第50話 仕事をしたいの。
この先の事か…。
とにかくスカーレットに迷惑をかけるけど、
今は甘えてしまう事を了解してもらった。
この際思った事をぶつけてしまおう。
「あのね、取りあえずここに匿ってもらうとして、
スティール様とかの情報が欲しいの。
後はおばあ様の方でしょ。それと…。」
「あなたの家の方もね。
今頃きっと焦っているわよ~。
私もぜひ知りたいわ。」
相変わらずスカーレットはとても楽しそう。
私もその気分を味わってみたいわ。
「いいわ、任せて。
そちらの方は、うちの調査員に言っとくから。」
「ありがとう!
後は、これから先どうするか、よね。
ここに閉じこもってばかりでは、すっごく心苦しいし、
私も何か、スカーレットの手伝いとかできないかしら。」
何だったらこの店の売り子でも何でもやるわよ。
私はそう言ったけれど、スカーレットは戦力外だとあっさり拒否した。
「だって、この店は一応ドレスとかも扱っているけど、
ほとんどは庶民を対象にしているし、食料品とか雑貨もかなり扱っているのよ。
ジュリエッタには無理だと思うの。」
「勉強する。
色々な事を覚えて、手助け出来るようになるわ。」
でもねぇ。
とスカーレットは私をチラッと見る。
失礼ね、私だってやろうと思えばできるわ。
「そんな事より、あなたができる事をやればいいんじゃない?」
私にできる事?
ずっと今まで貴族の暮らしをしていて、
勉強してきた事と言えば普通の令嬢が出来る事ぐらい。
あと特殊な事と言ったら、少しばかりの帝王学。
夫を助ける為のちょっとした知識だ。
今の私には、そんな物は何の役にも立たない。
「今の町娘達は、かなり強かなのよ。
いい男、つまり金持ちイケメン大手に勤めている男とか、
貴族に見初めてもらいたいなん子もいるわね。
とにかく夢のような結婚に憧れている子が五万といるのよ。」
「ご愁傷様…。」
「まあね、でもそれが今の現実。
だからその夢見る子達は自分を磨く事に余念が無いのよね。」
ふむふむ
「つまり、もしあなたが何か仕事をしたいのであれば、
それを利用すれば?」
「利用?その言葉は好きじゃ無いわ。」
「そうね。でもその子達は自分を磨きたい。
あなたは何か仕事をしたい。
つまり利害は一致しているのではなくて?」
そりゃそうかも知れないけれど、私は一体何をすればいいのだろう。
「決まってるじゃない。
令嬢として培ってきたことを教えるだけ。
ダンス、マナー、彼女たちが知りたい事を教えればいいのよ。
生徒だって知りたい事は色々でしょうし、
それなら生徒によってレベルを変えればいいの。」
「なるほどね。」
「この町はかなり広く、貿易が盛んだから、
かなりの生徒がいると思うわよ~。
あなたほどの先生なんてそうそういないから、
きっと沢山の女の子が押し寄せて来るわね。」
「それ困る。
私は目立ちたく無いの。」
確かにスカーレットに恩返しをしたいから、かせぐ事はしたい。
でもスティール様が、いつ探査の手をこちらに向けて来るか分からない以上、
あまり表立ったことはしたくない。
困ったな…。
「あら、やり様はどうにもなるわよ。」
「そうかしら。
私を知っている人が来たら、すぐバレて連れ戻される可能性だって有るし。」
「ええ、あなたを知っている人が来たらね。
でも、そこにあなたがいなければいいんでしょ?」
私がいなければ?
言っている意味が分からないわ。
「だから、あなたがそこに居ても、
それがジュリエッタだと分からなければいいのよ。」
「それって、もしかして私が変装すれば大丈夫だと言う事?」
「ご名答。」
いいかもしれない。
何より自分が自分では無くなる。
それだけで自由を勝ち得た気分だ。
何でもできそうな気がする。
「いいわね~それ……。」
「余り凝ると、不自然になるから無理な事は出来ないけど、
少しぐらいはあなたの希望を聞けると思うわ。
例えば……。」
「例えば髪の色を黒にするとか?」
「ええ、そうね。」
「シックなドレスを着るとか。」
「余り地味すぎると、年齢にそぐわないけど、
ある程度だったら大丈夫よ。」
「背を高くするとか。」
「あ~まあ、ヒールの高い靴を履けば……。」
「目の色をグリーンにするとか。」
「それは無理。」
そうか、これぐらいが限界か。
それなら早速買い物に。
と思ったら、スカーレットのお店で、全て揃っちゃった。
そして早々にセットアップする。
黒髪のウイッグを被り、ハーフアップに結い上げて、
ブルーのシンプルなドレスを着込む。
それから同色の靴を履いたけど、ヒールが高いせいか重心がグラグラする。
ま、仕方ないか。根性で克服してやる。
それからスカーレットに仕上げだと渡されたのは、
ちょっとおしゃれな形の黒縁の眼鏡。
「度は入っていないから大丈夫よ。」
ありがとうございます~。
全て終わった私は、以前の自分とまるで別人。
「さて、新生ジュリエッタ様、
仕事の方はどうする?
レディー養成所以外に、やりたい事ってあるの?」
やりたい事…。
まあ小さい頃は、自分でもお菓子が作れればいいのにって思ったっけ。
そうすれば、大きなチョコレートのケーキが食べれるのにって。
後は何か有ったかしら……。
でも今は、この生まれ変わったような自分で何でもやってみたい。
差し当たっては、現実的に自分のできる事を生かし、
スカーレットの提案した仕事が妥当だと思うわ。
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