転生したアニメオタク破天荒少女と奴隷たちの冒険記
LAST STAR
第1章 アニメは最高! でも、現実世界はつまんない!
プロローグ 私のアニオタライフは異常ですか?
ピロンッ♪
深夜0時を回りそうになった頃、まるで人の感情を逆なでするかのようにメールの受信音が鳴り響いた。作業する手を止めて手馴れた手捌きでEメールを開く。案の定、相手は忌々しい上司からのメッセージだった。
【件名:まだ出来上がってないのか? 早くしろ】
『鈴谷、分かっているとは思うが、今日の午前2時がデットラインだ。早くプレゼン資料を提出しろ。これで取引先が手を退いたら分かるな? とにかく急げ』
「はぁ~……分かってますよ? 分かっていますとも! ……ったく、クソ上司は黙って寝てろ! ツベコベ言うなら自分でやれっつうの! 何が、『これで取引先が手を引いたら分かるな?』だよ! 人に自分の仕事を投げつけておいてよくぬけぬけと……! 」
メールの一文目に「お疲れ様です」の一言も無いことに苛立ちを覚えるが、ここで理性を失うわけには行かない。なんとしても、この仕事を早く終わらせないと私の『大切な時間』が奪われてしまう。そう、アニメを観るという自由な時間が――!
「チッ、あの外道魔王め! 一生、会社に来れないように労基という名の組織の力を使って封印してやろうか!? あ~~もう時間が! 馬鹿言ってないで早くしないとヤバい!!」
私はこんな調子で毎日、仕事に追われている。基本的に営業がメインの業務なのに、なぜか今日みたいに上司の仕事を押し付けられることも多い。
「あれ、待って……だぁ~もうこんな時間だったっけ!? せめて、0時半からのアニメはリアタイで見たいのに! 春の1発目で注目してたんだから! こうしてあーしてーああああああ!!」
アニオタ歴10年の私にとって――いや、内気で人と話すことが得意ではなかったアニオタの私にとって、アニメは『人生においての安らぎと希望』だった。
それを奪われることは最早、苦痛でしかない。
「ぬらぁぁぁぁああああああ!!!」
半ば半狂乱するようにキーボードをたたいて文章を打ち込む。しかし、そんな事をしたからと言って仕事が早く終わる訳もなく、放送開始まで残り10分、5分と時が迫っていく。
「うううう……今日は無理かぁ……とほほ……」
放送開始まで残り3分のところで私は落胆しつつ、作業する手を止めた。それでもここで仕事を投げ出すわけには行かない。アニオタの活動には何かと軍資金が要る。
「クソ上司!! 覚えとれよ!! この恨み、いずれはらしたるわぁぁぁ!!!!」
どこぞのヤクザゲームのキャラの様に大声で喚き散らしてから1時間後――。
「よし、バカ上司に送信っ!☆ あ~~終わったぁ……。今月予約した初回限定特典は守りきった! 私、偉い!! さ、アニメ見よっと!」
アルコール度数3%の果樹酒を片手にソファーへと倒れ込みリモコンをカチカチと操作していく。世間一般から見れば深夜2時近い深夜帯に、いい大人がアニメを見るなど馬鹿げていると思うだろうが、私にはそんな理屈は通用しない。むしろ、そんな意見を持っている人間が世の中の大半だというのなら、私はきっとその人たちとは相容れない別な人種なのだろうと思う。
「ふふ~ん♪ 再生っと!」
「あれっ、嘘!? もうこんな時間!?」
アニメを見続けること数時間、既に朝の4時を回っていた。会社への通勤時間を考えると朝の七時半には家を出ないと遅刻してしまう。さすがの私もこれ以上は睡眠時間を削るのはヤバい。
「しょうがない、寝よう。おやす――すぅ……」
布団にスッと入り、パタッとものの数秒で眠りへと落ちた。これもアニオタ人生で身につけた力だ。睡眠と仕事以外はアニメを眺める。推し活をする。
それが私、鈴谷エリカの『アニオタライフ』だ。こうして仕事からアニメ、アニメから睡眠と同じルーティンを行う彼女の一日が静かに終わりを迎えた。
そして、眠ること数時間後――。
タカタカと多くの人が靴底を鳴らして、春風を身に浴びながら学校や会社などを目指して多くの人が歩いていく中、私も
「ぎやぁぁぁぁ!!! 遅刻だァァァァ!!!」
社会人二年目になった私にとって、こんな朝は当たり前のことだった。そんな何一つ変わらない通勤時間だったが、不意にめまいが襲った。
「うぐっ……!?」
まるで地球がぐるぐると回っているような気持ち悪い感覚に囚われ、足元がおぼつかなくなって道端で派手に倒れこむ。頭が凄く痛くて呼吸がひどく苦しい。
「あ、あれ……? 痛っ……い、だれか……たす……けて……」
転倒の衝撃と頭の痛みで小さい声しか出ない。意識が徐々に遠のいていく。
精一杯出したその声も雑踏の音に揉みくちゃにされて誰にも届かない。
「(ああ、そうか。私……ここで死ぬのかも)」
その時、私は初めてそう思った。街行く人は皆、私の姿が見えている。でも、誰も私の事など気にしていない。まるで、その視線は『面倒だ。他人事だろ』と言わんばかりに。
「(はは……そうだった。人って元々、冷たいんだよね)」
顔を苦痛で歪めながら道端で倒れ込んだ私はもうだめだと思った。
自分の体は自分がよく知っている。それでも私は願った。
「(神様。私、死にたくない……! まだ、まだ終わりたくないよ。助けて、助けてくださいっ……!)」
しかし、無情にも意識はそこでプツリと切れた。
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