第869話 今は何も考えられない。的なお話
ナタリアさんの一撃で怯み一瞬力が抜けてミノタウロス亜種に隙ができる。
その隙を見逃す手はない。
「せいっ!」
大斧を弾き返す刃で胴体を斬りつけるが、浅かった。
予想よりも硬くて浅くなってしまった。
攻撃を受けてバックステップで一旦距離を取ろうとするミノタウロス亜種だけど、そんな事させるわけがない。
ミノタウロス亜種は体がデカく武器も大斧ととにかく威力とリーチが大きい。
だが、逆にいえば懐ではその力を万全に振るうことが出来ないということだ。
大斧の形状故に懐では攻撃は難しいだろう。
踏み込んで距離を離させる事はさせず、とにかく攻撃を繰り返す。
そうなれば自分の体近くで攻撃もままならずミノタウロス亜種は防戦一方となる。
今の流れは完全にこちらだ。
このまま押し切れればいいが、そうは問屋がおろさないようだ。
さっきまで大斧の柄でひたすらに防御に徹していたミノタウロス亜種は突然大斧から片手を離して殴りかかって来た。
俺が攻撃して防御が遅れるタイミングを狙ってだ。
しかも自分は俺の攻撃が深手にならないよう大斧で衝撃を緩和してやがる。
「ぐあっ!」
咄嗟にバックステップをするがもろに食らってしまう。
くっそ痛え!
おまけに口ん中切った!
うげぇ……血の味が口の中に充満する。
地面を転がった俺に追撃を仕掛けて来るミノタウロス亜種。
今度はこちらが防戦一方となり流れは向こうに持っていかれた。
そして一撃一撃が重い。
防ぐ度にビリビリと来るよ。
これ、防ぐの失敗したら死ぬんじゃね?
そう思ったら動悸が……変わらないな。
俺、どっか麻痺ってんのか?
それとも、ステータスあげるとその辺も抑制されるのだろうか?
分からないが、恐怖で動けなくならなくて助かるから今はどうでもいい。
「フレイムジャベリン!」
ナイスタイミング。
これで隙が……出来ない!?
おいおいマジかよ……顔面焼け爛れてるのに無視かよ。
というか頰肉抉れて骨とか見えてるんですけど!?
普通に怖いんですけど!?
「ブモォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
「ぐっ!」
ミノタウロス亜種の叫びがビリビリと響く。
もしやこいつも狂化持ちか?
だけど大丈夫。
こいつは亜種とはいえミノタウロスだ。
レックスよりも格は落ちる。
だから大丈夫。
恐慌状態になんかなる筈がない。
落ち着けば問題ない。
ーードサッ!
しかし、ナタリアさんはそうでは無かった。
なんでだ?
前にレックスと戦っていたことがあったけど、その時は大丈夫だったじゃないか?
なのになんで……?
あの時は……仲間が居たから、か?
だけど今は仲間が居なくてたった2人だけだ。
それだけじゃない。
突然の転移に逃げることが出来ない状況、ここがどこかも分からずどうすれば帰れるかも分からない。
心が弱っていたとしてもおかしくはない。
「なら俺が、やるしかない!」
全力を出してはいたが、それでもまだ余力を残すようにしていた。
しかしそうも言ってられなくなった。
ここからはもう出し惜しみは無しだ。
「煌炎剣! うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
うおーなんて、柄じゃない。
だけど、自然と口から出てしまう。
ミノタウロス亜種の攻撃を逸らし、弾き、反撃、追撃、回避、反撃、追撃、追撃、追撃、弾く、弾く、弾く、回避、逸らす、反撃、追撃、連撃、逸らす、逸らす、弾く、逸らす。
狂化した、攻撃を、防御なんて、してられるか!
とにかく、大斧の側、面を弾いて、逸らして、攻撃を、加えていく!
強化魔法が切れるのは、いつだ?
とにかく、時間が、無い!
隙を作って、一気に勝負をつける!
回避、回避、牽制、逸らす、回避、反撃、逸らす、牽制……ここだ!
思いっきり力を込めて弾き、ミノタウロス亜種の体勢を崩し、全力で踏み込んで腹に剣を突き刺す。
まだだ。
「断罪炎覇あああああああああ!!!」
火力を上げて煌炎剣を断罪炎覇にし、そのまま上に斬り上げて真っ二つにする。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。」
なんとか勝てたけど、今は何も考えられない。
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