあ俺はイけなくもないんだが――などと自ら死の沼に片足を突っ込んでいると。
ふと、彼女の手元が濡れていることに気づく。
「あ、それ――」
「え?」
どうやらぶつかりそうになった勢いで、紙コップのジュースが僅かにこぼれてしまったらしく、夏目さんの手が少し濡れてしまっていた。
「あ――へ、平気平気! ちょっと濡れちゃっただけだから」
「いや、そういう訳には……待って今ハンカチを――」
「わ、悪いよ! 手を洗えばいいだけだから――――ひいっ!?」
軽蔑されているとはいえ、それでも彼女がジュースをこぼされたのにも関わらず怒らなかったのは一重にその人柄から来るものだろう。
いくら何でもそこを譲れば男が廃る、慌ててポケットからハンカチを出したのだが――途端に彼女が悲鳴をあげたではないか。
「え、は、へ……?」
「だ、大丈夫! 本当に大丈夫だから! ご、ごめんね! それじゃまた!」
呆然となりながらも何とか言葉を紡ごうとする俺であったが、結局ハンカチは受け取られることはなく、俺の脇を通り過ぎていってしまった彼女。
そして、そこに残るは一人虚しく立ち尽くす俺のみ。
「学生社会とは、なんと理不尽な空間なことか――」
と。
嘆きの言葉を口にした瞬間背中にゾクリと、悪寒が走る。
「……?」
嫌な予感を背中にひしひしと感じながら恐る恐る後ろを振り向くと――
そこには、黒板側の入り口から、ゴミを見る目で俺を睨む
いや……もうホラーやん。
隣には心底顔を顰めて俺を横目で見る夏目さんもおり、それが余計に胸に刺さる。
「く、くそ……」
それでも俺はやっていないというのに……こんな理不尽がまかり通りるなど、決して許してはいけない……!
その時、俺は強く心に誓ったのであった。この逆境に負けてなるものかと。
だがこれがとんだ大きな勘違いであるということは、この時はまだ知る由もない。
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