第647話 オークションが始まってしまった。的なお話

「しかし……確かにこれは見目麗しい少女達ですね。」


太守さんはそう言ってこっちの方を見てくるが、この人の視線はさっきのポルクと違い嫌悪感を感じるようなものではなく、どちらかといえば好々爺のような視線だ。

まあ、まだ孫がいるような歳じゃないだろうけど。


「私にも娘がいるのですがね、いずれは彼女達のように育つのかと思うと、楽しみになってきますな。」

「確か娘さんは……」

「今年で8歳になりますな。上は5人とも男ですからもう可愛くて仕方ないですよ。」


5人って……いや、伯爵だし第2第3の夫人……この言い方にすると魔王みたいだな。

まあ、奥さん複数いても不思議じゃないしむしろそのくらいは普通か。


「と、あまり長居しても申し訳ないですし、私はこれで失礼しますね。」

「大してお構いもせず申し訳ありません。」

「いえいえ。突然訪ねたのは私の方ですからどうぞお気遣いなく。」


そして太守さんは立ち去っていった。

…………しまった!

挨拶くらいしとくんだった!


「太守っていうのは、国にその実務能力と勤勉さ、人柄から選ばれるから、いざという時は頼りにしたほうがいいよ。」

「あ、そういえば気になっていたんですけど、さっきの会話ってどういう事なんですか? どっちも相手を上に見ているような話し方だったんですけど。」

「え、ああ。私は位としては男爵で相手は伯爵だからそれ相応の言葉遣いをして、相手は私が救世の英雄である勇者の師匠、そして私自身も130年前の戦争で敵幹部を何人も討ち取ってたもんだから、世界的な英雄扱いなんだよね。……あとは、その、王子を娶り、大公にならないかと言われたりもしたんだよね。」

「王子!?」

「あ、もちろん断ったよ! それだって、強い力を持つ者を縛り付けたいっていう思惑が透けて見えていたから! それに王子には他に好きな人がいるっていうのは有名な話だったから。」


この人、知れば知るほど、どんどんすごい話が出てくるんですけど。

それに戦争で大活躍してたとか。

……二つ名とかあるんだろうか?

いや、あるんだろうなぁ。

大活躍してたんだし、そりゃあるよな。

二つ名か……ちょっとかっこいいよね。

あ、称号にあるハーレム野郎とかは別だ。

そんなのと一緒にできるわけがないし。


「あの、アデラードさんって二つ名とかあるんですか? ほら、さっき大活躍してたって言っていたし、それであったりするのかなぁ〜って、ちょっと気になりまして。」

「え、あ〜、あるにはあるけど……その、笑わない?」

「え? なんでですか? 二つ名ってかっこいいじゃないですか。」

「そうかな……? えっと、その、楽園の妖精エリュシオンオブフェアリーとか、殺戮姫ジェノサイドプリンセスとか、災禍の暴風ディザスターテンペストとか、九色の人形姫ナインス・ドールとか天才の中の天才ザ・ジーニアスとか……。」


わーお。

途中なんか物騒なの混ざってたぞ。

ジェノサイドとかディザスターとか。

ん?

そういえば、ポルクの奴がアデラードさんのことをエリュシオン殿と言ってたな。

それってひょっとしてアデラードさんの家名なのかな?

そして、二つ名にもエリュシオンオブフェアリーってのがあった。

何か関係あるのかな。


「エリュシオンって、何かあるんですか? アデラードさんの家名っぽいですし。」

「ああ。それなら、私の代名詞でもあるレジェンドスキルの事だよ。」

「レジェ……そんなの、聞いちゃっていいんですか?」


レジェンドスキルなんてその名の通り伝説級のスキル。

そんなのを簡単に言っていいのかと思い、周りを気にしてこそっと聞く。


「いいよ。むしろレント達なら知っててもらいたいし。『精霊の楽園』エリュシオンっていうスキルは複数の魔石の魔力を引き出し、それを周囲に散布する事で周囲にいる精霊を顕現させるスキルなんだよ。そうして顕現した精霊は契約関係関係なくお願いを聞いてもらうことができる。それで、大量に散布した魔力の影響で周囲の草花が急成長するんだよね。で、その光景が精霊たちの楽園に見えることがスキルの名前の由来。二つ名はそんな楽園の中に立つ私が妖精のようだって思った兵士が言い出したのがきっかけだったかな。」

「じゃあ、代名詞だからそのまま家名にしたってことですか?」

「まあね。」


アデラードさん……遠いなぁ。

隣に立つ……とは言わないまでも、せめてその背中が見えるレベルにはなりたい。

じゃないと、胸を張ってアデラードさんの婚約者なんて言えない。


「エリュシオン様。そろそろ始まりますので準備をお願いします。」

「うん。分かった。」

「護衛の方もこちらをどうぞ。」

「はい?」

「こちらは入札用の札になります。欲しい奴隷があれば是非入札をしてください。では、私はこれで。」


なんか、入札用の札をもらったんですけど。

なんで?

あれ?

でも説明の時に入札の仕方をアデラードさんが教えてくれていたような……え、本当に入札できるの!?


「レデイースエーンドジェントルメーン! 只今より、奴隷市を開催いたします!」


混乱している俺をよそに、オークションが始まってしまった。

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