第495話 抜け出せなかった。的なお話
「これ食べ終わったらまたやるわよ。」
「まだやるつもりなのかよ。」
「当然よ。負けたままなんてプライドが許さないんだから。」
プライドが許さないなんていうほどのことだろうか。
プライドは漢字で書くと誇り。
カタカナで書くとホコリとなる。
こうなると吹けば飛ぶような陳腐なものに思えてくる。
宇宙飛行士の弟の後を追うように宇宙飛行士となって宇宙を目指す漫画でやってたネタだ。
「ま、付き合ってやるか。プライドなんてそんな大層なもん出すほどじゃ無いと思うけどな。カタカナで書くとホコリになるし。」
「そのネタはやめて。」
おろ。
蒼井のやつ、このネタも知ってるのな。
まあ、アニメや実写映画もやった作品だから知ってても不思議じゃ無いけど、こいつ意外と色んなネタ知ってるよな。
最近の女子って意外とそっち系の文化にも精通してんのか?
「こんばんわ〜。」
「あれ? アデラードさん? どうしたんですか?」
「一緒に飲もうと思って来たんだよ。色々お酒を持って来たよ。」
「なんでわざわざ雨の日に飲みにくるんですか……。」
この人は、恐慌状態になったことに対する優しさとか無いのか?
「まあ、それは手段なんだけどね。お酒を飲むと気分が上向くから恐慌状態が良くなるかと思ったんだけど………問題なさそうだね。」
「まあ、そうですね。遊んでたらみんなよくなりました。」
一応気にしてたみたい。
でも、それでもお酒を選ぶ辺りがなんともらしいというかなんというか。
「うーん。大丈夫そうだし、楽しく飲もっか。」
「結局飲むんかい!」
「あははは。あ、私今日レントの部屋に泊まっちゃうと思うから先にお金払っとくね。」
笑った後、ちょうど近くを通りかかったレイちゃんに泊まる旨を伝えてる。
それはいいよ。
ただで泊まるなんて申し訳ないから。
でもね、俺の部屋に泊まるなんて言ってるからレイちゃんが顔を真っ赤にしてんじゃん。
絶対そういう風に見てんじゃん!
俺アデラードさんとはそういう関係じゃないよ、まだ!
というか、今晩はそういう事をして恐慌状態を解消するっていうのをやろうと思ってたのに。
まあ、ただの口実だけどさ。
「じゃ、早く行こっか。」
「あわわ、オトナの世界だ……。」
これまでも結構汚してたりしてもうバレてると思うんだけど、なんでそんなにテンパってんだ?
ひょっとしてこれまでもこんな感じになってたのか?
もしそうなら…………すごいプロ根性だな。
こんな状態になるのに普段はそんな感じが全然しなくて普通に接しているんだから。
「あ、アデラードさんはそこで1人で飲んでて下さい。私には、大事な戦いが待っていますから。」
蒼井が神妙な顔をして言っている。
でも、やるのはただの大富豪だよ?
何言ってんだこいつ。
「いや、除け者はかわいそうだよ。アデラードさんも一緒にやりません? 大富豪。」
「大富豪ってあれだよね? セーヤが広めてた奴。」
「せーや? だれですか、それ。」
「あー、もうだいぶ昔だし知らないのも無理ないよね。セーヤってのはね、352年くらい前に冒険者やってた子なんだ。その子はちょっと変わってて、変わった料理とか遊びとかを開発してたんだ。でも、あんまり強くなくてね、冒険者ギルドに来なくなって、いつの間にか亡くなってたって、風の噂で聞いた。」
「そうなんですか……。」
そいつは、多分転生者なんだろう。
で、憧れの冒険者になったはいいがそっち方面の才能がなかった。
それでも諦めきれず、冒険者をやって、それで死んだのか。
ま、俺には関係ないけどね。
「それじゃ、大富豪をやりますか。」
「軽っ! え、軽くない? ちょっと、重いというか、悲しい話だったんだと思うんだけど……。」
「いやだって、俺その人のこと何にも知りませんから。アデラードさんだって、1000年前にケビンという冒険者がいてその人は途中で魔物に負けて死にました。って言われてどう思います?」
「どうって、冒険者なんだしそういうこともあるかな。ってくらい?」
「俺もそんな感じです。だって全く知らない人ですから。」
「それはそうなんだけど……私は一応何回か顔を合わせたことあるんだけど……。」
「じゃあ、親しかったんですか?」
「そこまでは親しくなかったけど。」
「だったら今更気にしたって仕方ないですよ。大事なのは昔のことじゃなくて今ですよ。ほら、蒼井がもう闘志剥き出しで、早くやるぞって目で訴えてますし。今はあれをどうにかするのが先かと。」
「…………そうだね。」
酒を飲んだり騒いだりしながら寝る時まで楽しく遊んだ。
でも、残念ながら蒼井は一度も絶貧民からは、抜け出せなかった。
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