第2章 異世界のドキドキと大切な仲間!

第2話 こんにちは。アナザーワールド!

チュン、チュンチュン――。


「っ……ん……?」


小鳥が囀る声が聞こえるにつれて意識が鮮明になっていく。鼻から吸い込んだ空気からは木の香りがふわ~と漂ってくる。目を擦りながら体を起すと見覚えの無い小さな小屋のベットで横になっていた。


「ここ、どこだっけ――じゃなかったぁぁぁぁ!!」


私は今までの記憶を遡り、自分が異世界に飛ばされたことを思い出して小屋のドアを思いっきり開け、外に出た。


「ハァ! あ、あれ? 森、森……だね? うん……」


私の予想では『ザ・異世界!』みたいな、ゲームのオープニングの様な景色を期待していたのだが、一面が生い茂る木々で拍子抜けな幕開けになった。ただ、その一方で空気はとても澄んでいて、凄くいい場所だということだけは確かだった。


「まぁ、想像とは違ったけど……うん、いいじゃん! 冒険の始まりって感じで!! さぁ、ココを拠点にして外の探索するぞ! うん? アレは……?」


ふと小屋の中に目を向けるとテーブルの上に白い紙のようなものが置いてあるのに気付いた。どうやら便箋入りの封筒のようだ。


「正体不明の手紙……これはまさか何かのフラグ……?」


ごくりと唾を呑みながら封を切り、中身を見る。中には丁寧に折られた二枚の紙が入っていた。一枚目を開くとそこには、こう認めてあった。


『拝啓、エリカ様。インベントリーの使い方を示した紙を入れておきましたので、参考にしてください。ユキより』と。


「おお! そっか、使い方は聞いてなかったもんね、ありがとう」


この場に居ないユキさんにお礼を言いつつ、二枚目の紙を見るとインベントリーの操作方法が描いてあった。


「えーっと、なになに? インベントリーを呼び出すには……<インベントリー・オープン>でひらっ――わぁああ!?」


突如、目の前に浮かんだ映像パネルに腰を抜かし、床に腰を打ち付ける。それでも画面は私に引っ付いてくる。


「痛ったぁぁ! こんなグワンと出て来るなんて書いてないよ~! もう、老いぼれ姉さんになんてことを……まぁ、開けたからいいんだけどさぁ?」


文句を言いつつ、打ち付けた腰を押さえながらヨロヨロと立ち上がってインベントリーの中身を確認してみるとシステム自体は、この手のゲームによくあるパターンのモノだった。アイテム欄には絵と数が描いてあり、パッパッとスマホを操る感覚でスクロールすると無数のアイテム欄があり、無限に収納できるようにも見える。


「おお~! なんか率直に思ったけどなかなかこのインベントリー凄いのかも! うーん……ってことは、この金メダルみたいなのがお金だよね? 一、十、百、千……1,000,000,000,000Gゴールド!? すっごいっ!!」


私はその額に目を瞬かせて驚く。日本円で1ゴールドが一円だったら、もうそれは私が生涯、見る事が出来なかったであろう大金だ。


「今までやってきたゲームの中じゃ、大金なはずだけど……物価が分からないし、今は後回しでいっか! あとは何か手ごろなモノを使って、出し入れを試してみようっと! おっ、あそこにいいのあるじゃん!」


小屋の隅にあった薪の山から1本だけ手に取り、テーブルにのせて紙に目を戻す。


「それで? 収納するときはモノに触れて<クロージング>……わぁ!?」


薪を手にして言葉を発した瞬間、ブルーのライトエフェクトが薪の周りに構築され、霧散するとともに薪はインベントリーの中に入っていた。


「おお~! 凄いっ! で……取り出すときは<ドロップ>ね。アイテム名や個数、出す場所なんかは思い浮かべるだけで良いの!? へぇ~これは便利かも! ん? 何か最後に書いてある?」


手紙には『追記』として一番下にこう認めてあった。


『追記:このインベントリーは本来、専用スキルで『手に取らなくても収納できるスキル』だったんですが、手心を加えました。エリカさん? 怠けずに掃除はきちんと自分の手でやるように♪』


「なぁぁぁ!? だから、手に取らないと収納できない仕組みに!? そんなの、あんまりだよぉぉぉ~!! もぉ~う……」


ユキさんの要らないサプライズを受け取ってがっくりと落ち込みながらも私は小屋の中を漁り始めた。小屋自体は台所のような場所とさっきまで居たリビング兼寝室の二部屋構成で目立った家具や使えそうな素材などはほとんど無い。装飾品もテーブルと腰掛けられる椅子が2つ。それから暖炉がある程度だ。


