第983話 それでも何かしたい。的なお話
一頻り泣いて落ち着いたのか、ミスリアさんは目をぐしぐしって感じで擦った後、パチンと音をさせながら両頬を叩いて気合を入れた。
俺もそれやるけど、他人がやってるのは初めて見るかも。
「なんか、変なところ見せちまって悪いな。さて、それじゃ会計だな。つっても、元々売り物のつもりも無かったから値段とか付けてねーんだよなぁ……どうすっかな……よし、決めた。それはタダでやるよ。」
「え、いいんですか?」
「いいんだよ。それを気に入ってくれただけで十分だ。」
「分かりました。それじゃ、いただきますね。」
「ああ。」
ニカっとするミスリアさん。
まあいい笑顔だ事。
吹っ切れたって感じだな。
欲しい物があったウチのメンバーがそれぞれ購入をした後、万物屋を立ち去った。
店を出る時にミスリアさんは俺を呼び止めてこう言ってきた。
「なんか、ありがとな。お前のおかげでやる気出たわ。次ここ来る事があったらなんかサービスしてやるよ。なんだったら、こっちでもいいんだぜ?」
と。
そう言いながら上着の内側を指してきた時には驚いたものだ。
最後の最後にそっち方面にもっていくんだものな。
まあ、そのサービスは丁重にお断りしたけど。
嫁恋人が合計10人もいるんだし、そっち方面は十分事足りてます。
〜ミスリア視点〜
行っちまったか……。
最後のは冗談じゃなかったんだけどな。
でもまあ、仕方ないか。
あいつの周りにはオレなんかよりも女の子らしくて可愛い子が居るんだ。
そもそもオレなんかが入る余地はねーか。
オレももう少し若けりゃなぁ……あいつとは少し歳が離れてるし。
見た感じ15くらいだし流石に7も違うとな。
せめて、次来てくれた時に良いもん出せるように頑張らねーとな。
って、あっ!
そういや名前聞くの忘れてた!
〜レント視点に戻ります〜
さて、次はどこに行くのかな?
あ、でも万物屋ではそれなりに時間を食ったし、今はお昼の方が先かな。
「次は昼食が食いたいんだけど、どこかおすすめとかあるかな?」
「おすすめな〜人がよく行っててうまそうな匂いがする店でいいか?」
そういえばスラムに住んでるんでしたね。
屋台の時もそんな感じで評判を頼りにお勧めしてたし、流石に客として来れたりはしないか。
「じゃあそこで。」
「分かった。こっちだぜ。」
案内された店は人が多く、まだお昼になったばかりだというのにかなりの賑わいを見せている。
それにいい匂いも漂ってきてるし、これは当たりかもしれないな。
人の多さはちょっとどうかと思うけど。
「そんじゃ俺は外で待ってるから。」
「は? 何言ってんの? 君も一緒に決まってるじゃないか。」
「いやでも俺金無いし。」
「そんなの俺が払うよ。」
「でもそしたら報酬が……。」
「これも経費だから気にすんなって。冒険者の護衛依頼の中には依頼人が食事を提供する事があるしそれと一緒だよ。」
俺、護衛依頼なんてまともに受けた事ないんだけどな。
でもこうでも言わないときっと遠慮してしまうだろう。
こんなのはただの偽善だということは分かってる。
子供が食べれないのは子供の責任ではなく大人の責任だって、なんかで見た。
ラノベかもしれないけど、それは的を得ているような気がして俺もそうなのかもしれないと思った。
だから、こうして手を出すのだ。
今回限りだしなんの意味もない自己満足なのかもしれない。
こんな事してもこの子は救われないだろう。
だけど、それでも何かしたい。
やらない善よりやる偽善。
少なくとも、今こうしてこの子が笑顔でいられるくらいの意味はあるはずだ。
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