第7話羊族の村に危機到来
夏も本格化してきたころ、村では急に慌ただしく人々が奔走し始めた。
保育園の窓から急に慌ただしくなった人々を見て私は何が起きるのかと、思わず様子を伺っているとそこにエリンさんミーナさん、キャロルさんにミレイラさんが来て告げた。
「ライラさん、ハルナちゃん明日には嵐が来るわ、準備しないと!」
その言葉にライラさんは顔色を変えた。
「ハルナ、明日は保育園は休園にしましょう。人が外に出れる状況ではなくなるわ」
その言葉に、私は嵐がとてつもない規模のものだと推測した。
「ここは高台だし、他に建物もないからしっかり準備しないと大変なことになるわね。建てたばかりの園舎はなんとか保たないと……」
そんなライラさんにエリンさんが答える。
「サムが自分の家を補強したら真っ先にここにきて補強してくれるって言ってたわ」
その言葉にうなずくライラさんに、私は聞いた。
「ライラさん、嵐ってどんなものですか?」
私の問いにライラさんは目を丸くして驚きつつもハッとすると教えてくれた。
「そうね、ハルナはここに来たばっかりだものね。嵐は文字通りよ、雨と風がすごい勢いで来るの。最近は穏やかで減っていたんだけど、最悪この農地や農場も近くの川が崩れると水没するの。昔はこの高台にみんな着の身着のまま避難したものよ」
嵐はどうやら私の世界でいう大きな台風と想像した。
私の世界でもこの季節にはちょこちょこ巨大な台風が来ては大きな被害をもたらしていた。
幸いにして私の住んでる地域ではちょっと停電くらいや軽い崖崩れ、住宅の屋根瓦が飛ぶ程度でいたけれど、海を挟んだ隣の県ではものすごい被害が出たりもしていたものだ。
場合によっては生命の危険が及ぶもの……。
こちらの嵐もその認識で合っているよう。
大人はみんな急いで明日に備えるべく動いているようだ。
「ライラさん、ここに水分と簡単に食べられる物を集めておきませんか?ここは昔避難していた場所なんですよね?」
私の言葉にライラさんはハッとする。
「そうね、今回もなにかあったらここは建物もあるし避難所になりあえるわ。キャロルとミレイラ、ここに水と食料を集めてくれるかしら」
ここには子ども用とはいえ食器もあるし、トイレ、調理場まであるのだ。
そして、最悪ここではみんななにかしら魔法も使えるというし建物が一つ残れば避難所として機能できるだろう。
「あと、毛布や肌掛けなどもあればいいかと思います」
そんな私の言葉にキャロルさんとミレイラさんは頷くと、今頼んだものを集めてここに運ぶために動き出した。
そうしていつものように遊んだり、ご飯を食べたり、お昼寝したりして過ごしたところで、お帰りの挨拶で私は大切だと思うことを子ども達に伝えることにした。
「みんなは私より耳が良くって、音に敏感だね。だから少しでも怖い、危ないと思ったら大人と離れずに過ごすこと。そして、大人の言うことをしっかり聞いて、その言うことをしっかり聞いてね。そして、なにかあったらお父さんお母さんに保育園に行こうっていうのよ」
そんな私の言葉に、メロウちゃんやノノちゃんは頷く。
カロンくんは少し考えた顔をした後に聞いてきた。
「どうして保育園に行こうって言うの?」
その問いに私はしっかりみんなを見つつ答えた。
「ここにはね、飲み物や食べ物や寝るための毛布とかを集めてあるの。ライラさんがここは昔避難所だったと言ってたから。だから危なくなる前にここに来ててほしいの。私もここで過ごすから」
私の言葉にへぇとか分かった! なんて返事を子ども達はして今日は早めに迎えに来た親御さんたちにも、ここをもしもの時の避難所にすることを話してその日はお別れした。
私とライラさんも一度家に帰ると、いろんなものを運びつつローライドさんカーライドさんも共に保育園へと戻った。
村は聞けば川があふれれば水没するというし、この高台のほうが村全体を見渡せるので自警団の長のカーライドさんも様子を見て動きやすいと思ったのでみんなで今夜からここで過ごすことにした。
「完成した時にも見たけど、ここはやっぱり可愛い作りだね」
