第38話 愚痴
「まーまーまー、ジュリエッタ、あなたったら。」
おばあ様は、いかにもおかしそうにケラケラと笑っている。
「あのね、これは笑い事じゃないの。
せっかく私がアンドレア様から解放されたと思ったのに、
どういう訳か、いつの間にかスティール様の婚約者に納まっていたのよ。
それも、弟であるスティール様が次期国王ですって。
これじゃあせっかく抜け出た罠に、また掛かってしまったような物よ。
まったくもう、どうしてこんな事になってしまったのかしら。」
私はおばあ様相手に、ぶつぶつと愚痴をこぼした。
だけど今更この決定事項を覆す事なんて出来無いのだ。
「まあ落着きなさいな。
大体の事はデーヴィットから聞いていたけれど、
まー可笑しい事、まるで昔の自分を思い出してしまうわね。」
そう言って、微笑みながら遠い目をするおばあ様。
ラブラブだったおじい様の事でも思い出しているのだろう。
「でも、私はおじい様の事は好きだったから、ジュリエッタとは少し違うわね。
ジュリエッタは、アンドレア様の事は好きでは無かったんでしょう?」
「当然だわ。あんなツンデレ、意地悪をして気を引こうなんて見え見えです。
ガキじゃあるまいし、好意が有るなら誠意を見せなきゃダメって、
いつ気が付くのか我慢して見てたけど、
一向に悟らないんだから、結局最後まで子供だったわ。」
「ねえジュリエッタ、ここだからいいけど、一応あなたは伯爵令嬢なんだから、もう少し言葉遣いを何とかしたら?」
そう言いながらも、おばあ様は焼きたてのおいしそうなパンを籠に盛り、
お茶と共に私の前に並べてくれる。
私はその中の一つを手に取り、頬張りながらも話を続けた。
「おばあ様の所に来た時ぐらい、気を抜きたいの。
それにしても、おばあさまの若い頃って、凄くドラマチックだったのね。」
おばあ様の日記読んじゃった、てへっ。て感じ。
「そうねぇ、
でも後から考えれば、私はかなり周囲に恵まれていましたからね。
それに、終わり良ければ総て良し。
この国に帰って来てからも、私はずいぶんと自由にさせてもらったわ。
まあ、おじい様とデーヴィットは、最初はかなり大変だったみたいだけれど。」
「そうでしょうねー、おじい様が元国王だなんて。
でも、考えてみたら、私も王家の血が流れているのよね。」
「そうよー、おまけにグレゴリー帝国の、
伯爵でもあるおじい様の血も流れている。
つまり生粋の、高貴な貴族の令嬢って訳。
たった一つの汚点は、平民の私の血が流れているって事ね。」
「おばあ様、私がどれほどその血が羨ましと思った事か…。」
あははは、と陽気に笑うおばあ様。
「でも、ジュリエッタはスティール様の事をどう思っているの?」
え、スティール様の事?
ん~~と暫く考えてみる。
「あ~、だって彼は私より年下なのよ。
そりゃあ今までずっと一緒にいた近い存在では有るけれど、
それは婚約者の弟と思って来たし、つまりは私の弟ポジションなの。
なぜ今更、スティール様が婚約者になるのよ。
勘弁してほしいわ。
なぜ伯爵令嬢の私が、やたらと王家の婚約者に指名されるってのかは
ようやく理解したけど、
だからって、アンドレア様がだめなら、スティール様にって、
私は物じゃ無いのよ!
まったく自分達の都合を押し付けないでほしいわ!」
私は思っている事を一気にまくしたてた。
「いえ、だからね。
あなたの気持ちは分かるけど、
実際あなたがスティール様を好きか嫌いかを聞きたいの。」
「だーかーらー、スティール様の事は好きだけど、
年下だし、恋愛対象にならないの。
実際に結婚するなら、例えばおじい様のような年上のロマンスグレーの人で~、
お父様みたいに優しい人がいいな~。」
私の結婚相手は小さい頃から決まっていた。
つまり、物心ついてから認識している、その対象が幼過ぎたんだ。
我儘で、考えや言う事が拙くて、自分本位の奴。
そうこの際、自分の結婚相手に夢を持ったっていいじゃないか。
「あらやだ、年下って言うけれど、年を重ねればそんな事全然気にならないものよ。
私とおじい様は20歳ほど離れていたけど。
それでも、おじい様は時々子供っぽい所が有ったりしたわ~。
あなたはお子ちゃまですか、なんて思う時も有ったりして……。
んー、懐かしい。
年なんてなーんにも気にならなかったわよ。」
「はいはい、おじい様とおばあ様は大恋愛だったわね。」
とんだのろけ話だわ。
それにしても、20歳の年の差が気にならないなんて……。
おばあさまに比べたら、私とスティール様の年の差なんて、
大した事じゃ無いのよね。
何かスティール様って、小さい頃から私の事が好きだーって
やたらアピールしてた気がするし、そう悪い子じゃないし……。
って、危ない危ない。
ただでさえ、今の自分だってあまり自由にふるまえないのに、
スティール様の婚約者になってしまったら、いずれ…………。
冗談じゃ無いわ。早い所何とかしなくちゃ。
「でもまあ、話を聞く限り、スティール様は出来がいいみたいだけれど、
やっている事がまだまだ子供よね。
このまま結婚したら、ジュリエッタが苦労しそう。」
「そう、そうなのよ。」
「だったら今のうちに教え込まないといけないわね。」
「教え込む?」
「そう、今のままではアンドレア様と一緒。
子供のまま体が大きくなるだけ。
ちゃんとしつけないと、国の為にはならないわ。」
「お、おばあ様……?」
「あの人が守ってきたこの国を、子供の我儘で政をされては困ります。
いいわジュリエッタ、今回の件、このマリーベルが協力します。」
…………そう言えばおばあ様って、下手すりゃ王妃様になっていた存在だったわ。
このパン屋の隣には、結構大きな衛兵の詰め所も有るし、
これって実際は、おばあ様の警護をしているんじゃないの?
もしかして、おばあ様は影の大人物……。
かなり尊い人なんだろうか。
「おばあ様…、気持ちは嬉しいけど、そんなに気負わなくても大丈夫よ。
相手は王室だし、そんな人を相手に、表立って文句を言える立場じゃないし。」
「文句は言わないけど、口ぐらい挟めますよ。
まあ、今回はこちらの国の世話になるつもりは有りませんから。」
おばあ様ー、なぜか私とんでもない事になりそうで怖いです。
もうちょっと落ち着いて、話し合いましょう?
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