第736話 行く時は友好的にいきたいものだ。的なお話
漆黒の球体から出てきたキュクロープスは身体の所々を黒く染めている。
あれはルナのブラックスフィアとかいう魔法の効果なのかな。
どういう魔法かはわからないが、なんか痛々しいという感じで側から見る分には結構きつそう。
と、そこで異変に気付く。
さっき斬りつけた部分が塞がっているのだ。
すぐに治ったとは思わないけど、筋肉が盛り上がって傷を塞いでいるのだ。
しかもなんか血管浮き出てるし。
これはマジでヤバイかも。
キュクロープスは、大きく息を吸うような動作をし出した。
それを見た瞬間、レックスの事が思い浮かんだ。
「まさか!?」
もしもあれがレックスの咆哮と同じで相手を恐慌状態にさせるものだとしたら、ヤバイ。
最悪犠牲者が出てしまう。
そう思ったのは俺だけではないようで、シアは即座に反応し矢を弓に番ようとし、セフィアも飛閃を放つ構えをする。
そしてリリンだが……目の前から消えた。
「しっ!」
「グゲヒュウウウ!!」
……最初からそうしてれば戦闘をする必要はなかったのでは?
そう思わなくもないが、今はとりあえずグッジョブということにしておく。
「ギヒュウウウウウ!」
喉をぱっくりと裂かれたせいで声を発する事ができないようだ。
そんなキュクロープスはそうした相手であるリリンを、見えないであろうはずなのに正確に位置を捉え、拳を振り抜こうとする。
「「リリン!!」」
それを見てセフィアとシアはリリンの名を叫ぶ。
「そんな事、させると思ったか? 『閃炎刃』」
リリンなら
だからこそ俺は、この技を放つ準備をしていた。
俺の剣から伸びた炎は瞬時にキュクロープスの肩にまで到達し、そのまま貫いた。
「リリン! とどめだ!」
「ん。バイバイ。」
着地をしたリリンが下から頭を真っ二つにするような軌道で飛閃を放ち、キュクロープスは頭を裂きながら倒れた。
◇
戦闘音を聞いてほわかの魔物が集まってくる可能性を考え、すぐに死体を回収しそそくさとその場を立ち去る。
そうしてある程度離れたところでようやく一息つく。
そして思い出す。
そういえば、そろそろお昼にしようと思っていたことを。
「あー、そういえばもうそんな時間だったね。キュクロープスで驚いてて忘れてたよ。」
戦闘で軽く汗を掻き、それを拭いながら言うセフィアのなんとかわいいこと。
血生臭いことした直後に思うことじゃないけど、俺、この子と結婚して良かったー!
「そういえばレント。いつの間にあの技を完成させてたの?」
「いや、あれは未完成だよ。本当はもう少し下の方を狙ってたんだけど、反動でズレてあの位置になっちゃったんだよ。一応、イメージの補強をしやすいように名前はつけたけどさ。」
「確かに少し上過ぎだったわね。」
あの時、炎の刃は肩を貫きはしたが実は肩の上の部分だったのだ。
本当の狙いはもう少し下、筋肉を断つつもりだったんだけど、反動でズレてしまった。
まあ、多少ズレてもいいように下の方を狙ってはいたんだけどね。
それでも、外れたのには変わりない。
「俺の新技もいいけど、俺としてはセフィアとリリンの技の方が気になったよ。」
「あー、あれね。ちょっとレントのを真似させてもらったんだよ。どうせならお揃いの技とかあった方が嬉しいかなって思って……ダメかな?」
「全然! むしろもっとやってよ!」
愛する嫁とお揃い。
なんて甘美な響きなんだ。
そんな、戦闘に関してのおしゃべりをしながらお昼の準備と食事を済ませ、一息ついていた。
その流れでキュクロープスの話となり、シアが気になることを言っていたことを思い出した。
「そうだ! 戦闘前にエルフの里でって言ってたよね。あれって結局なんだったの?」
「あー、あれね。別に大したことじゃなくて、キュクロープスが襲ってくるときは100人以上で囲って樹上から一斉に弓で射るのよ。こっちは100人以上いるから一人10回射るだけで千を超えるからね。実際はもう少し多く射つけど、大体はそれで直ぐにカタがつくって話。もっとも、その時に矢を千本以上射つから矢が千本以上ダメになるし、キュクロープス自体も矢で穴だらけになって素材としては使い物にならなくてね。ただただ損をするだけって話なのよ。ま、安全には変えられないんだけど。」
エルフの里って結構恐ろしいな。
行く時は友好的にいきたいものだ。
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