「ん~結局、この小屋にあるのは錆びれた包丁と薪、後は食器くらいかぁ……初心者ボーナスみたいなものがあるかな~と思ったのに……。まぁ、仕方ないかぁ」


インベントリーに使えるのかよく分からないモノを手当たり次第に突っ込んで、いよいよ冒険の醍醐味――探索だ。この世界にはどんな人たちがいるのか想像するだけで私の心は一気に高鳴る。けれど、そこで私は一旦、冷静に考える。


「……とりあえず、今は地図も無いから馬鹿な行動は慎んで、近場で街か村を探して安全を確保、で、それからここで生活できるように基盤を作るって感じにしよう。うん。そう、私は馬鹿じゃないから! ……うっ、なんか恥ずかしい」

 

自分でもアホかと思う様な突込みをして小屋を飛び出す。せっかく、生き返った命なのに魔物に殺されるとか、盗賊に襲われるとかそういう展開はごめんだ。小屋を出た私は森の中を注意深く、警戒しながら道なりに歩いていく、しばらくすると開けた大きい山道に出た。


「分かれ道か……右か左か。うーん~まぁ、左に行く人が多いんだろうけど……あえて、右!」


右に曲がった私は代わり映えしない山道を進んでいく。その道は次第に上り坂になっていき、息が上がってくる。


「ハァハァ・・・・・・あ、あれ?  やっぱり、左に行けばよかったかな?」


そう思いかけたとき後ろから馬が駆けて近づいてくる音が聞こえた。これは情報を得るチャンスに他ならない。私は意地でも止めてやると必死に手を振る。


「ちょ、ちょっと、ストッーープ!!」


大声と大きな手ぶりで合図していたこともあってか御者台に乗っていた男性は馬車の速度を緩め、私に優しく声を掛けてくれた。


「どうかされましたか?」

「あ、あの! 私、近くの村か街に行きたくって歩いていたんですけど、こっちの方に街か、村はありますか?」

「ええ。近くに『フレスト』という街がありますが……あなた、地図とか持っていないんですか? それに剣の一本も持っていないなんて――」


そりゃあ、当たり前の反応だ。着の身きのまま歩いている人間が馬車で走っている人を止めてそんな事を聞けば、そういう質問が帰ってくるのは必然だ。


「アハハ~……。その、何というか……どこかに落としちゃったみたいで」

「落としたって……? ん~身なりもちゃんとしているし、奴隷とかでも無いか」


疑うような視線をこちらに向けながら商人風の男はそう呟いた。その言葉が気にかかった私は言葉を被せる。


「奴隷?」

「あ、いや気を悪くしたのなら悪く思わないでくれ。俺みたいな商人は脱走した奴隷に襲撃を受けることがあってね。警戒していたんだ」

「それってつまり――」

「ああ! そうだ。お詫びになるか分からないけど、地図を売ってあげるよ」

「えっ!? ほんとですか? いくらですか?」

「本来、50Gだけど、お詫びも込みで20Gでどうだろう?」

「あ、ありがとうございます……! ちょっと待ってくださいね?」


私はそう言って商人に背を向けて右手を左手の上に重ね、小声で『<ドロップ>』と呟き、20ゴールドを取り出して商人に渡した。


「はい。確かにちょうど毎度あり。せっかくこうして出会ったのも何かの縁だ。フレストまで行くなら、ウチの馬車に乗っていくかい?」

「えっ!? いいんですか?」

「ああ。丸腰のお嬢さんが魔物に殺されたなんていう後味悪い話はあとから聞きたくないからな。いっそのこと、ウチの常連さんか看板娘にでもなってくれれば万々歳だが?」

「常連にはなれるかな? アハハ……じゃあ、お言葉に甘えて失礼します!」


苦笑い浮かべながらもまだ見ぬ、『フレスト』の街を一刻も早く見たかった私は御者台に乗り込んだ。


「あっ、そうだ! 私はエリカっていいます。あなたは?」

「俺はユザルダだ。フレストを拠点にして商いをしている。フレストまでの短い間だが、よろしくな。元気なお嬢さん」

「うん。よろしく!」


私はユザルダと共にフレストまで向かう。山道が下り勾配になるとすぐに大きな王城を構える円形の街、フレストが見えた。その光景に胸が高鳴り、ドキドキが止まらなくなる私なのだった。

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