第1167話 これで全部終わったんだな…。的なお話

弁当の中身は俺の好きな物が多いが、それ以外に色は赤くないがたこさんウインナーやトンカツ、レンコンを使った煮物なんかの験担ぎにいい料理……たこさんウインナーって料理なのか?

まあ、いいか。

そんな験担ぎの料理もある。


「今回もどれも美味いのだが……失敗作も入っていたりするのだな。少し硬いの。それに少し焦げておる。」


紅白巫女は笑いながら少々黒っぽいトンカツを持ちながらそう言う。

それに、紅白巫女の言う通り揚げ過ぎな為に肉も硬くなってしまっている。

カツの衣もザクザクではなくガリガリという少々アレな音がしているし。

これ、どう考えてもセフィア達が作ったやつじゃないよな。


験担ぎの料理だけど、あくまでもそれは地球は日本での話で、こっちでもそうとは限らない。

ウインナーはウィナーにかけているし、トンカツは勝つという日本語とかかっている。

レンコンは微妙だな。

確かレンコンは先が見通せるってのだからこっちでもあるのかもしれない。

でも、トンカツは少なくともこの世界では験の良い料理とは言えないだろう。

そしてこの出来栄え……まさか蒼井が?

なんで蒼井が?

頑張れって事なんだろうけど……なんかこう、照れ臭いな。

嬉しくはあるんだけど、やっぱりね……。

まあ、出来はともかくこうして受かる事を願って作ってくれたわけだし、これもちゃんと食べよう。

愛はともかく、想いは篭ってるだろうしね。


「ふぅ〜。食った食った。じゃが……明日から食えぬとなると、寂しくなるのう。」

「受かればまた弁当になるだろうけど、そればっかりは時の運ですからね。それじゃあ、俺はこれで。」

「うむ。午後も頑張るんじゃぞ。」

「分かってますって。」


紅白巫女と別れて道場に戻るそこには何人かの他の受験者が既にいて自主練をしている。

流石に最終日ともなると、やる気も違ってくるよな。

あ、そういえばあっちの人は最初の方にミスってた人だ。

そりゃ自主練をするよな。

午後の通し稽古で良い成果を出せなきゃ落ちるの確定してるんだから。


俺は精神統一やイメージトレーニングをしてようかな。

食べたばっかりだから動くと横っ腹痛くなっちゃうし。

同じ失敗は繰り返さない。


そして午後の通し稽古の時間となる。

泣いても笑ってもこれがラストチャンス。

悔いのないように全力……は出すとダメなので、程々に頑張る。


順番が逆からで、俺はどちらかといえば前半の方だったので午前の時に比べて待つ時間が長い。

その間他の受験者の演舞を見ているわけだけど、全力で頑張っているように見える。

やっぱり手加減に苦労しているのは俺くらいのものらしい。

これまで頑張って来たのがここで足を引っ張るとはなぁ……と何度でも思ってしまうが無い物ねだり……じゃないな。

ある物後悔? そんな感じの事をしてしまうのは仕方ないだろう。

そんな事を考えているうちに演舞は次の人の番。


いかんいかん。

他の人の演舞を見て少しでも動きの速さを調節しなくては。

そんな俺の思いとは裏腹に時間はどんどんと過ぎていく。

時間のいい所は必ず過ぎていく所。

時間の悪い所は必ず訪れる所って何かで見たなぁ。

まさに今がそんな状況。

もう少しだけ待ってほしいが、そうは問屋が下さない。


意を決して前に出る。

ここまで来たら後はもう野となれ山となれってんだ。

やるだけやる。

出来ることを精一杯やる。

それだけだ。


速さだけじゃなく、足の向きから指先まで全身の動きを意識して魅せるように動いていく。

力み過ぎてはダメ。

自然体で、でも迫力が出るように……。


演舞に全神経を集中していたせいかあっという間の5分間だった。

気付けば終わっていた。

そんな印象。

これで終わり?

なんかあっけない。

後は場所を空けて、最後に指導役の人達の話を聞くだけ?

なんだろう、この感じ……。

フワフワして現実味がない。

それでも、これで全部終わったんだな……。

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