第1206話 とても心に残る光景だった。的なお話
ずずずっとお茶を啜った紅白巫女。
お茶請けのお菓子の量がえげつないが、それもこの紅白巫女の食事量を考えれば当然か。
そういえば以前母もよく食べる人だって言ってたよな?
という事はあれか?
天照大御神も大食いなの!?
なんか、衝撃的なんだけど……。
紅白巫女が手ずからに用意してくれたお茶を飲むが、気楽に飲めているのは俺だけのようで、他のみんなは相手帝だし、それに半神半人だし……みたいな感じで恐縮していて手をつけられないでいるみたい。
俺は弁当を貪り合うというか、奪い合うというか、そんな関係だったので今更恐縮する理由もないので問題ないんだけどね。
というか、半分だけとはいえ神様の癖に弁当集りに来るとかちょっと卑しくない?
そりゃ卑弥呼なんて呼ばれもするよ。
「あ、お茶菓子貰うね。」
「うむ。好きなだけ食べるがよいぞ。」
美味しいなこれ。
後でどこで買ったのか聞こうかな?
「では、話を続けるぞ。」
お茶で一息ついたからか、紅白巫女は話を始めると言い出すのでそれに頷きを返す。
そういえば、未だに紅白巫女って考えてるけど、名前で呼んでいいのかな?
それとも呼んじゃダメなのかな?
……後でいいか。
いまは話をちゃんと聞こう。
「妾がアリシア殿から受けた頼みというのはこの国に居た神獣の龍人を手助けして欲しいというものであった。レントはダンジョンの目的について知っておるか?」
「ああ。」
「裏の目的も?」
「裏が何を意味してるかは分からないけど、龍脈がどうのって話なら聞いたことある。」
「そうか。件の龍人もその龍脈に関する仕事をしておった。ダンジョンが龍脈の流れの淀みや龍栓を正すのに対して、その龍人は龍脈に流れる魔力の中で汚染された魔力を浄化する役目を担っておった。」
「汚染された……? 何故、汚染されるんですか?」
「人も魔物も負の感情に支配されればその感情に影響されて魔力も穢れる。そうして世に出た魔力は基本的には自然の中で清められるが、そうはなそうはならなかった魔力が龍脈へと流れこむ事がある。それを浄化するのがその龍人、ルカの仕事だった。妾も火の神故、全てを浄化する白焔が使えるのでな、それで助ける事になったのじゃ。まあ、もっとも当時は戦乱で浄化するにも一苦労でな……それでまずは乱世を鎮めたら妾が帝になる羽目になったりもしたんじゃが……今はそれは置いておこう。」
いや、置いておけないんですけど。
なんでそうなるんですか?
その辺も詳しく聞きたい。
聞かないけど。
今はそれは関係ないみたいだし。
「ずずず……ふぅ。そうしてヤマトを安定させてようやっと浄化を安定して行えるようになったのだがな。」
え、何?
なんか、空気が重いぞ?
「龍脈はこの世界全ての大陸とも繋がっている。時代なのかの……他の大陸でも戦乱が続いていてな、汚染された魔力が多く、妾も政にかかりきりで浄化をルカに任せきりにしてしまった……。その結果どうなったと思う?」
「どう、なったんですか……?」
「ルカの精神が汚染され、暴走した。ルカは神獣の龍人。その神獣とは龍脈を司る黄龍。もう、分かるじゃろ?」
「そんな事って……。」
封竜祭の、封じられた竜って、その黄龍の……ルカって、人なのか……。
「ルカは楽しい事が大好きであった……だから祭りを定期的に行うのじゃ。少しでもその楽しい雰囲気が伝わるようにな。」
なんて言えばいいんだろうか?
俺はこういう時に言う言葉を持ち合わせていない。
上っ面だけの言葉なんて言ったところでなんの意味もないだろう。
それに、本の通りならばそれは600年も前の事だ。
今更俺が何か言ったところで何度も聞いた言葉でしかないだろう。
「英雄演舞は、その時の事を忘れない為に、そして、いつかルカが元に戻った時に、一緒に見て、こんな事もあったなと笑えるように続けておるのじゃ。」
「……その、元に戻るんですか?」
「いつかはな。腐っても神獣の龍人。汚染されても持ち前の回復力と浄化の力があるからな。いつになるかは分からぬが、必ず戻ってくれると信じているさ。」
そう言う紅白巫女の眼はどこか寂しそうで、見た目も相まってとても儚げでとても心に残る光景だった。
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