第1225話 楽しみだと思えてくるから不思議だ。的なお話

「落ち着いた?」

「まあ、な。」


場所を移して一息つく。

蒼井が無駄に優しいが、原因が蒼井だからな。

一応気にしての事なんだろう。


「ごめんね、あんな物見せて。私が見せなければこうはならなかったのに。」

「いや、断る事だって出来たし結局見る事を選んだのは俺だからな。あんま気にするな。あんなヤバいのが出てくるとは思わなかったけど。」

「あはは……私も簡単な内容くらいは言えば良かったわね。」


それはそうなんだが、それも聞かなかった俺が悪い。

いや、1番悪いのはあんな有害書籍を描いた人なんだけどさ。

告知して顔見せしてからまだ3週間くらいしか経ってないのに、描き上げて書籍化してるのは凄いが、その熱意をもっと健全な方向に向けて欲しいものだ。

その速筆は才能だと思うし。


「それにしても、蒼井もよくBLなんて知ってたな。結構濃い趣味だし普通の人はあんま知らないだろ?」

「あー、女子校にも色々あるのよ。」

「は?」

「女子校って男からしたら楽園みたいに思うかもしれないけど、実態はそんないい物じゃないし。生理用品が宙を舞うし、ロッカーは汚い人は結構いるし、会話も結構下世話な話も多いのよ……。」

「マジかよ……同じ楽園でもアデルのとは大違いだな。」

「あれと一緒にしちゃダメでしょ。」

「だな。」


あれは本当にすごかった。

植物が咲き乱れ、精霊が舞いなんとも幻想的な光景だったからな。

あれこそまさに神話というべき光景だった。


「さて、それじゃまた回るとするか。時間的にはそろそろお昼時だけどどうする?」

「この時期限定のとか無いかな? どうかなユキノちゃん。」

「旬のという事ではなく、封竜祭だからこその、という意味だな?」

「うん。」

「特にこれという物はないが、強いて言えば竜田揚げだな。」

「竜田揚げ? 何故に?」


蒼井が疑問をそのまま口にする。

その疑問は俺も同じだし、アカネも同じように疑問顔をしている。


「あー、昔旅の者が封竜祭の時期にやって来てな、その時にこの料理を伝えたとされる。なんでもたつというのは竜の事で、その竜の名が入っていて見た目が衣で包まれている様は封印のようじゃないかと言っていたとか。それ以来封竜祭では竜田揚げが売られるようになったのだ。」

「「「あー、そういう事。」」」


その旅人さんも日本人だったんだね。


「その反応……そうか。日本の料理なんだな。」

「まあ、そうだな。基本的には唐揚げの一種とされていて昔の日本ではクジラなんかがよく使われていたらしい。今じゃ反捕鯨団体とかの関係でクジラ肉が食卓に上がる事はまず無いけどね。」


脱脂粉乳に揚げパン、クジラの竜田揚げ。

この辺はテレビなんかで良く昭和の代表的な給食ってやってるから知ってる。

食べた事は当然無いけど。


「とはいえ、竜田揚げは久しぶりだし食べたくなってきたな。」

「確かにそうかも。」

「でも、なんで今まで見かけなかったのかな? 広まっててももおかしくないのに17年間生きてて見かけなかったわよ。」

「そりゃあれだろ。普通に料理方法を知らなかったんだろ。というか俺自身、竜田揚げと唐揚げの調理方法の違いなんて知らないしな。その点唐揚げなんて人気の料理だから調理法自体は知ってても不思議じゃないさ。」

「そういう事。言われてみれば私も竜田揚げの作り方知らないわね。唐揚げなら知ってるわ。うろ覚えだけど。」

「それは知ってるに入るのか?」

「入るわよ!」


うろ覚えは知ってる内に入るらしい。


「ま、まあ、取り敢えずその竜田揚げ? っていうのを食べようよ。」

「そうだな。ユキノ、案内任せた。」

「そう言うと思っていたよ。ではこっちだ。」


特に恋しくなる料理じゃないけど、久しぶりに食べられると思うと楽しみだと思えてくるから不思議だ。

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