第1198話 遠くから見るだけで良かったんだけどなぁ…。的なお話

「それでこの後どうするの? 予定は決まってなかったよね?」


お昼を食べ終わり、食後のお茶を飲んでいるとセフィアがそう聞いてくる。

確かに昨日街を歩いていた段階では予定は決まっていなかった。

だが、それは昨日のその時までの話だ。


「それなんだけどな、美術館に行こうと思うんだ。」

「美術館?」

「えー、美術館〜?」

「実は昨日の内に宿の人に場所を聞いていたんだ。ほら、俺達ってこれまで街に出かけてもウィンドウショッピングとか劇場とかは露店とかは見たことあるけど美術関連の施設には一度も行った事ないだろ? だから昨日ルナが絵を描いていたって話を聞いて丁度いいかなって思ったんだ。」

「なるほどね。確かに行った事なかったよね。いいんじゃないかな。」

「でも美術館なんて行って何になるのさ?」

「じゃあ、蒼井は置いていくとして……」

「ちょっ!? 行かないとは言ってないじゃない!」


1人置いていかれるのは嫌なんですね。

ちょっと分かる。

なんか、無性に寂しくなるよな。

要らない子扱いされてるわけじゃないけど、なんかこう……ねぇ?

うまく表現出来ないけどちょっと来るものがあったりするよな?


「確かに日本に美術館とかは何のために行くのか分からない。ハッキリ言って芸術に興味がなければ行ったところで何がどう凄いのかも分からず大半の物も見た事ない作品だろうから興味も湧かないだろう。だが、ここはどこだ?」

「異世界……そうよね。日本……いや、地球じゃ見れなかった物が見れるかもしれないわね。それに、ここヤマトなら和を感じられるものもあるかもしれないし、行ってみる価値はあるかもしれない。」


そんなわけで全員で美術館へ。


「レント、良くいつも言いくるめられるわね……。」

「それほどのことじゃないが、まあ、一応幼馴染だしな。」


アカネが蒼井操作法に感心してるみたいだが、本当に大したことじゃない。

今回の事は興味や関心がないから行くのが億劫だったわけで、ならば興味を持たせてやればいいだけの話。

結果はご覧の通りってね。


入館料を払い中に入ると真っ先にお出迎えしてくれたのは巨大なドラゴンの彫刻。

説明書きにはこのドラゴンは封竜祭の元となった封じられた竜を想像して製作された物らしい。

まあ、実際の出来事は遥か昔だし、その時を知る人なんてそうそういないだろうし、いたとしても当時にこんなでかい物を作って保管するなんて無理だろう。

となれば伝承とかそういうのから想像するしかないだろうな。


だが、封竜祭の演舞をする前にこれを見られたのは良かったのかもしれないな。

少しは英雄の気分が味わえそうだし。


「あ、今封竜祭記念の英雄展をやってるって。」

「そうなのか。」

「どこの世界も商魂たくましいわね。」


蒼井の言いたいことは分かるが、今回はラッキーだったと思う。

英雄役がその英雄の事を知らないなんて恥ずかしいもんな。

このチャンスに少しでも英雄について知れるといいな。


と思っていたが、どうやら英雄展をやっているのは1番上の階らしい。

一番の目玉企画だから最後にとっておきたいのかもな。

一応、各階に行ける階段がすぐそこにあるけど……折角だから全部見て回ろうかな。

俺も美術館に入るのは初だし。


一階のフロアに入ってすぐに見えたのはヤマトの大まかな年表で、帝前と帝後で分けられていた。

帝前帝後って事は1000年間在位していると噂の帝の在任前と後で分けられているって事だよね?

そして帝が在位する前はどうもヤマトは群雄割拠の時代しかなかったようで、たまに大きな国が複数出来て停戦状態になる事はあったみたいだが、完全なる統一を果たしたのは帝だけのようだ。

凄いね。

でも余計会うのが怖くなってくるよ。

本当になんで会うことになったんだろう……?

ちょっと遠くから見るだけで良かったんだけどなぁ……。

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