第12話 イルカに乗った青年

「うわーっ、お魚がきらきらしてる」

「キレイだね、かのん君」


 エントランスから、水槽に映像と光で魚達が美しく演出されている。最近の水族館ってすごいんだなぁ……。私もかのん君も思わずぽかんと口を開けて入り口を見つめたまま動けなくなっていた。


「なんか、すごそうな所だねかのん君」

「うん、まだ時間もたっぷりあるしゆっくり回ろうね」


 そこから進んだ先には液晶パネル付きの水槽があった。つつつ……と指を這わせると、幻のようにデジタルの魚が動き出す。

 次のゾーンは色とりどりにオシャレに配置された水槽がいくつも。


「わぁ……」


 かのん君はスマホを片手に写真を撮っている。魚を見ないの? って私は思ったけど、もうこれは癖みたいなもんなんだろうな。とても楽しそうではある。次は、ほうほう。かのん君が言っていたメリーゴーランドのゾーンか。


「うわうわっ、かわいい!」


 メルヘンだー! 青い光に包まれたイルカやタツノオトシゴに乗って子供達が楽しそうにくるくると回っている。


「真希ちゃん、乗ろうよ」

「私はいいやー、見てるだけで十分」

「えー?」


 かのん君はせっかく来たのに、と不満そうだ。


「かのん君は乗って来なよ。そんで私が写真撮ったげる」

「えっ!?」

「二人一緒に乗ったら写真とれないじゃん、ね?」

「そ、そう?」


 隠しきれない嬉しさが顔に出てますよ、かのん君。さて、私はカメラマンに徹するにあたって最高の一枚を撮らなくちゃ。かのん君は受付でお金を払うと、イルカを選んで跨がった。ははは、笑えるくらい似合ってる。


「かのんくーん! こっち向いてー」


 私はまるで保護者のようにスマホでバシャバシャとくるくる回転していくかのん君を追いかけながら撮影した。数打てば、納得の一枚もきっと撮れるはず!


「どうだったー」

「かのん君かわいかったよ。写真もほらこんなに撮っちゃった」

「多すぎだよ、真希ちゃん……これとかぶれてるし」


 くすくすと笑いながら写真をチェックしているかのん君。なんか、かわいいとかかっこいいとか私、いつの間にか平気で口に出すようになってる。堂々と、『俺はキレイ』を貫いているかのん君相手だからなのかもしれないけど。


「あ……」

「どうしたの、真希ちゃん」

「私、あれ乗りたい」


 私が指し示したのは大きな海賊船の形のアトラクションだ。左右に揺れてお客さんの悲鳴が上がっている。


「え……あ……」

「どうしたの、かのん君」

「いや、真希ちゃん。俺、これはいいかな」

「なんでー? 一緒に乗ろうよ」


 かのん君はちょっと怖いようだ。ふふふっ、逃がさないよー。私は絶叫系大好きだもん。ここのはちょっと物足りなさそうだけど。


「あああああ!」

「ひゃっふーっ! 気持ち良い!」


 結局押し切られたかのん君は目をむいて悲鳴を上げ、私は浮遊感と前髪を巻き上げる風に歓声をあげた。


「はぁ……ひどいよ真希ちゃん」

「そんなダメだった? ごめんね?」


 降りた後のかのん君はグッタリとしていた。ちょっと調子に乗りすぎたかな?


「あそこに売店みたいなのあるかなちょっとなにか飲み物でも飲もうか」

「うん、そうする……」


 私達はそこでかのん君はコーラ、私はアイスコーヒーを頼んだ。


「ふう、まだまだ一杯展示があるんだね」


 興奮した後の冷たいコーヒーは美味しい。ここではじめて館内パンフレットを開いて、MAPを見ると他にも沢山の展示がある事に気づいた。うーん、序盤から飛ばし過ぎたかな?


「四時のイルカショーは見たいね」

「本当だ、これは見なきゃ」


 ここのドリンクはボトルに入っていて、そのまま飲みながら移動していいそうなので私達は次の展示に向かって歩を進めた。次の展示はクラゲのコーナー。


「わあぁ……」

「宝石みたい」


 円柱形の水槽でゆらゆらとゆれるクラゲ達。ここも幻想的な照明が効果的に使われていて、まるで夢の中にいるようだ。


「ちょっと欲しくなっちゃった」

「クラゲ?」

「うん。おうちで飼いたい。でもクラゲって何食べるんだろ」

「なんだろうねぇ……」


 そんな事を言いながら私達は二階の展示エリアへと向かったのだった。

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