オーク百人隊長に憑依した……『腕力』と『闘争心』……そして『知略』を武器に戦いを挑む

あおかえる

きっかけ

 「自信が……欲しい。……強さが……欲しい」




 英俊ひでとしはいつも思っていた。南條なんじょうという武家由来の姓を持っていたが、今の自分は、ご先祖様には顔向けできなかった。




 ……凛々しさから程遠い、緩んだ上に、明らかに人間の美的感覚からずれた場所に配置された顔のパーツ。汚い肌。太って緩んだ肉体。どこからどう見ても『ブサメン』だった。


 それがゆえに、英俊は自分で自分の容姿を諦めていた。当然、スキンケアも眉毛の手入れもせず、やたら剛毛で量の多い頭髪の手入れも怠り、整髪はおろか散髪すら二か月に一回。伸び放題の髪の毛は、育ち切ったブロッコリーか猟師に追われた野生の熊だ。




 そして、『超』が付くド近眼。『コンタクトレンズは眼に悪い』というネットの情報を信じ、自分の容姿から来る諦念で流行遅れのフレームの眼鏡を掛けていた。分厚いレンズは英俊の小さな眼を更に小さくし、酷く陰気な雰囲気を生み出していた。




 (はぁ、なんだって良いんだよ。もう人生なんて詰まらないんだ)




 英俊は高校生二年生だ。思春期も終盤に近づく。


彼は思い出す。中学時代に誰もが迎える『思春期』には『異性に対する目覚め』という恐ろしい通過儀礼があったことを。……いや、『楽しい』『ワクワク』するという奴らもいるだろう。だが『恐ろしい』と感じている奴らも存在する。英俊は当然後者だった。



 英俊だって、中学に進学し思春期を迎えると『異性に対する想い』という本能から来る感情が芽生えた。クラスの可愛い女子。思いやりがあって性格の優しい女子。気にならないはずは無かった。


 ただ、スポーツは出来ない。一見真面目そうだが勉強は出来ず成績は平凡。奥手を通り越した『ネクラ』『コミュ障』と呼ばれてもおかしくない口下手。魅力の無い外見。英俊の存在はクラスの女子からは黙殺された。




 ……結局、中学三年間、クラスの女子とは、いわゆる『雑談』をせずに終わった。




 クラスの普通の男子なら、女子と他愛の無い『雑談』をする。『先生の悪口』『成績』『部活』『漫画』『スマホアプリ』『音楽』『クラスメイトの噂話』……『コイバナ』……なんだってある。別に滅茶苦茶イケメンでモテモテの男子だけが、『女子と雑談できる権利』がある訳では無い。普通の男子なら雑談くらいなんぼだってする。




 (じゃ、俺は『普通』じゃなかったのか)




 英俊は思う。無視はされなかった。用事があれば、クラスの男子も女子も普通に話しかけてくる。




 「南條、今週掃除当番だぞ」


 「南條くん、河原先生が呼んでたよ」


 「南條、消しゴム貸してくれ」


 「南條くん、今日の図書委員会は15時からに変更だって、先生が言ってたよ」




 そう。中学時代は苛められたりはしなかった。そして用事があるときは話しかけて来てくれた。用事があるときだけは。




 それはそれで辛いものがあったが、多感な中学時代に『自分の立ち位置』『クラスでのヒエラルキーの自分のいる階層』(英俊の自己分析では『階層にすら入っていない』だった)が分かってからは、『苛め』という直接的被害を受けなかったため、孤独ながらもそこまで悲観的にはならなかった。




 問題は高校だ。学力が平凡だった英俊は、学力相応の平凡な高校に入学した。中学と違って、高校は『学力』というフィルターを通して似たような人間が集まる。その高校は学力が平凡な代わりに、『学校生活を楽しむ』という人種が圧倒的多数を占めていた。




 英俊のような人種もいる。当然いる。ただ、彼らは彼らなりの共通の趣味を持つ友人同士で集まり、コミュニティを築いていた。一般の男子からは軽くバカにされ、女子からは『気持ち悪い』と言われ、隔絶されたコミュニティだったが、本人達はそれなりに楽しそうだった。




 英俊もいわゆる『オタ趣味』を持っていた。ミリオタでアニオタでゲーオタとオタ趣味を嗜んでいる。だが中学時代に孤立主義を貫き通し、同世代の人間とは会話せず、ネットの掲示板で歪んだ文字の会話しかしなかったので、コミュニケーション能力が著しく欠如していた。自分と同じ匂いのするオタなクラスメートとすら会話が続かない。




 更に、タチの悪い事に英俊には『俺はあいつらと違う』という訳の分からないプライドがあり、オタコミュニティを見下す態度を取っていた。




 『孤高の狼』気取り。




 そんな奴を友達になろうとする人間はいない。オタコミュニティからも話しかけられなくなり、一般のクラスメートからは無視され、完全に浮いた状態になっていた。

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