第990話 余韻に浸らせて欲しいです。的なお話

「で、オレは何を教えればいいんだ?」

「それはまあ、ご自由に?」

「なんだそれ。いい加減だなぁ。」

「まあ、この子がちゃんと生きていけるようにっていうのが目的だから、これをして欲しいっていうのは無いですし。この子が出来ることを、得意とすることがあれば尚いいですけどね。」

「お人好しだなぁ……。お前、よくそう言われねぇか?」

「そうでもないですよ。俺が伸ばすことが出来るのはこの2本の手だけです。たった2本で出来ることなんてたかが知れてます。俺に出来るのなんて、大切な人を守り、そのついでに関わった人をほんの少し手助けするので背一杯ですよ。だから、お人好しなんて言われるほどじゃないです。」


俺の好きなあのアニメの主人公は辛い目に、本当に辛い目にあってなお、誰かを助ける為にいつでも一生懸命で、いつだって助けたいと手を伸ばし続けていた。

俺にあの主人公みたいな真似なんて到底出来ない。

主人公ではないこの身なんかじゃ所詮はその程度。

それでも、ちょっとだけ手を伸ばすことくらいは出来る。

アニメの影響でなんてちょっとおかしいかもしれないけど、そう悪い物じゃない。

何かの影響だろうがなんだろうが、人助けをする事は間違いなくいいことなんだからさ。


「ちょっと俺には難しいけど、それでも、お前がいい奴だということは分かる。ありがとな。」

「いえ。」

「さて、となると、まずは何をさせてみよっかなー?」


今すぐ教える気みたいだし、俺達はここらで退散するとしますか。


「あ、お兄さん。街案内するって意気込んでいたのに結局全然街を案内出来なかったし、それに色々と迷惑かけちゃって、だから、その、ごめんなさい! それと、ありがとう! 俺の為に色々してくれて。俺、絶対この事を忘れないから! いつか、お兄さんがまた来た時に、助けて良かったって思ってくれるくらい、頑張るから!」

「ああ、頑張れよ。」


最後の少年の顔はすごく生き生きとしていて、その時点でもうすでに助けて良かったって思っちゃったんだけど、それはそれ。

ヤマトから帰ってくる時に、少年がどれだけ成長しているか、どれだけ頑張ったか、それを見るのが今から楽しみだ。

それに、少年がどんな適性があるのかも気になる所。

意外と鍛治方面に適性があったりしてな。

もしそうなったら一緒にやるのも面白いかもしれない。

もちろんそれ以外の物に才能があってもそれはそれでいいと思う。

大事なのは少年の才能を伸ばす事。

仮に才能が無くても、一生懸命努力した結果はちゃんと自分の中に残るはずだ。


と、いい感じに終われば良かったんだけどなぁ……。


少年とミスリアさんと別れた俺達は今更観光する気にもなれないしと、早めに宿に戻った。

そしてその後は軽く時間を潰してからお風呂に入り、出たタイミングで夕食となる。

高い金を払っただけあって、お風呂は広くて豪華だったし、夕食も豪勢ですごく美味しかった。


人助けといういい事をして、その後に大きなお風呂と豪華な食事と最高の気分で、後はもうふかふかのベッドで眠るだけのはずだった。

だったのに、なんで俺は今部屋の隅に追いやられているんだろうなぁ……。


「さ、今夜もよろしくね。」


ミスリアさんに両刀だと疑われたり、小児性愛者かと思われたりしたけだ、そんなわけない。

そんなのに靡くほど余裕なんかありゃしない。

だって今日もこうして、襲われるのだから。

最終的には流されて楽しんじゃうとはいえ、ゆっくり休む時間をくれてもバチは当たらないんですよ?

というか、少しくらい余韻に浸らせて欲しいです。

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