第9話嵐のあとは2


 王様が連れてきた人手は体力がある騎士や、土木作業に強い大工さんたちの集団で村の建物の清掃やごみの片付けなどをせっせと行い、日が沈む前にここ数日以上にだいぶ村が片付いたのだった。


 その様子を少しの間眺めた後で、私と国王陛下に側近のミケーレさんは園舎に戻る子ども達と一緒に移動した。

 先ほどの嵐の後の政策についてを話すためだ。


 「ハルナの国ではどうだったんだ?」


 お茶を入れて席に着いてから、そう問われると私は自分が覚えている範囲のことを話し始めた。


 「私の国では大体毎年何かしらの災害が起きていました。国ではその被害に合わせて救済措置や救護や援助を決定します。一番ひどい災害は激甚災害と認定されて、復興支援に国が動きます。そして大きな災害の際は普段は国防を担う仕事の人々が災害地の復興の人手として派遣されます」


 私の話にダムド国王は関心しつつ耳を傾けてくれる。


 「して、その際の派遣はいつ決定するのだ?」


その問いかけには少し、考えてから答えた。

災害時にニュース等で知った事だからあまり定かではないけれど、答える。


 「早ければ災害からすぐにその国防を担う部隊に、災害状況の視察を災害発生から数時間のうちに決定実行しますね。私の国で少し前にあった災害では人にも土地にも大きな被害が出て、その時は三十分でたぶん被害視察の部隊が動いていたと思います」


 ダムド国王はその情報と行動の速さに驚きを隠せないように言った。


 「どうやって そんなに素早く情報収集ができるのだ」


 こればっかりは、こことの文明の違いになるかと思うが伝えてみる。


 「私の国には魔法が無くって、その代わり機械が発達しているんです。遠くの人と話せたり、文字を送れたり、撮影された映像を全国どこでも機械があれば見ることが出来たりするんです。そういったもので情報収集を行い迅速に対応してくれるんです」


 そんな私の説明に、ダムド国王は一つ頷くと納得したような顔をしている。


 「そんな便利な世界からここに来たら、随分と不便を感じるだろう?」


 そんな言葉に私はここに来て感じたことを素直に伝える。


 「確かに最初は戸惑いましたが、ここの魔法のおかげで実はそこまで生活に不便さは感じないで済んでいます」


 そんな私の言葉に感心したように、ほう? と声を漏らすダムド国王に私は言った。


 「キッチンやトイレもしっかり水が引かれているし、お風呂もある。生活水準は私の世界の実はちょっと田舎町くらいで、不便なところは私にはないんです。過ごしやすくて、村人は優しい。素敵な国です。だからここに暮らすからには、私は私に出来ることをしたいと思います」


