第70話 超絶美少女は撮影を見る

「ほらやっぱり! 撮影してるよ! 嘘じゃなかったでしょ?」


「そうですね……。確かに撮影をしているようですし、本当の情報だったのですね」


「でしょでしょ! やっぱり見間違いじゃなかったんだよ!」


「ちらほらと人がいますが、そんなに多く集まっているわけではないようですね」


 木曜日、快晴の中、私と明梨ちゃんはモールの近くにある撮影が行われると聞いた場所へと向かいました。


 正直、撮影は行われていなくてただプールに行く事になると思っていたのですが、私の考えとは裏腹に撮影は行われているようです。


 プールの隣の駐車場には黒い車が止まっており、その先にある公園の広場に簡易テントが設営されています。


 そして、ちらりと見えたモデルは神代光生と麻倉明華でした。つまり、日裏くんが撮影されていたのです。


 その様子を見ている人はほとんどいなくて、明梨ちゃんがつかんだという情報は公式に流されたものではないということは分かりました。……どこから漏れたのかは知りませんが、そんな情報を見つけてくる明梨ちゃんもすごいと思います。


「ほら! めちゃくちゃかっこいい……! はぅ……写真撮ってもいいかな!? ダメかな!?」


「ダメですよ。そこに撮影厳禁と書かれています。撮ったら追い出されてしまうかもしれませんよ」


「それはダメだね……! あぁ、偶然街でばったりと遭遇して一緒に写真を撮ってもらいたい……。……偶然会えないかなぁ……? 助けてもらえないかなぁ!?」


「……その目はなんでしょうか」


 多分、私が日裏くん、いえ、あえて神代光生と言いましょう。神代光生にナンパから助けてもらったことを言っているのでしょう。


 そのことを最初に話した時は驚いただけだったのに、今更ジトッとした目で見てきます。


「だって麗華はナンパから助けてもらった挙句に途中まで送ってもらったんでしょ!? ……紳士的すぎて死ねる……」


「確かにそうでしたが、今更感がすごいですね……。正直、助けてもらいましたが本人は神代光生だということすら認めませんでしたし、その程度の関係性ですよ。それに、一か月以上前のことですしほとんど覚えていませんよ」


「えー、嘘だー! 私ならその日の記憶をノートにびっしりと書き記すよ!」


 明梨ちゃんの言う通りこれは嘘です。実際はほとんど忘れられていません。あんな風に扱われたのは初めてでとても記憶に残っています。あ、もちろんあんな風にというのはいい意味です。


 いつもまるで上流階級の人を扱うかのように接されてきた私にとって、対等に扱われるのは新鮮なことでした。


 言ってしまえば明梨ちゃんしか普通に接してくれていなかったので、異性でそんな風に普通に接してくれるのは初めてだったのです。


 もちろん、上流階級の人のような扱いなんて私は望んでいませんでした。周りが勝手にそんな風に扱ってくるのです。


 ……いえ、私も周りからの接し方を受けてまるでそうかのような振る舞いをしてしまっていたことは事実でしょう。


 今思い返してみれば私にも原因があったのかもしれません。でも、今は日裏くんたちと学校でも関わるようになったことでそんなに気を張る必要が無くなったからか、私に普通に話しかけてくれる人も増えました。


 神代光生に助けられてから、いえ、日裏くんと関わるようになってから私の日常は良い方に変化したと思います。


「テントの方に戻っていきましたが、そろそろ撮影は終わりでしょうか?」


「いやいや! 多分次の服に着替えるために入っていっただけだよ! 秋の服を一種類だけっていうのはないはず!」


「なるほど……本当ですね。少し雰囲気が変わりましたね」


 確かに、雑誌には一つだけではなく何種類も服を着たモデルが載っていました。そう考えるともう少し撮影は続くはずです。


 しばらく見ていますが、写真を撮るようなルールを破る人はいないみたいですが、知り合いに教えたりSNSなどで呟いている人は居るようで、徐々に人が増えてきました。


 すると、麻倉明華が神代光生の肩を叩いてこちらを指さしました。そして少し驚いた顔をした後にこちらに向かって手を振ってきました。


「わああ! ねぇ麗華! 見た!? 今こっちに手を振ったよ! 見たよね!? 絶対私の方を見て手を振ってくれたよ!」


「お、落ち着いてください! こちらに手を振っただけで誰か特定の人に手を振ったわけではありませんから!」


「そんなことないよ! 驚いた顔してたから多分麗華のこと覚えてたんだよ!」


 彼は日裏くんなのですから、私たちがいることに気がついて驚いた顔をしたのも当然でしょう。だから明梨ちゃんが言っていることもあながち間違いではありません。


 特定の誰かに手を振ったわけではないと思いますが、驚いたのは私だけではなく、明梨ちゃんもいたからでしょう。


 撮影を再開しても特に様子に変化はないので、やっぱりバレない自信はあるのでしょう。私も、あんなに沢山手がかりを残してくれていなければ気がつくことができなかったと思いますし、髪型というものはかなり大事なものなのだと思いましたね。


「とりあえず、撮影を見守りましょ? ……ね?」


「はーい。……にしても、まじでかっこいい……」

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