第490話 気遣ったが故のものだ。的なお話
「うーん。倒せるかと思ったんだけど、まだまだだったね。」
どこの王子様だよ。
「レントは結構グダグダだったけど、それ以外はいい線いってたよ。足場も視界も悪い中重傷者も出さずによくやってたと思う。前半は。でも後半は全然ダメ。何あれ? 敵の前でガタガタ震えて、私がいなかったら多分みんな死んでたよ。」
それだ。
あの時、恐竜に変化が現れて吼えたと思ったら突然心の奥がゾワゾワいって身体が震えだした。
優勢だったし怯える理由なんてないはずなのに、何故か勝てないと、負けると思った。
あれがなんなのか、気になる。
「あの、ちょっと質問いいですか?」
「ん? 何かな?」
「あの恐竜の様子が変わった後の咆哮を聞いた途端、恐怖を感じたんです。あれは一体なんなんですか?」
「恐竜? もしかして、タイラントグランドレックスのことかな?」
「あ、はい。タイラント〜なんて長いですからとりあえず恐竜って心の中で呼んでたんです。って、そうじゃなくて、恐怖の正体について教えてください。」
「じゃあ、順を追って説明するね。まず、一部の魔物の中には今回のレックスのようなHPが一定数以下に下がった時に変化が起こるのがいる。そういう変化の事を凶化っていうんだ。この凶化はATKが飛躍的に向上し相手を恐慌状態にすることが出来るようになる。」
「恐慌……じゃああれは。」
「そういうこと。でもそれは耐えることもできる。それはレントがよく分かってるよね。」
「……はい。」
俺はあの時、確かに恐慌状態から抜け出した。
みんなを護りたいと考えて、こんな所でやられるわけにはいかないと思って。
「最終的に動いていられたのはレントとリリンだけだったね。恐慌状態は格上には効かずステータスとレベルに差があるほどなりやすくなるから。今後はその辺の訓練もしていくからね。」
あんな事になったら戦うどころじゃなくなる。
そうならないために訓練をする必要はあるな。
「最終的な採点をすると、52点かな。」
「結構低いですね。」
「まあ、戦えなくなった時点でアウトだからね。ところでさ、なんで火魔法を使ったの? 今雨降ってるよね?」
「まともに使えるのが火魔法だけなんで。」
「それほんと?」
「はい。」
「………それでよくこれまでやってこれたね。」
俺もそう思います。
おまけに魔法はあまり得意じゃないし。
「こりゃ、魔法の訓練も増やさないとダメだね。」
「よろしくお願いします。ちなみにですけど、アデラードさんはいくつ使えますか?」
「ん? 基本6種全部と氷と重力と雷かな。」
「多いですね。」
「まあね。」
普通は取得可能数に制限があるもんなんだよ。
その人の才能の差とも言うけど。
俺達は加護によってそれがないけど、この人は素の才能でそれだからね。
おまけにステータスはバカみたいに高いしでなんなんだこの人。
たった5人しかいないSSSランクに次ぐSSランクで魔法も物理も強いとかチートかよ。
まあ、その代わりに身長その他成長度合いを犠牲にしているようだけど。
「今何か失礼なこと考えなかった?」
「気のせいですよ。」
あと鋭い。
「さて、これからどうする? 疲れてるだろうし今日はこれで帰るのもありだと思うよ。」
「そうですね………今日は帰ります。」
みんなの様子を見てみたが、とてもじゃないが続行しようなんて言えなかった。
セフィアは他のみんなよりかはマシだ。
これは恩恵の効果の状態異常耐性によるものかな。
ルリエにもあるけどステータスとレベルの差がセフィアよりも大きいせいで緩和しきれなかったのだろう。
そして臆病なところがあるルナが一番深刻だ。
「ルナ、立てるか?」
(……ふるふる)
無理そうなので俺が背負って帰る事にする。
背中にあたる柔らかいものが心地いいが狙っていたわけじゃない。
ただ、恋人として気遣ったが故のものだ。
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