第650話 すごく驚いています。的なお話
オークションが終わり今は引き渡しの時間。
中が見えないタイプのテントで引き渡しをするようだ。
そのテントに行くのも列になるのではなく、一人一人係りの人が呼びにくる。
多分貴族とかが買ったりするから、その辺の配慮をしてのことだろう。
現に今も貴族様が引き渡しをしてもらってるところだし。
「お、女の……子?」
「初対面だから今回は許すけど、次子供扱いしたら許さないから。」
「は、はひ!」
女の子呼びしたカンナさん。
即座にアデラードさんが怒りをあらわにし、殺気を浴びせかける。
身長と胸の事はかなり気にしてるからなぁ。
俺も考えるだけでも先回りされて何を考えたのかな〜? って聞かれたりする。
あれちょっと怖い。
「私はアデラード。今日から貴女の主人ということになるね。こっちにいるのは今回の護衛をしてくれている、レント、セフィア、リリン、アカネ。」
「…………あ! ひょっとして、前にウチで……そうでした。もうお店ないんでした。……えっと、以前やっていた店で買ってくれた人、ですよね?」
「そうだな。ちなみに俺も入札したけど、アデラードさんにインターセプトされた。」
「そ、そう、ですか……。」
あの。
なんで半歩下がるのですかね?
別にそんなつもりなかったよ?
というか、むしろ最近ではそういうことの時間の長さがちょっと悩みのタネだったりするんですが。
「まあ、その辺の話はまた後でね。それよりも早く契約をしようか。」
「は、はい!」
奴隷の契約方法は2つある。
奴隷紋という術式を刻む違法のものと、奴隷の首輪を使う合法のもの。
奴隷紋の方は生死すら縛れる非人道的な物だから。
奴隷の首輪は精々全身に痛みが走るが、死ぬ事はないし、主人が犯罪を犯したり、奴隷に犯罪を犯させたりすると首輪が外れるという安心設計。
今回も首輪だ。
まあ、街が許可している奴隷市で犯罪の奴隷紋を使うはずないが。
「では、これで契約は完了しました。たった今より、こちらのカンナはエリュシオン様の物となります。」
「ご苦労様。それじゃあカンナ、行くよ。」
「は、はい。」
テントに戻り、今後のことを話すようだ。
まあ、俺はそこまで関係ないけど。
だって買ったのアデラードさんだし。
というわけで、アデラードさんの後ろで、いかにも護衛ですが、何か? みたいな顔をして立っている。
「まずカンナにしてもらう事なんだけど……。」
「ごくり。」
「ごめん。何も考えてなかった。」
「はい?」
まあ、そうなるよな。
ただ単に勇者と同じ日本人だから助けようと思っただけで特にこれをやらせたいという考えがあったわけじゃないんだしな。
でもこのまま放逐というわけにもいかない。
今アデラードさんがうんうん唸りながら考えている。
一般的ならカンナさんが言っていたように家事をやってもらったり、魔道具を作ってもらったりとかなんだろうけど……アデラードさん別に魔道具屋を経営しているわけじゃないし、そもそもアデラードさんが魔道具を作れる。
家事に関しても、すでに何人もメイドや執事がいるからカンナさんにしてもらう必要がないんだよな。
さて、アデラードさんはどんな答えを導き出すのやら。
「よし決めた。特にやってほしい事ないけど、わざわざお金を払ったわけだし、とりあえず家でメイド見習いでもやってもらおうかな。」
「分かりました。」
「それとは関係ないけど、君の経歴とか教えてくれるかな? あ、君が転生者だという事はわかってるから、出来ればそこから話してくれるとありがたいかな。」
「っ!? ……分かりました。私は、前世は矢橋彩花という名前の普通の女子大生でした。就職も決まり、これからという時に、事故で亡くなりました。そして、次に気付いた時には、私はカンナになっていました。そこで転生したんだと気付きました。最初は戸惑いましたが、徐々に慣れていきました。父と母、妹、弟の平凡な家庭でした。ある日、自身のステータスを知る機会があり、その時に魔道具作成のギフトがある事を知り、ギフトを使ってお店をやろうと思ったんです。ですが、2年前に大きな魔道具商会が店の近くに建ち、客足が遠のき、気付けば借金をするようになりました。商売のやり方がまずかったんだと思います。客のいない時期から前世の知識を活かした商品を作ってしまい、それがワーグナーに真似をされ、個人で作る私の店と、大量に雇っている魔道具職人がいるワーグナーでは勝ち目がありませんでした。起死回生の一手をと考えたんですが、材料を調達するのが難しく、借金がさらに増えました。そして、借金を返す目処もある筈もなく、店や商品は徴収され、残った借金も私を売る事で0にしました。これが私の経歴です。」
年上でした。
見た目は18くらいだが、実際は……
「40歳?」
「前世と今世の精神年齢は足さないで! って、あれ? 私、前世では22歳だって、言ってませんよね。なんで、分かったんですか?」
ぽそっと年齢を足した数字をつい呟くと食い気味に訂正してきた。
その後にこんな質問が。
だからはっきりと伝える。
「だって俺も日本出身だし。俺は転移者だけどね。」
「えええええーっ!?」
「そしてこいつも転移者。更に、そこのアカネはカンナさんと同じ転生者です。」
「えええええええええええええーーーーーー!?」
どうやら他にも日本人がいるとは考えていなかったようで、すごく驚いています。
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