第35話 番外編/幸せになりたい 1
「会いたかった、マリーベル。
ようやく…ようやく会えた………。」
私を力強く抱き締めるおじ様は、まるで二度と放さないと言っているようだった。
それから、私の腕の中にいるデーヴィットを見て、全てを悟ったのだろう。
大きく目を見開いてその子をひとしきり見つめてから、
またワンワンと泣き出した。
ま、まあ…周りの人がいつまで経ってもおじ様を、国王にと思わせる位だから、
おじ様はそれだけ国王に相応しい人望も能力も持っているんでしょう。
だからこそこの子が誰の子か、どうして私があそこを離れたのか察したのかと思う。
でもねぇ、その能力は私があそこを離れる前、
いや、お付き合いを始めた頃から発揮してもらいたかったです……。
今更手遅れだけどさ。
と、とにかくおじ様、ここは人目の多い往来です。
何処か、目立たない所に移動しましょ?
そう言った事を、私は後から後悔した。
連れてこられたのは何と王宮。
デーヴィットは今まで見た事の無い場所で興奮している。
「かーちゃ、おしろー。」
「そうよ、お城よ。
デーヴィットはおりこうさんね。」
「その子は…、その……。
デーヴィットという名前なのか?」
「はい…、そうです。」
デーヴィットとおじ様は、驚くほどよく似ている。
金色の髪と、緑の目。
顎の形もそっくりだ。
誰が見ても、即座に親子と思うだろう。
「あの、おじ様。
出来れば……ジゼルの家に行きませんか。」
「それはダメだ、あの人と一緒では確実に私は言い負かされてしまう。」
まあ、多分そうなるでしょうね。
でも私は知らずに、ジゼルに助けを求めようとしたようだ。
「私は君と二人だけで、ちゃんと向かい合って話がしたいんだ。」
「…分かりました。」
そう、私は今まで逃げてばかりで、
おじさまとちゃんと向かい合い、話をした事など無かった。
自分で勝手に判断し、勝手に逃げ出したのだ。
私は卑怯者だ。
やがて通された謁見室で、
「陛下、申し訳ないが、暫くどこかの部屋をお借りしたい。」
おじ様はそう言った。
えっ、陛下?つまりこの方は王様?
たかが隣の国のパン屋の娘が、ここにいてもいいの。
何故か私は、此処に居るだけで不敬罪になりそうな気分だ。
しかし陛下は驚くでもなく、
私を見てから、私の抱いているデーヴィットを見て、
最後におじさまを見てからニヤッと笑った。
「成程な。そういう訳か。」
そう一人で納得していた陛下。
「このところのあなたの奇行の訳は納得した。
お嬢さん、ゆっくりして行きなさい。
そしてよく二人でよく話し合う事。
分ったね。」
陛下の考えている事は、多分全て当たっていると思います。
やがて通された個室は、まあ、個室と呼べないような立派な部屋だったが、
専属のメイドさんがいて、
私達にお茶、デーヴィットにはジュースを出してから、そそくさと部屋を後にした。
「マリーベル…………、
その子は私の子だね?」
コクンと頷く私、
「もしかして、君が私の下から去ったのは、その子の為?」
少し躊躇い、やはり再び頷く。
「でも、この子のせいばかりでは有りません。
すべては私の我儘です。」
「いや、悪いのは全て私だ。
私が身勝手な事ばかりして、
君の気持ちを思いやれなかった。
今まで君に、苦しい思いをさせてすまなかった。」
おじさまはそう言って頭を下げた。
「マリーベル、……
君はまだ…、少しは…私の事を思ってくれているだろうか……。」
私は躊躇いもせず、コクコクと頷く。
「マリーベルは、この先どうしたい?」
それを今言われても困ってしまう。
確かに私はおじさまの事を愛しています。
しかし、私とおじさまでは、住む世界が違います。
でも、この子には父親の存在を感じながら育ってほしい。
かといって、私とおじさまが一緒に住むのは無理。
おじさまはきっと、私にお城で一緒に暮らしてほしいのでしょう。
親子3人で暮らしたい筈です。
でも、身分違いの私の事を、快く思わない人は沢山いるでしょう。
きっと、この子に後ろ指を指す人もいると思います。
私はこの子に、そんな日陰を背負ったような生活をさせたくありません。
でも、この子に王家の血が流れているのは確かです。
もしかしたら、血筋を利用して、利益を得ようとする人が出てくるかもしれません。
そんな事になったら、おじ様を困らせてしまう。
そして下手をすると、この子の命にもかかわる話です。
貴族から伸びる魔の手を、私一人では防ぎ切れない。
それならやはり、おじさまにしっかり守っていただけるよう、
お城で暮らすべきなのでしょうか……。
でも…………。
あぁ、いくら考えても堂々めぐり、
私は一体どうしたらいいのだろう。
「私には、どうしていいのか分かりません。
ただ、この子が何不自由なく、伸び伸びと暮らせる生活がしたいだけ。」
「そうだね、それが一番必要な事だ。
ただ、君とその子と一緒に、幸せに暮らせる方法が、
今の私にも分からない…。
どうしたら私たち3人、平穏に暮らしていけるのか……。」
その時コンコンと、ドアを叩く音がした。
「まあ、大体の予想は付いたけど、難しい問題だよね。」
「国王陛下……。」
「私にも一つ提案が有るんだけど、聞いてもらえるかな?」
そう言って、グレゴリー帝国第8代 テオドール陛下はニヤリと笑った。
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