カーライドさんは園内を見渡して微笑む。
ローライドさんも見て回って、思いついたらしくライラさんに話しかける。
「ライラ、家に眠ってるカーライドが昔好きだったおもちゃや絵本を持ってきたらどうだい?」
その言葉にライラさんは、一つ頷くと言った。
「そうね、持ってきたらみんなが遊べるわね。すっかり忘れてたけど、取っていたんだったわねぇ」
にこやかにいうライラさんは少し懐かしそうで、優しい表情をしている。
きっとカーライドさんが小さいころを思い出しているんだろうな。
すると、カタカタと窓の外から風の音がしだした。
「予測より早く来そうだな……」
そんなローライドさんの言葉の通り、天気読みさんの予測よりやや早く嵐は近づいてき始めた。
この世界に天気予報なんてない、でも魔法で空を読み翌日の天気をお知らせしてくれる天気読みという職業の方々が大体村に一人はいるんだとか。
今回もそんな天気読みさんが明日は嵐が来ると言ったので皆さん準備したのだ。
天気読みの予報は翌日のものであるがゆえに精度が高く外れることがないという。
そんな天気読みさんが異例にも明日と明後日はダメだと言ったので住人たちは慌てたのだ。
この村の天気読みさんはベテランでこの村の生き字引なマリーおばあちゃん。
マリーさんは独り暮らしなので、ここに来るときに実は一緒に来ている。
マリーさんが一人で避難するとなると大変だからと説得して一緒に来た。
今はライラさんと二人ゆっくりお茶をしている。
深夜と呼べる頃、外の風はどんどんと勢いを増し雨も降ってきたしその音はすでに叩きつけるようなもので不安になってくる。
「こりゃ、私の読み以上の嵐かもしれん……」
マリーさんの言葉にカーライドさんは外の様子を見に出た。
そして慌てて駆け込んできてローライドさんに言った。
「父さん、まずい! 川がもう溢れそうだ! 俺は村に戻って避難が大変そうなところを手伝ってくる!」
その言葉に私は一気に不安が増し、私も動こうと玄関に向かうとカーライドさんはそんな私を見て微笑んだ。
「ハルナ、大丈夫。君はここでこれから来るだろう子ども達のために残らないと。ハルナがいれば子ども達は安心するだろう?」
そんなカーライドさんの言葉に私はそれでも表情を緩めることは出来ない。
「お願いだから無理はしないでね? 気を付けてね」
そんな私の言葉に、カーライドさんは頷くと私の髪をクシャッと撫でて嵐の中を村に向かって行った。
そんなカーライドさんと入れ違うように、村の住人が続々と保育園にやってきた。
次々と来る人々に私やライラさんマリーさんにローライドさんはタオルを渡したり、お茶を入れたりした。
その後も続々と来た人々を受け入れて行ったのでてんやわんやしつつ、空が明るくなる前には保育園は村の住人約三百人で埋まった。
結構スペースとしてはきついけれど、それでも人々がみんな無事避難できたことに安心する。
カーライドさんも無事に保育園へと戻ってきて数分後、川は溢れて村がどんどん、水に飲まれていく。
暗いまま迎えた朝とともに村はいつもの様子から変わってしまったのだった。
村人すべてを受け入れられたその要因はもしかしたら今後は子どもが増えるかもという私の考えから、この村で建てるなら一番広くしちゃおうなんて考えで園舎の建築をお願いした結果だった。
大は小を兼ねるとはいえ大きすぎたかな? と完成当初は思ったものだが今回の様子を見るに結果オーライ。
広かったおかげで村人の避難所としても機能したのだから。
子ども達も、いつも過ごす園で親も近所の人も一緒で安心したようだし嵐が落ち着くまでは狭いながらもみんな顔見知りの住人たちは穏やかに過ごすことができたのだった。
そうして嵐は翌日の昼までには大人しくなり、水もその日の夕方には引いていったが、もう一晩はみんなで保育園で過ごして翌日みんなで村に戻ることに決まったのだった。
建物、作物に被害はあるだろうが人的被害がなく嵐を乗り切れたことに大人たちはほっとしたのだった。
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