第25話 番外編/嵐の前の現状

そう、最初の頃はちゃんと家(お城)に帰っていたのに、

最近のおじ様は、時々私の家に泊まるようになってしまった。

そんな事ではお付きや護衛の方が困るでしょう?

おまけに朝も私を愛したがるので、お城に戻るのは日が高くなってから。

そんな事ではお仕事にも影響が出るだろうし、

私だって、パンの仕込みが有るから困ってしまうんです!


「おじ様、やはりこのままではいけないと思うのです。

おじ様のお仕事にも障りが有るでしょうし、

本当の事を言うと、私のパン屋の仕事にも影響が出ているんです。

やっぱり私達の関係は白紙に戻した方がいいのかもしれません。」


ある日の朝、私は覚悟を決めてそう切り出した。

この事を言うのは凄くつらかったけれど、

このままではおじ様の為、いえ、国の為にも良く無いと思うんです。


「いやだ!それだけはしたくない。

他の事なら何でも言う事を聞いてあげたいけれど、

それだけはダメだ。」


「でも…、おじ様。」


「…………すまなかった。

君との思いが叶って、浮かれすぎた私が悪かった。

私だって君の負担にはなりたくない。

君の言う通り、心を入れ替えて仕事もまじめにやるから、

だからそんなに悲しい事を言わないでくれないか?」


おじ様は私なんかに、懇願し、そして説得し、お願いしている。

国王陛下にそんな事をさせてしまうなんて、私って一体何なの………。

下手すると普通だったら、処刑されてしまう状態ではないだろうか。

でもおじ様の必死な姿を見ると、とても可愛く思えてしまうし、

嘘は無いように思えた。

そして私は、まじめに仕事をするというおじ様の誓いに負けて、

今迄通り、おじ様が我が家にお泊りする事を容認した。


それからのおじ様は私との約束を守り、朝は絶対に私に手を出さなくなった。

してもせいぜいおはようのキスぐらい。

少し寂しい気もしたけれど、お互いの事を考えれば仕方がない事だ。

そして平日の朝は早起きし、私の焼いたパンを食べてからお城に出勤する。

そう、出勤すると言う表現がぴったりですね。

つまり、私達はいつの間にか新婚のような生活をしていたんです。


そうそう、いつの間にか隣の家は国に買い取られ、詰所みたいになっていました。

まあお城で陛下が寝ている間も、誰かが警備をしていると思いますから、

警備する場所が変わった…と言ってしまえばそれ迄でしょうが。

護衛の方お気の毒に、そしてごめんなさい……。



それからしばらくは、そんな日々が穏やかに過ぎていった。


おじ様からのプレゼントは、毎月同じ日に店に届く。

小麦から塩、勿論チーズなども忘れずに。

おまけに最近は、それ以外のパン作りに必要な殆どな物が、あの高級食料品店から届くのだ。

例えばもし私が、ラムレーズンが欲しいと呟いたとするでしょう?

それがおじさまの耳に入ると、必ず次の日には店に届いてしまうのだ。

そしてそれは、毎月届くようになる。

でも、私が店長さんに代金を受け取ってほしい言っても、一切受け取ろうとしてくれない。


「お代は全て、陛下から頂戴しておりますから。」


ちょ、ちょっと待って、それってもしかして税金から出ていませんよね?

もしそうだったらとんでもない話だ。


私はその夜、おじさまが来るのを待ち構え、問い質した。


「心配しなくていいよ。

私だって、そのぐらいの常識は持っているつもりだ。

あのお金だって、私の給料みたいなものだから。」


給料?王様が給料をもらうの?

首をかしげる私に、笑いながらおじさまが言う。


「だって、人は仕事をして給金を稼ぐのだろう?

そしてそれは、生活費や自分の楽しみや、貯金に充てる。

違うかい?」


「それはそうだけど。」


確かに私は、パンを作り、それを売って代金をいただいてる。

そしてそれを生活費や、またパンを焼くための材料費に充てる(筈だった)


「では、私は国の為に仕事をしている。

いかにすれば国が潤うのか、

国民の為になるのか。

他国との外交も大切な仕事だ。

もし外交がうまく行かなければ、輸出や輸入にも大きく関わって来る。

惹いては国民の生活に、深く係わるのだから。

今は息子と二人でそれらの仕事をしているが、

それなら私は無給でそれらをするのかい?

確かに私のような立場の人間は、この国の為に働くのが当たり前の事だ。

でもね、だったら君の為に送る小麦粉代ぐらい、給料としてもらってもいいんじゃないかな。


「あ――……。」


まあ確かにおじさまに言う事には一理ある。

おじさまは此処とお城を往復するぐらいで、

遊んでいる様子もないし、散財している様子もない。

何か、丸め込まれた気もするけど、

おじさまが自分の給料で、

毎月私に贈り物をして下さっていると思えば、許せるのかも。

単純だなぁ、私って。

しかし小麦粉のプレゼントで喜ぶって、自分でも笑ってしまう。

普通の女性だったら、宝石とかドレスなどしてもらうんだろうけど、

まあ私はそんなものは興味がないし、

興味の無い物より、小麦粉をもらった方がよっぽど嬉しいもの。


という訳で、おじ様のプレゼントのおかげで、

私は材料費もほぼかからずパンを焼いている。

つまりそれがどう言う事かというと、お金は減らず貯まる一方なんだ。

それ以外の生活費も、

おじさまが家賃変わりだと言って、先々に手を回し払ってしまう。

私が着ている服だって、プレゼントだと言って沢山くださる。

流石に派手なドレスや分不相応の物は、受け取らないし、もし押し付けられても後で私が店に返しに行く。


「ずいぶんお金が貯まってしまった……。」


数か月間、そんな生活をしたためか、想像以上のお金が貯まっていた。

こう貯まっても、一体何に使えばいいのか分からない。

ところがある日、これが役に立つ時が来たんだ。

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