第633話 美味しいところがいいよな。的なお話

その後も細々とした説明なんかを受ける。

オークションは2時間ほどを予定としていること。

オークションの後に1時間ほど休憩の時間があること。

ただし、オークションの進行具合によってはプログラムが変更になることもある。

その場合は2時間オークション、1時間休憩、そしてオークションの残りを終わらせて、奴隷商の準備の時間を少しとってから営業となるとのこと。

そして肝心の奴隷市の場所がダンジョン前の広場っと……ってダンジョン前!?


「あの、なんでダンジョン前なんですか? もっと他に場所があると思うんですけど。」

「街もどんどん人が増えてスペースが無くなってきてね。それに集まる商人も客も増えてるからいつの間にかそういうことになっちゃったんだよ。」

「あ、そうなんですか。」

「うん。冒険者がいっぱいいるから戦闘に長けた奴隷や、せ、性奴隷とかの需要があるし、冒険者がターゲットの商人や職人に向けて小間使いや書類管理、後はまあ、他の街で借金を作った職人の雇用先として運ばれたりするね。」

「雇用先……ですか? 借金奴隷ってそういうものなんですか?」

「借金を作った理由にもよるけどね。酒やギャンブルとかで作ったなら問答無用で鉱山に送られるけど、手に職があるなら鉱山よりもその業種の人に売った方が高くなるからね。」

「あー、そう言われればそうですよね。」


そもそも需要がないところに売ったって意味がない。

職人系の人を欲しがるのは同じ職人だ。

薬師のような労働力にならなそうな人を鉱山に売ったところで買い叩かれるのがオチだが、後継者不足や事業拡大を考えている職人さんなら高くなる。

当たり前だな。


「で、これがこの街周辺の地図ね。それでここがダンジョンで、その前の広場が会場。ここでオークションが行われて、ここが貴賓室……って程じゃないけど、賓客用のテントが設置されるの。ここら辺で大体奴隷商が営業してるんだ。ここまではいい?」

「はい。」

「ここを見て。ここが1番の奴隷商が店を構える所だよ。ここから先に見て、回っていくことになるからね。お店についての細かいことは……エリーナ。」

「はい。」

「このパンフレットを見ておいてね。」


パンフレットとかあるんですね。

奴隷商なんて後ろ暗い職業かと思ってたけど、こんなものまであるなんて……やっぱ異世界すげーな。


「大体話終わったかな。何か気になることとかないかな?」

「今の所は特にないですね。」

「そっか。じゃあ、今はこれで終わりにしておこうか。後は買い取りだね。」

「そうですね。じゃあ、俺達はこれで。」

「うん。あ、夜になったらまた行くからね。」

「分かりました。」


もうこれが自然なんだなぁ。

夜になったらアデラードさんが来訪するのがさ。

でも、一線を越えるのだけは我慢してもらわないといけないよな。

まだ公にはなっていない関係って設定だし、自重してもらおう。

……セフィア達も。

仲間、仲間♪ といった感じで増やそうとするけど、相手ギルマスだし、貴族だし、婚前交渉は流石にやばい。

だから、絶対に自重してもらおう。


買い取りを済ませ、ギルドを後にする。

次の目的地はアイリスさんのお店リスティーン。

帰還報告が主な目的だけど、頼んでいたあれも気になるところ。

久しぶりに会うということでちょっと気分が弾んでいる気がするけど、それも仕方ないよな。


「アイリスさーん。居ますかー?」

「はーい。って、レントさん!? 帰ったっすんね!」

「はい。帰還報告と、アレがどうなったか聞きに来たんですよ。」

「アレっすか。もう少しってところっす。多分明後日くらいには出来上がると思うっすよ。」

「本当ですか? それは良かった。今度奴隷市に行くアデラードさんの護衛をするので助かります。」

「それって、いつもは金剛の繋ぎ手さんがやってる奴っすよね? 大丈夫っすか? 仕事取られたーって、言ってきたり……。」

「あー、どうだろ? まあ、アデラードさんに直接依頼されたから、多分大丈夫でしょ。」

「それならいいんっすけど。」

「それよりも、俺達が居ない間何かありました?」

「んー、特に何もないっすね。あ、でも偶にリナさんがやってきては寂しいとか、心配だとか言ってたっすね。私は寂しいのには同感っすけど、心配はしてなかったっすね。レントさんなら絶対大丈夫って信じてたっすから。」

「そうですか。ありがとうございます。」

「あ、また敬語に戻ってるっすよ!」

「あ……。」

「もー、しっかりして欲しいっすよ。私達はこ、恋人、なんっすから。」

「ごめん。気をつけるよ。」

「はいっす。」


話が弾んでいた所でふと時間を確認してみれば、12時半を過ぎていた。

もうお昼も半ばだし、昼食としようか。


「そういえばアイリスさんはお昼もう食べた?」

「まだっすよ。」

「じゃあ、一緒にどこか食べに行こうか。」

「はいっす。あ、ちょっと待っててくださいっす。今準備するっすから。」

「リリン。そういうことなんで、みんなはどうするか聞いてきてくれないかな?」

「ん。行ってくる。」

「悪いね。後で何か埋め合わせするから。」

「分かった。」


さて、どこにしようかね。

せっかく帰ってきたんだし、美味しいところがいいよな。

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