第24話 完全無欠少女、班分け!

 その日は野外演習の日だった。


 流石に平地でのスライムとの戦闘は初日だけであり、以降は様々な地形で魔物との戦闘訓練が行われた。


 そして今回の演習場所に選ばれたのは学院都市から少し離れたところにある森だった。


「今回の演習は5人ごと班を組んで行う。

 行動人数が減少すれば敵に見つかりにくくなるが、その分索敵能力や火力が落ち易い。

 一対一でもお前たちなら勝てるような魔物しか出ないが、くれぐれも油断しないように」


「先生、班分けはどうするのですか?」


「それは俺の方で決める。

 といっても適当だがな。

 誰と組んでも上手く立ち回れるようになるための訓練だと思ってくれ」


 ロイスの指示の下、生徒は5人ずつ6班に分かれた。


 そしてなんと、俺はミエリィと同じ班になったのだ。


 他の班員はエル、エリス、ハイトとどいつもミエリィと普段から仲良くしている奴らだった。


 明らかに班での連携よりもミエリィが暴走しないよう抑えるための人員配置に思える。


 俺が配置されたのは権力で抑えろってことだろうか。


 ミエリィが権力に屈するような玉でないことは、先生もわかっているだろうに。


 班分けは適当ではなかったのかと思わなくもないが、そんなことはどうでも良かった。


 これまで取り巻きへの配慮からミエリィと距離を取らざるをえなかったが、ようやくまともに交流することができそうだ。


「よろしくね、みんな!」


「ミエリィちゃんにエリスさん、ハイト君まで一緒となると作為的なものを感じちゃうけど……」


「まあいいじゃないか。

 連携をとる上で人間関係が良好なのは良いことだ」


「それはそうですが……」


 ハイトが困ったような視線を俺に向けてくる。


 まあ彼の言いたいことはわかる。


 普段からミエリィのことを避けるようにしている俺の行動は、どう見ても友好的な者の行動ではないだろう。


 だがしかし安心するがいい。


 俺はミエリィのことを嫌うどころか好意的に思っている。


 普通なら王族である俺に皆が足並みを揃えるべきだが、今は演習の時間だ。


 仕方ない、俺から歩み寄ってやるとしよう。


「おい、お前たち。

 しっかり励めよ。

 それとミエリィ、貴様はなにもするな」


「はあ……」


「……頑張ります?」


 ……なんだ、このいまいちな反応は。


 王子である俺が自ら激励してやったんだぞ。


 普通、もっと有り難がって喜ぶべきではないのか。


 俺の取り巻きたちは少し褒めるだけで泣いて喜ぶというのに。


 それにミエリィに至っては俺の話を聞いてすらいない。


 暢気に蝶なんぞ追いかけおって。


 くそっ、画家を連れてきてこの風景を描かせるべきだった。


「ソリス殿下、ご無礼を承知で一つ言わせて頂きたいことがございます」


一歩前に出たエリスが話しかけてきた。


「なんだ?」


「我々はウィリムス王国の民ではございませんし、ましてや現在は平等を謳う学院での演習中です。

 殿下に敬意は払わせて頂きますが、それ以前に我々はミエリィの友です。

 彼女のことをなっていようが殿下のご自由ですが、我々はミエリィの味方であることをお忘れなきよう」


 鋭い視線をエリスが向けてくる。


 明らかに敬意を払っている者の目ではないが、それだけ彼女がミエリィのことを慕っているということだろう。


 それにしても俺がミエリィのことをどう思っているか、か。


 普段の俺はミエリィを避けて行動しているわけだから、まさかこうも容易くばれるとは思わなかった。


 俺がミエリィに好意を寄せていることに気がつくとは、このエリスとかいう女、中々鋭い。


 確かに一国の王子として惚れた腫れた等というのは不要な感情なのかもしれない。


 だが、エリスの言う通りここは平等を謳う学院であり、それに則るなら俺とミエリィは現在対等な存在であるはずだ。


 本来ならウィリムス王国の王子と小国の子爵令嬢では言葉を交わすことすらあり得ないが、この学院でならその障害を無視できる。


 この限られた時間を利用し、卒業までにミエリィとの婚約を取り付けてさえしまえば、後はどうとでもなる。


 エリスたちはミエリィの味方、つまりミエリィの意見を尊重するので俺に懐柔されるつもりはないということだろう。


 だが同時に俺がどう思っていても自由だといった。


 ということは俺がミエリィに近づくことを邪魔するつもりも無いという訳だ。


 いいだろう。


 俺は大国、ウィリムス王国の第三王子である。


 自身の恋の一つくらい、助けなどなくても叶えてみせよう!


 お前たちは最も近くでミエリィが俺の妃となる日を楽しみにしているがいい。


「好きにするが良い。

 お前たちの存在など俺がミエリィに抱くこの感情の前ではあろうがなかろうが関係のないことだ」


 俺の言葉を受けたエリスはどこか悔しそうに表情を歪めた。


 大方、俺を動揺させてミエリィに相応しいか試そうとでもしたのだろう。


 だが、想定以上に俺の思いが強いことを察してしまったといったところか。


「みんな~、早く行きましょう!」


 どこからかミエリィの声が聞こえた。


 視線をさ迷わせると、木の枝の上に立つミエリィの姿が目に入った。


 穏やかに吹き抜ける風によって制服のスカートがたなびく。


 俺は紳士なのでそっと視線をそらしてやる。


 もちろん将来俺の妃となるミエリィの下着を他の男に見せてやるつもりもないので、ハイトの顔に水球をぶつけて目潰しをするのも忘れない。


「うわぁ~、目が!?」


「も~ミエリィちゃん!

 女の子がスカートでそんなところに登っちゃダメでしょ!」


「別に良いじゃない。

 だってこんなに風が気持ちいいんだもの!」


「ミエリィのパンツ……。

 はあ……、はあ……」


「エリスさんは涎を拭いてください!

 ミエリィちゃんも早く降りてきて」


 待っていろ、ミエリィ。


 必ずお前を振り向かせてみせよう。

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