2 突然のプロポーズ

 私の名前は白雪。

 はい、森から生まれました、白雪です。

 このことをよくお兄様たちは「それは違う」と口を揃えて言いますが、私はずっと森出身だと思っています。


 白雪という名の由来は肌が他の人より白いので白雪だとか。なんと安直な。肌だけでなく、この黒い髪も考慮して名前を決めてほしかったわ。

 そんな私にはお兄様が7人。

 お兄様たちみんな、身長が高く、とても強い頼りなる優しいお兄様。

 しかし、そんなお兄様たちにも欠点はある。


 「……お兄様、ストレートに言いますね。酔ってるからって言い訳にはなりませんよ」

 「ふぇぇ?? だって、お前、目つきの悪さは国一番じゃないか??」


 お仕事を終えたお兄様たちと夕食を取り終えると、お兄様の1人、グランビーお兄様はお酒を飲んでいた。

 グランお兄様はお酒に弱いのにも関わらず、お酒をよく飲みます。

 そして、私の目つきをよくいじります。


 これがグランお兄様の欠点らしい。

 お酒を飲みつつ楽しそうに陽気に私の目について話すお兄様。

 私はお兄様のそんなところは嫌いではありませんが、他のお兄様はどうもそこが彼の欠点らしいです。

 お兄様方は「グランは痛いシスコンだよ」と口を揃えて言うのです。


 ……………………私にはよくわかりませんが。


 初対面方には私が睨んでいると勘違いするのかよくキツイ目で見られることが多いです。

 しかし、時間をかけて交流していくと何ともないです。

 私は自分の目で困ったことはありません。


 むしろ、自分のコンプレックスのごとく心配しているのはお兄様方のほう


 「目つきのせいで街の人が嫌われていないか」


 だの、


 「目つきのせいでヤンキーにケンカを売られていないか」


 だの、


 「目つきのせいで男に言い寄られていないか」


 などと言われるのです。最後のは目つきに関係ありませんが、やたらと目つきのことを心配するの。

 そのことを思い出し、はぁと溜息をつく。

 

 「白雪、そろそろ君も学校に通わないといけないね」


 そう言ってきたのは丸メガネをかけたドグお兄様。知識が豊富なお兄様の1人で、とってもお優しい方。彼には情けない欠点がありますが、プライバシー配慮のためここでは説明しないでおきましょう。

 そんなドグお兄様は本を片手に声をかけてきた。


 「学校ですか??」

 「ああ、魔法の本をよく読んでいただろう。せっかくだし、学校に行ってちゃんと勉強するのもありだなとおもってさ」

 「でも、家事とかはどうするのですか?? とてもじゃありませんが、今していることを勉強しながらは少々きついです」

 「僕らも手伝うよ。少しは家事をやってもらうけどいいかい??」

 「はい、大丈夫です」


 コンコン。

 すると、扉を叩く音がした。

 一体夜遅くに誰が来たのでしょう??

 警戒しながら、扉を開けるとそこにはフードを被った怪しげな人。


 「あの…………あなたはどなたですか??」

 「こちらに白雪殿はいらっしゃいますか??」


 私に用??

 フードの人は隠れた顔から少しだけ瞳を見せる。ほんの一瞬だけだったけど、彼の瞳は美しかった。


 「私…………………ですが??」

 「やはりですか」

 

 やはりってどういうことでしょう?? なんかイラっとするのですが。

 

 「それでどのようなご用件ですか??」

 

 すると、フードの人は私の前で跪く。そして、小さな箱を差し出してきた。

 

 「??」

 

 小さな箱は手のひらサイズしかなく、デザインも凝ったものではない。中身は何が入っているのだろうか??

 その箱はパカっと開く。

 

 「白雪殿、私と婚約してください!!」

 「へっ!?」

 

 こ、婚約っ!? 

 見知らぬ人からのプロポーズにおろおろしてしまう。背後を見ると、私の様子に気づいたのか、グランお兄様が立っていた。

 

 「白雪、変な声だしてどうしたんだ??」

 「えっと…………その…………」

 「?? そいつ誰だよ??」

 「私にも分かりません」

 

 そう答えると、グランお兄様は腰に掛けていた剣を取り出し、刃先をフードの人に向けた。

 

 「お、お兄様!?」

 「うちの白雪に何のようだ、貴様」

 「申し遅れました」

 

 そう言うと、跪いていた男の人はフードをはらりとはずす。

 現れたのは金髪の美少年。彼の顔を私は知っていた。

 彼は水色の瞳を真っすぐこちらに向けていた。

 

 「私、ザヴィー国第2王子ヴィルヘルムと申します」

 

 やっぱり。

 隣の国ザヴィー国の王子ヴィルヘルム・J・ザヴィー。新聞でよく写真を目にしていたから、すぐに分かったわ。

 彼はとんでもなくうわさが多い人間で、女たらしだと聞いたことがある。彼のお兄さんは次期国王で、かなり優秀だとか。兄と弟でだいぶ差がある。

 