 そんな私の言葉に、ダムド国王は目を見開くと微笑んだ。

 ダンディなおじさまの微笑みは、なかなかにドキッとした。


 「そうか、ハルナがこの国を良く思ってくれて嬉しい。ぜひ今後も力になってほしい。ハルナはもう、この国の大切な仲間だからな」


 その言葉に、私はよそ者だけど受け入れられたんだなと感じた。

 元々この村のみんなはスッと仲間内のように輪に入れてくれたけれど。

 こんな種族別に固まって過ごす村なのに珍しいんじゃないかなと思う。

 いくら落ち人が好かれるものだといっても、受け入れるか否かはやっぱり違うんじゃないかなと、ここで暮らして思うようになったのだ。

 だからこそ、受け入れてくれたこの村で暮らすのならば、ここで出来ることをしなければならないと思う。

 まだまだ半人前みたいなものだが、ここで子ども達の成長の手助けと働くお母さんたちの力になれたらと考えて、保育園を頑張ってやっていかなければと思うのだった。


 夕方には作業していた大工さんや騎士さんと村の人々が保育園に帰ってくる。

 その前に数名の騎士が保育園そばの草原に天幕を張り、煮炊きを始めた。

 保育園内でも作ってはいたものの、なかなか全員に温かいものは回らない。

 大人たちは子どもを優先して、結構嵐から四日経つ今日までつつましい食事で過ごしてきたのだ。

 温かな煮炊きのにおいは、疲れた体にいい具合に食欲を刺激する。


 「皆、頑張ってくれてありがとう。さぁ、沢山食べてくれ」


 そう、なんと煮炊きには国王さま自ら参加して料理の腕を振るっていた。

 子ども達は、そんな王様に興味津々だし危なくないように少し離れつつも王様の料理姿を眺めて過ごした。

 そんな大量のご飯は村人と応援の騎士と大工で綺麗に食べ切ったのだった。

 久々の温かくお腹一杯になれる食事に大人もやっと一心地つけたのだろう。

 みんな疲れているものの表情は穏やかになった。

 こういった時はご飯も重要なんだなと、はっきりとわかる場面になった。


そうして、国王陛下と復興支援の一行は村が綺麗になってみんなが家に帰れるまでになると、残りの食材や資材などを置いて王都へと帰っていった。


災害から二週間、村での生活が元に戻りつつあった。

戻らないのはこの被害で荒れてしまった畑の作物。

そこをみんなで力を合わせて、これからの時期に収穫の間に合うものから植えて行った。

秋に実るもの、特に今回麦が大打撃を受けてしまったので主食になる小麦粉が作れないのだ。

そんな中でギリギリ大丈夫かなとみんなで話し合って、今回植えたのはサツマイモ。

芋は主食になり得るし、お腹も満たされるからだ。


あと、私が知ってて粉になって小麦代わりに出来そうなので進めたのがトウモロコシだった。

近隣から苗状態のトウモロコシを譲ってもらい、植えることにした。

トウモロコシも乾燥させて粉状にしたものを卵や水で生地にして焼けば薄いパンみたいになるので立派な主食になるのだ。

 私の世界のトルティーヤみたいな感じにすればいいかなと、被害にあった中から無事そうなトウモロコシは綺麗に洗って乾燥させることにしつつ、新たな苗も育てている状態だ。

 そうしても人が食べるには向かなそうなトウモロコシは乾燥させて砕いて家畜たちの飼料にすることにした。

 あとはダメになった野菜たちで腐葉土になるように一部に山を作っておいたりと、なるべく無駄にならない工夫をすることにしたのだった。


 このあたりの知識も、学校で習ってたり食生活だったりの違いからの発想で私の話にみんなは最初驚いたけれど、トルティーヤもどきが完成した時にはとっても気に入ってくれた。

 食べやすいし、はさむ素材は工夫できるし、食材としては有能だと思ったんだよね。


 今では保育園でもトルティーヤが主食になっている。

 掴んで食べれるので小さな子達にも人気だ。


 そうして、なんとか秋を迎えるころにはサツマイモも収穫できたので贅沢は出来ないものの村は冬を越す支度が出来たし、王都からは緊急支援として小麦も届いて安心できたのだった。


 過ごしやすいとはいえ、冬は家畜と畑の最低限の世話以外はここではのんびり家で過ごす期間だという冬。


 珍しいことにやはり嵐があったからか、めったに降らない雪も降ったりしたがあまり積もることもなく、私はここに来て初めて編み物をライラさんに教わったりして穏やかにみんなと過ごしたのだった。


 さすが羊族の村だけあり、ここでは男性も女性もみんな親に習って編み物を習得するらしい。

 カーライドさんも、大きな手で編んでとっても綺麗に編みあがったカーディガンをくれた。

 それを見たローライドさんも負けじと同じ毛糸でマフラーを編んでくれて、いつもよりは寒いと言われたここでの冬を温かく過ごせた。


 そんな私は初心者なので、コースターをローライド家分と自分の分。

 カーライドさんへのお返しにマフラーを一本編むのが精一杯だった。

 みんな編めるだけあり、大人が作る作品は綺麗で売り物になるらしく冬の内職だと言っていた。


 私も来年は戦力になれるように、ちょっとずつ練習しようと思う。

 来年は手袋かベストが目標だとこっそりライラさんに伝えると、ライラさんは微笑んで言ってくれた。


 「ハルナは覚えるのが早いから、きっと来年は出来るようになるわ」


 そんな言葉に励まされつつも過ごした冬はそろそろ移ろい、季節は春を迎えようとしていたのだった。


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