第1237話 楽しまないと損だ。的なお話

「で、出かけるのはいいとして、そもそもここはどこなんだ?」

「ここは即席で作った隔離領域だの。人を転移させるにしても転移する瞬間を見られると面倒だからの。レントがいた場所には人除けの結界を張って転移する瞬間が見えぬようにしたし、転移先もこの隔離領域だから転移してくる瞬間も見られぬというわけじゃ。」

「ちょっと人を呼ぶだけで随分とまた大仰な……。」

「転移はそう簡単に出来るものではないからのう。この国でも妾を除けば片手で数えるほどしかおらぬ。」

「それでも数人は居るのか……。」

「それが得意な一族がおるのでな。それよりも、そろそろここを出て遊びに行くぞ!」

「待て待て! そのまま出て行く気か?」

「何か問題でもあるかの?」

「問題も何も、帝がそのまま出ていけば街中は混乱必至だろうが。」

「それは大丈夫だとは思うがな。市井のもので妾の姿を知っておる者など1人もおらぬであろうよ。」

「だけど大名がいるだろ。今はどこで遭遇するか分からないだろ。」

「遭遇って、大名を虫か何かと考えておらぬか?」

「相手をするのが面倒なのはどちらも変わらないだろ。」

「一応妾の部下に当たるのだがな……まあよい。その点に関しても問題はない。妾に会う事が出来る大名は一等、二等、三等大名とその直系のみだからな。そして、その変ならば単独で街中を出歩くなどあり得ぬし、そうであったとしても向こうも向こうでお忍びだと悟ってくれるであろうよ。」

「それは虫がよすぎやしないですかね……。それにその見た目も絶対目立ちますよ!」

「そうかの?」

「そうです。」

「仕方ないのぅ……ならこれで良いか?」


ーーパチンッ!


紅白巫女が指パッチンをすると途端に髪と瞳の色が変わりどちらも紅蓮の炎を彷彿とさせる色に変わった。

火神子だからかな。

しかし……


「それだと全身真っ赤でそれはそれで目立ちそうだな。」

「全く、注文の多いやつだのぅ。しばし待っとれ。今着替えてくるから。」


あ、そこは指パッチンじゃないんだね。

と、それよりも俺もこの時間に変装しないとな。

カツラに帽子、そして眼鏡。

全部は必要ないような気がしないでもないけど、一応ね。


「待たせたの……って、レントも変装するのか。」

「ああ、英雄役という事で至る所にグッズがな……気軽に街も歩けないよ。」

「それは大変そうだな……。」

「多少はね。それは置いといて、折角祭りに行くんだし楽しまないとな。」

「うむ! では早速行くぞ。」


そうして再び紅白巫女が指パッチンをすれば先程までいた隔離領域ではなく全く知らない場所に立っていた。


「ここは?」

「ヒノモトの街外れにある家の中だ。転移するにしても人目を避ける必要がある故、その為の場所として用意した所じゃ。」


なら安全という事か。

ゴロツキどもの屯する場所になってない限りは、だけど。


「では早速……。」

「ん? どうした?」

「は、逸れるといかんからの……その、手を繋いで良いか?」

「ああ、それくらいなら構わないぞ。」

「そ、そうか!」


嬉しそうだな。

まあ、帝なんてやってたら気軽に出歩くのもままならないだろうし、ましてやこうして男となんて無理だろう。

相手が俺というのは反応に困る所だが、まあ、向こうはそんな気ないだろう。

だって仮にも神様なんだし俺みたいな一般的な転移者、相手にしないだろう。

所で、一般的な転移者って一体なんなんだろうな?

チートが無い中途半端な奴の事だろうか?


「ほれ、行くぞ。」

「ああ、分かってるって。」


ま、どうでもいいか。

それよりも自分で言った通り、折角の祭りだ。

楽しまないと損だ。

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