第39話

 東へ歩を進める事二週間。漸く次の街、イシュリームに到着した。

 この街は旧子爵家の領地で現在ガンジュールさんの領地に編入されている。ここで問題になってくるのがこの地を治める人物だ。元々ここは子爵家が定めた代官が治めていたのだが、その代官も汚職に不正、横領等を行っていたため処刑された。そこで目を付けたのが領地を持たない貴族。一代限りの栄誉職である準男爵位の者達だ。

 彼の者達は平民でありながら国の発展に大きく寄与した者や多大な額の税を納付した者、それから、多大な武功を上げた者だ。総じて貴族並かそれ以上に切れ者が多い。

 彼らに代行官を任せれば始めは支障が出るだろうがゆくゆくは問題が減ってくるだろう。

 ちなみに国王と会談した時、俺達も準男爵にならないかと雑談のついでのように聞かれたが断った。

 で、どうしてこんな話をしているのかというと、関所で俺達を検分した騎士が領主邸に向かい代行官の役に立てと強要して来たのだ。

 その時の言葉から感じ取ったのは渇望に近い欲望と一般兵としては不相応なほどの虚栄心。

 そう言えば、国王が言っていたな。騎士の中にも腐敗が蔓延っていたが、国力の事を考えると切るに切れなかったと。



「なにあの兵士。滅茶苦茶腹立つ~」

適当にはい、はいと返事をして通行税(ガンジュールさんに聞いていた額の倍)を支払って街に入場した途端、美咲が遣り場のない怒りを少しでも散らすように呟いた。

 対して俺は彼女の言葉に同感だ。としか応えられない。

 そいつは開口一番、人の彼女に向かって「おいお前、妾にしてやるからこっちに来い」なんてぬかしやがった。

 ぶん殴ってやろうと思ったらグレハール隊長が青ざめた顔でそいつを殴ってたんで思いとどまったけど。

 グレハール隊長は、本名グレハール・サンダイス。これから向かう海の守り、サンダイス辺境伯の三男坊で、本来の身分は近衛騎士。国王に会ったとき、念の為にと国王が俺達と面会させた。

 面会した彼等の任務は地方に散ってその地の情勢を報告する事と人材の発掘だ。彼等によって登用された数はそろそろ三桁を数えるらしい。その誰も彼もが忠誠心が強く不正を嫌う才能豊かな少年だと国王は自慢していた。



 さて、街門近くで合流した俺達六人は冒険者ギルドと商いギルドに寄ってこの街イングランに到着した旨と多少の薬草の売却をし、数日したら出て行くことを告げて宿屋の情報を入手した。

 冒険者ギルドは時間の所為か閑古鳥が鳴いていたが、職員に聞くとここ五年くらいこの状態が続いていて依頼処理が滞って居るのだそう。つっこんで聞いてみると、ここ半年位の間冒険者の通行税が倍額になったらしく冒険者が去っていったらしい。・・・・・・ここの代行官は何をしているのか。

 商いギルドの方はと言うと、冒険者ギルドの様に閑散としている事はなく、活気に満ちていた。しかも、そこで良く耳に届くのは卑しく欲望に満ち満ちた声音。来る途中で店には寄っていないが、この街では物価が高そうだ。

 対して、驚いたのはギルド職員達の声音だ。この街の冒険者ギルドやファルムットのギルドとそう変わらない。その声音を聞いて、別室で今は保存しておくように忠告しながらここでも薬草の類を売っておいた。



 両方のギルドで名前の挙がった宿屋『アラン』へ向かい、二人部屋二つに一人部屋二つを借りてから街を散策しつつ教会へ行くことになった。

 街で見かけたのは品質が悪く、到底その値段で売れないような品物の数々。そして暗い表情に重い足取りの人々だった。試しに回復ポーションを鑑定してみたが以前のレシピで製作され、更には水で薄めた上に一週間も前に作られた物だった。これでは回復目的で購入しても治らないばかりか腹まで下しそうだ。それがなんとギルドで示されている定価の四倍の値で売られていた。ぼったくりも甚だしい。

 

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