36話 龍穴①
「ここは……?」
衛と瑞葉は辺りを見渡した。
「ここは龍神のすみか……龍穴と言うところさ」
暗闇をものともせずにミユキは歩を進めた。衛と瑞葉は慌てて後を追った。すると、その先にほんのりと光が見えてくる。
「二人とも、ちょっと待ちな」
光に向かって歩いていた三人だったが、ミユキから制止の声がかかった。
「見てみな」
二人が岩陰からミユキが指し示す方向を覗くと、そこにはおぞましい光景が広がっていた。化け狸に化け猫に一つ目にろくろ首。様々なあやかしが黒い煙を吐きながら列をなして練り歩いている。これぞ、百鬼夜行である。
「あのあやかし達、なんだか様子がおかしいよ」
瑞葉が不思議そうに首をかしげた。確かによろず屋に依頼をしてくるあやかしとここに居るあやかしとは雰囲気がまるで違った。
「これがあやかしのもう一つの顔だよ。苦しみと厄災を振りまく……人間とは道理もなにも違うもの達さ」
「でもなにか苦しそう……」
「ああ、この先は龍神様のおわす所だ。百鬼夜行を組んで向かうべき所じゃない」
ミユキは用心深く、自分の指輪を抜き取ると列に投げ込んだ。カッと光が放たれ、あやかしどもが列を乱す。
「さあ、今のうちに奥へ! 龍神様の居場所をふさぐよ」
三人は一斉に走り出した。
「うわぁ、追いかけてくるよぉ!」
三人で必死に走って行くと、やがて赤い巨大な門が現れた。
「はぁはぁ……」
「あー歳だね」
ぜいぜいと息を上がらせてミユキは札を門の周りに設置する。
「さあ、ここで向かい打つよ」
「ええ、俺たちどうしたらいいんですか!?」
「あんた達はあやかしをとっ捕まえておくれ」
「ひええ」
衛と瑞葉は悲鳴をあげたがあやかしどもは待ってはくれない。門の周りの結界に阻まれつつ、その場にたむろしている。
「おん めいぎゃ しゃにえい そわか」
ミユキが真言を唱えると、その目の前に水球が生まれてあやかしをはじき飛ばした。
「ここは現世と幽世の狭間だからね、龍神の加護も今までと違うはずだよ。瑞葉お前もやってごらん」
「う、うん……おんめいぎゃしゃにえいそわか……」
ミユキの言う通り、瑞葉の目の前にも水球が出来た。
「おお……」
「え、どうしようパパ」
「んーとだな……」
衛はちょっと迷った末に水の玉をむんずと掴んだ。
「俺はピッチャーじゃなかったんだけどな!」
と、それをあやかしにぶん投げる。ミユキのようにはじき飛ばすまでは行かないがあやかしは怯えたように距離を取る。
「よーし、瑞葉どんどん作れ」
「うん!」
こうして三人の抗戦が始まった。黒い煙を吐いているあやかし達が押されて下がって行く。
「よし!」
衛が思わずガッツポーズをした時だった。あの耳障りな地の底に響く声が三人に降り注いだ。
『小賢しいやつらだ! また現れたか。……お望みどおり殺してやろうか』
「……東方朔!!」
あやかし達の上空に黒い旋風を身に纏いながら登場したのは東方朔だった。
「ようやっとおでましかい」
怯むことなく煽るようにミユキは東方朔に怒鳴りつけた。東方朔の黄色く濁った目がぎらりとミユキ達を捕らえる。
『……ふん。さあ配下のあやかしどもよ! そこの人間を食い散らかせ!』
東方朔の檄にあやかし達は再び前進した。
「ったくなんだって龍神のすみかを荒らすんだい!」
ミユキが先程よりも大きな水球であやかし達を吹き飛ばした。……すると、瑞葉の足下に一匹勢いで転がってきた。
「ひゃっ」
『……助けてください』
それはよくみればまだ子狸だった。子狸は震えながら三人に懇願する。
『父ちゃんも母ちゃんもあいつに飲み込まれておかしくなってしまったんです……助けてください!』
「ちびちゃん、それ本当?」
『あい。元はみんな気の良いやつらなんです』
子狸は目に涙を浮かべながらそう言った。狸は人を化かすというが今回は違うようだ。
「……パパ」
瑞葉がどうしようと衛を見つめる。衛はいくら百鬼夜行を叩いてもどうにもならないと考えた。
「瑞葉、さっきの玉を出してくれ」
「はいっ」
衛は瑞葉の水球を受け取ると、東方朔に向けて思いっきりぶん投げた。すると見事にやつのはげ頭にヒットした。
『……ふざけた事を』
「おい、そこのオンボロジジイ! こんなあやかしを操ってどうしようっていうんだ」
『……嵐を起こすのさ』
「は?」
『龍神が抑えている弩級の嵐を起こして首都を壊滅させる! ……どれだけ負の力が溢れることだろう。その力があればわしは神仏をもおそれぬ存在になれる!』
そう言って東方朔は高笑いをした。
「……どこまでも自分勝手だね。だからお前は何千年生きようがひとりぼっちなんだよ」
ミユキは捨て台詞と共に特大の水の玉を東方朔にぶつけた。
『現世と違うのは何もお前だけでは無いぞ!』
東方朔は一払いでミユキの攻撃を躱し、代わりに枯れ葉のような腕をミユキに伸ばした。
「うっ」
巨大化した片腕にミユキの手が捕らえられる。衛は瑞葉の水球をあわてて東方朔にぶつけた。
『今更聞かぬわ、そのようなもの』
東方朔の勝ち誇った声が洞窟内に響いた。
「……っく」
黒い風を起こしながら、東方朔はミユキの腕をひねりあげた。木の根のように伸びるもう一方の手は衛と瑞葉に向かって伸ばされている。
『これで最後だ』
東方朔がそうガサガサとした声で言うと、一斉に伸びた腕が二人を襲う。衛は身を挺して瑞葉の上に多い被さった
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