 「どうも……………………」

 

 相手が王子様なので一応礼をする。

 さすがにお兄様も剣を鞘に戻した。

 私は王子に背を向け、王子に聞こえないよう小さな声でグランお兄様に話す。

 

 「お兄様、この王子様のうわさを知っているでしょう??」

 「ああ。王子がロリコンってやつだろ??」

 「私ね、この身がどうなるか分からないけど、この婚約は受けたくないわ」

 「俺も同意見だ。白雪に何かあったら、守ってやる。だから、この王子ちゃんと結婚なんてするな」

 

 「……………………全部聞こえているんだが」

 

 王子の声が聞こえたので、私はコホンと咳払いをして、王子様の方に向く。

 

 「それで、なぜ私と婚約したいなど血迷ったことをおっしゃりにきたんですか??」

 「それは君のことを王妃様から聞いたからさ」

 「継母様おかあさまから??」

 

 グランお兄様が背後で小さく「あのババアか」と呟く。

 継母様は田舎者の私に手紙をちょくちょく送ってくる。お兄様方は「あのババアはお前のことが嫌いなんだ」とか言うけど、私はそう思っていなかった。

 隣国の王子に私のことを話すなんて、やっぱり継母様は私のことを嫌ってないのだわ。

 

 「それで私のどこかいいんですか?? 継母様が話したと言っても、知っていることは限られているでしょう??」


 元々細い私の目だけど、さらに細めて王子を睨んだ。

 こうすれば怖くなって帰ってくれるでしょう。

 と思っていると、王子はこう言った。


 「その睨む瞳がいいのさ」

 「………………………………………………………………」

 

 息をついて、お兄様の目を見て、少し頬を赤く染める王子を見る。

 

 「お兄様、この人ドМで間違いないと思うの」

 「同意見。扉、閉めようぜ」

 

 私はグランお兄様とともに扉を閉めようとすると、王子様は扉をガッと掴み、止めてきた。

 

 「ま、待ってください。僕を助けてほしいんです」

 「助けてほしい??」

 

 こんな私が王子様を助けることができるなんてできるはずない。

 

 「私には力になれません、さようなら」


 扉を掴む王子の手をはがそうとした瞬間、彼は私の手を握ってきた。


 「なれる!! 婚約してくれるだけでいいんだ!!」

 「詐欺じみた発言ですね……………………そんな言葉は留守番中に何度も聞きましたよ」

 「君と婚約すれば、厄介な令嬢たちを追い払うことができるんだ!!」


 あまりにも必死に訴えてくるので、扉を開け、王子と向き合う。


 「さっきの発言はどういうことですか??」

 「王子の僕と婚約したくて、令嬢が寄ってくるんだ」

 「それはいいことではありませんか」

 「僕は別に女たらしでもないし、ロリコンでもない。誰かさん・・・・のせいで変なうわさが立っちゃったんだよ。女の人にそこまで興味はない」

 「へぇ……………………」

 

 私は腕を組み、王子に訝し気な目を向ける。彼は冷や汗をかいているようだった。

 

 「最近は兄上がスーパービジネスウーマン、シンデレラ様と婚約してさらにひどくなった」

 

 そう言えば、そんなことを新聞で報道してたっけ??

 ビジネス界でやり手と有名なシンデレラ・アシェンプテル。先週の新聞に彼女とザヴィー国の王子の婚約のことが1面に乗っていたような気がする。


 なるほど、お兄様の嫁さんにはなれないから、1人身のこの王子を奪おうと争奪戦が起きているのね。

 それがこの王子にとっては厄介なのかぁ。

 

 「それで、私が虫よけになってほしいと??」

 「ああ、そうだ」

 「このっ…………王子とはいえ、白雪を虫よけにするなんて」

 「お兄様、少し黙ってくださいませ」


 女たらしのクソ王子とかと思っていたけど、意外にもそうではなさそう。彼の表情からは本当に困っている感じがするし。


 「報酬は??」


 でも、報酬がないと動かないわ。ただ働きになってしまうし。

 一番は生活費に当てれるお金がいいけど、まぁ基本なんでもいいわ。

 じっと待っていると王子は予想とは違う答えを口にした。

 

 「き、君の夢の手伝いをさせてもらう!!」

 「夢??」

 「君にも1つぐらい夢があるでしょう??」


 ないことはない。魔法が難なく使えたら、もっと家事は楽になるだろうし、数学や社会学を勉強すれば、さらに節約ができるかもしれない。

 今ははっきりときまっていないけどね。

 

 「いいでしょう。あなたと婚約しましょう」

 

 王子はさっきの小さな箱を差し出す。その中には大きなダイヤのついた指輪があった。

 その指輪を受け取り、右手を差し出す。

 王子は私の右手の甲にキス。背後からは「う゛ぅ~~~~」とお兄様のうめき声。

 ……………………婚約って意外とあっという間に決まるもんなのね。

 そうして、私、白雪は隣国の王子と婚約した。

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