第1026話 早く魔物が出てきてくれると嬉しいんだけど。的なお話

「どう? 落ち着いた?」

「……少しは。」


俺が地を転げ回ってしばらく経ち、ようやく少し落ち着いてきた。

そうして落ち着いてきたからか気になる事が出来た。

気になるというか、ふと思ったって感じだけど。


「ルナって、魅了を使えたんだな。」

「っ!? ……嫌いに……なった?」

「いや、それ自体が嫌なわけじゃないし、嫌いになったわけでもない。というか、サキュバスなんだからそれくらい使えても不思議じゃないなって思うけど、ただ単純に、使えたんだなって。今まで使ってるのを見たことなかったから。」


まあ、使えたら使えたで、じゃあなんで今まで使ってこなかったのかっていう話になるんだけど。

でもルナは自身の容姿……というかごく一部だけど、そのサキュバス由来の部位がコンプレックスというか、あまり好きじゃないんだと思うから、そういうのを気にして使ってこなかったのかもしれないが。

サキュバス由来の力を使う事で、自身がサキュバスなんだと認識させられて、そのコンプレックスを意識させられるみたいな感じでさ。


「基本的に、魅了の力も、普通の魔法と、同様に、MDFが関わってて、それで魅了も、相手のMDFが高いと効かないの。でも、ある条件下では、その限りじゃないの。」

「条件って?」

「受ける側が、相手に心を開いている事。」

「つまり、好かれている相手だと魅了掛け放題だと。元々魅了されているようなものだから当然といえば当然か。」

「うん、そんな感じ。」


好かれていると言葉にされたのが嬉しかったのか、ルナは頬を染めてる。

うん。

かわいい。


「魅了の事は分かった。それで、魅了を掛ける理由になった精神汚染ってのは結局なんなのか、分かる? なんか、突然やる気がなくなったというか、気怠くなって無気力な感じになったんだけど。」

「多分、停滞の状態異常、だと思う。何もしなかったら、きっと、その場に座り込んじゃって、そのまま……。」

「食われてたと?」

「うん。」

「ちなみに、上書きする以外に治療する方法はある?」

「気付け薬を飲ませるか、もしくは、強い衝撃を、受けさせる。或いは、精神を、大きく揺さぶる、何かがあった、時。」

「……こんな事になるとは思ってなかったから気付け薬なんて持ってない。」

「精神干渉、出来る魔物自体、珍しいから。」

「そうだとしても、今をどうするかだなぁ。とりあえず遭遇しない事を祈るか。」

「とりあえずっていうか、それしか出来ないの間違いでしょ。」

「いやまあ、そうなんだけどな……。それでだ、ひとまず二手に分かれて間引き、昼に湖で合流って形にしようと思うけど、どうかな?」

「二手に分かれるのは危なくない?」

「そうかもしれないけど、効率がな。それに、しばらくの間は停滞に掛からなかったから即座に撤退すれば問題はないと思う。」

「うーん……そうかもしれないけど、でも……うーん。」

「納得出来ない?」

「うん、まあ、そうだね……。危ないのは、極力避けたいかな。」

「分かった。じゃあ、全員で行動しようか。」

「手のひらぐるっぐるじゃない!」

「うっさい。嫁の意見だぞ。聞くに決まってるじゃないか。」

「手のひら?」

「えーとね、日本には手のひらを返すっていうことわざがあるの。相手の評価や言葉なんかによって簡単に意見や評価を翻すって事なんだけど、そこから派生して簡単に手のひらを返す様から回転するものに例えるようになったのよ。」

「へー。」

「あの、これ、言った私が恥ずかしいんだけど……。」

「まあ、茶番は置いといて。」

「元はと言えばあんたの所為でしょ!」

「死体は回収した事だし早速間引きをしよう。」


さて、最初は何が出てくるかな〜。

なんか背中に視線が刺さってくるし、早く魔物が出てきてくれると嬉しいんだけど。

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