第12話
あの後、大いに時間の余った俺達は午前中を使って雑貨屋で買い物をし、そのあと冒険者ギルドで薬草採集の依頼を数種類とコーンディッチの採集依頼を受けて町を出た。まずは薬草を採取しようとしたのだが、美咲はどの薬草も根元からブチブチと取るだけで個々の薬草の特性が考慮されていなかった。
聞くところによると、なにに使うかは解ってもどこを使うかまでは解らないらしい。それから、採取の仕方も書かれて居ないと言っていた。
その他に、持っているスキルで鑑定内容が変わるのか、乾燥させて粉末状にすると効果増進だとか、湯煎して抽出した物を使うとか、調合に特化した記述が見られるとの事。
二人で共通した記述は味覚や食感に関する記述だ。これは調理スキルのお陰だろうと推測は立つ。
それが分かったら、美咲は薬草の採取方法を俺に師事し、正しいやり方で採取し始めた。
「これ、採集のレシピと調合のレシピとしてギルドに登録したら調合の革命が起きそうだね」
「そうだな。・・・・・・シミュリストルもそれを望んで居る様だし、そうするか」
イタズラっぽく笑う美咲に応え、余分の薬草を収集していく。そのさなかに文字が書けないと明かすと、「それぐらい分かってるから、代筆は任せて」と代筆を買って出てくれた。・・・・・・感謝しかない。
それから、コーンディッチを大量に採集し、夕方になったので帰路に就いた。帰り際に依頼の達成報告と余分の薬草を少しだけ換金し、雑貨屋でインクとペン、それから紙を大量に買い込んだ。
翌日、大量にしたためた採集レシピ、調合レシピ、調理レシピを商いギルドにもって行くと、大騒ぎになった。なんでも、この町で特許申請は毎年多くて五、六件だから十を越えるレシピは対応し辛いのだそう。それでも人員を割いてまで受理しようとしてくれる様は好感が鰻登りだ。
「先ずは採集レシピから受領いたします。それで、大変恐縮ではあるのですが、その他はまた後日と言うことで・・・・・・」
言葉でも言ったようにメイヴルさんが本当に申し訳無さそうに謝ってくる。
もう、それは話し合って決めたことだと笑って流し、試供用に作った飲み薬、ポーションを渡した。十本くらい。
「こちらは申請する調合レシピに様々なハーブや果実を追加したものも試しに作りました。無印はオリジナルの物。ハープンの実が書かれたラベルにはハープンの果汁を、オルディネの葉が書かれたラベルにはオルディネの葉をすり潰して追加している感じですね」
ずらりと並んだ瓶を前にして説明していく。薬草の名前や木の実の名前を言っただけでどういう狙いの下でこのチョイスなのか悟ったらしく、頭を下げてお礼を言ってくれた。
ハープン・・・・・・桃の風味をした蜜柑の果汁は完全に趣味だった。
商いギルドを出てアモンドさんの下へ向かう。昨日仕入れたハープンの追加と、面白そうな果実が無いか見るためだ。
ハープンは桃の風味をしていて且つ蜜柑の風体をしているが、この時期、晩夏の味覚なのだそうだ。それから、この味に近い木の実がないか聞いてみるとそれは初夏の頃にオーレリアと言う名前の木の実が取れるそうだ。食感はナシリゴーをだいぶ柔らかくしたものらしい。・・・・・・完全に桃じゃないか。一年に二回もその香りを楽しめるとか、羨ましい。
ついでに、ナッチーリスと言う木の実も購入した。聞くところによると果肉は張りがあり、甘酸っぱいが、実の部分は少ないそう。しかし、ナッチーリスの真価は果肉に非ず。ナッチーリスの種の殻を割ると、中から黒い塊が取り出せる。これが安価なチョコレートの材料になるのだそう。地球で言うカカオ、ホーンビーンは高級食材で他国から仕入れるしかなく、庶民はナッチーリスの実を使ったチョコレートを親しんでいると言っていた。
去り際に、イェスディンを収穫してきて欲しいと言われたので食べ頃を三十、収穫時のを五十渡した。
それで、向かったのはイェスディンの群生地。美咲が、「残り少ない!ヤヴァイ!」と、五月蝿いのだ。・・・・・・これでも収穫時期のイェスディンの時間を進めて食べ頃の物を増やしているのだが。
美咲のしつこい要望に応える形でイェスディンの群生地に到着すると、我が目を疑った。あんなに収穫したイェスディンが、前に収穫した時以上に実っていたのだ。
呆然としていると、美咲は難しい顔をして、どれが収穫時期で、どれが食べ頃か聞いてきた。どうやら、美咲の鑑定ではそう言ったモノが解らないらしい。
それではと言うことで、美咲にはコーンディッチの収穫をお願いした。その代わり、イェスディンの食べ頃を最低五百、収穫時期のを八百収穫して欲しいと言われた。気張って収穫しなければ。
午前中から収穫を始めたイェスディンの収穫は、夕方に終わりを迎えた。終わってみれば良く収穫した物で、食べ頃を九百、収穫時期のモノを千百収穫していた。これで取り尽くして居ないのだからたまげて当然だ。
美咲の方はコーンディッチを百。途中でイルーンと言うミミズ(体長3メートル)の化け物と言うか魔物が現れて退治していたそうだ。
宿に戻ると、シミュリストルが宿に来ていた。姿は屋敷の時に変化したままだ。なんでも、この町ではその姿のままぶらぶらと出歩いておりこちらの方が気が楽なのだそうだ。
で、ここに来た理由はと言うと、ガンジュールさんが目覚めたので甘い物を食べて精でも付けさせようとの事。・・・・・・どうして頬を赤く染めるのか。
そんな事ならと食べ頃を二つ渡した。美咲に睨まれるかとも思ったが、そこまで狭量では無かったらしい。と言うより、シミュリストルに共感し、あまつさえ「私もアプローチした方が良いのかな?」とシミュリストルにアドバイスを求めていた。・・・・・・おいおい、こちとらロクに手を繋いだ試しもないし、ましてやキスなんてまだまだとてもとても。いやしたいけども。
話しは俺を置いてけぼりにヒートアップしていき、「イエス、ノー枕作る?」「イエス、イエス枕が良い!」と在らぬ方向へ話題が吹っ飛んでいった。
その様子から一旦俺は退席し、一階の食堂で過ごすことにした。この手の話題は女子の方が生々しすぎる。
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