第700話 ダンスからは逃げられない。的なお話

「と、それよりもユースティア子爵。あちらで貴族の方々が呼んでいますよ?」

「ぐぬぬぬ……ん? そうか。感謝する、エリュシオン殿。」


BGMさんはスッと態度を改めてユースティア子爵に戻った。

そしてアデラードさんに感謝を述べるとそのまま貴族の元へと向かって行った。


さて、これで漸く落ち着いてご飯が食べられるというもの。

せっかくよそったのに全然食べられなかったからね。

というわけでいただきます。


そうして料理に舌鼓を打ち、お皿の上に料理が何も無くなればまた取りに行く。

どうやら料理は途中で補充したりするようでブロック肉が再び鎮座していたのは嬉しかった。

どうやらこのお肉はローストビーフ的な物らしい。

中がレアで美味しい。


ドリンクは会場内にいるメイドさんにお願いすれば持ってきてくれるようで、お盆に飲み物の入ったグラスを乗せて歩いているのを見かける。

俺も何か飲み物が欲しいと思っていたところだし、お願いしようかな。


「すみません。飲み物が欲しいんですけど、どうすればいいですかね?」


とはいえ、あくまでもそれは予想なので一応確認しておかないとね。


「それでしたら私共に言っていただければお持ちしますよ?」

「そうですか。それでは……えーと……何がありますかね?」

「そうですね……ワインなどの酒類は豊富に取り揃えております。他にはお酒の飲めない御子息、御息女の為に果実水やミルクなどをご用意しております。変わり種では炭酸水と呼ばれる泡の出る水もあります。」

「ッ!? その炭酸水で果実水を作れたりしませんか?」

「えと、多分出来ると思いますが、聞いてみないことには何とも……。」

「ぜひ聞いてきて下さい!」

「わ、分かりました……。」


もしも出来るというのであれば、それは数年ぶりの炭酸ジュースが飲めるという事になる。

そんなの、期待するなという方が無理だ!


「何やってるのよ?」

「いやだって、炭酸だぜ? やっぱ飲みたいじゃんか。」

「それは分かるけどあんまり無茶言って困らすんじゃないよ。」


厨房の方に聞きに行ってくれていたメイドさんが戻ってきたが……。


「すみません。果汁は全て果実水に使ってしまったそうで、それと混ぜると薄くなり過ぎるそうで、無理だそうです。」

「そ、そう、ですか……。無茶言ってすみませんでした。えと、では果実水をお願いします。」

「分かりました。今お持ちしますね。」


ぐっふぅ……。

飲めるかと期待していたのに……言ってることも理解できるけど、普通いざという時に備えて予備を用意しているものじゃないの?

まあ、子供も少ないと考えて要らないと思ったんだろうな。

はぁ〜……。

今度炭酸水の入手法を探そ。


そんな事もあったりしながらも時間は確実に過ぎていき、それなりに腹も膨れた頃に楽団が演奏を開始した。

これはダンス開始の合図という事なのだろうか?

分かんないことは知ってるであろう人に聞くに限る。


「これって、ダンス開始の合図なのか?」

「ちょっと違うかな。まず最初の一曲はダンス無しで演奏だけを聞くの。それで、二曲目に入ると主催者側の人間や主賓の人間がメインとなって踊る。で、三曲目から他の招待客も踊り始めるってわけ。ずっと踊る必要はないけど、最低でも1回は踊らないとダメだからね。」

「ちっ……こんだけ人がいればバレないと思ったのに……。」

「バレるバレないの問題じゃないわよ。というか、そんなに私と踊るのがいやなの?」

「あ、いや、アカネと踊るのがいやなわけじゃなくて、下手な踊りを見られるのがいやなだけで……。」

「誰も気にしないと思うんだけどね。でも、そう言うのなら、少し遅めのタイミングで入ろうか。それなら他の人の意識も別のところに向いてるだろうし。」

「そうしてくれると助かる。」


魔王からは逃げられないという有名なセリフがあるが、今の状況はあれだね。

ダンスからは逃げられない。

ってところかな。

……がんばろ。

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