第62話 脇役高校生はマネージャーと会話する

 更衣室に入り、来ていた着物をパッと着替えて私服になる。着物は帯を付けるのは大変なのに外すのは一瞬だから着替えには五分もかからなかった。


 だが、こうして着替えてみると着物と洋服の違いがはっきりとわかる。一ノ瀬さんが言っていた通り動きにくく走るなんてできそうにない。


 でもまぁ、祭りで着るのなら走る必要もないしおしゃれだしおしゃれだし着物の方が雰囲気にあっているだろう。花火大会だったら特に似合うと思う。


「あー……暑い……。エアコンが欲しい……泳ぎたくないけどプールに行きたい……」


「あら、光生くんは随分気だるそうにしているのね」


 更衣室から出て涼風を待っていたらマネージャーさんが話しかけてきた。


 雲が分厚いせいか、今日は特に湿度が高くじめじめとした空気が漂っている。暑さが張り付くような感覚がして、正直気が重くなるのも仕方がないと思う。


 それに、今日は急に来た撮影を早めるという連絡のせいでここまで走って向かってきたのだ。暑い気温に追い打ちをかけるかのような行動をしてしまったことでもう俺の耐久力は限界だったのだ。


「ここのところ毎日気温が上がり続けてませんか? 今日なんかテレビで観測史上云々って言ってましたよ」


「まぁ確かに暑くはなってきたけど、テレビとか新聞で言ってる観測史上って、結局ここ100年程度の話じゃない? だから暑さも台風とかも結局大げさに言ってるだけだと思うのよね」


 まぁ、確かに目を引くような見出しにしなければ誰も見てくれないのだろう。だが、意図的に発言を切り抜いたり全く違うと分かり切っている解釈をずらずらと書き記すものもあるのは事実だ。


 だから本当の情報を知るということも大事なのだが、今回は地球のことなのだから誰にも正確なことは分からないだろう。


「でも、地球温暖化のせいでこんなに暑くなってるんじゃないんですか? ほら、温室効果ガスのせいで熱量が地球に留まってるとかなんとかって習った気がするんですけど」


「うーん……私も専門家ってわけじゃないから詳しいことは分からないんだけど、今増えてる二酸化炭素って石油とかを燃やしてできたものじゃない?」


「まぁ、基本的にはそうですね。地下資源とかをどんどん使っているせいで増えてるってよく聞きますよ」


「そうよね。でも、その地下資源は元はと言えば大昔に地球で育ってた植物とかが長い時間をかけて変化したものだから、どっちかと言うと私は地球温暖化は昔の地球に戻ってるだけだと思っているわ」


「確かに……。って、こんな謎の会話をしようと思ってたわけじゃなくて、明日から予定を教えてもらえますか? 分からないと遊ぶ予定などが一切立てられないので」


 今日はこれを知るためにきたと言っても過言ではないかもしれない。一ノ瀬さんの休みの予定はグループに貼られており、もう俺待ちという状況になってしまっている。


 だから早いとこ撮影予定日を調べてお盆などの休む予定の日も含めてまとめておかなければならない。


「まぁ、基本的には土日になる予定だけどって……光生くんが遊ぶ予定? ……もしかして、あの例の正体がばれちゃった子とかしら?」


「まぁその子も含めて四人で遊ぶ予定です」


「あらそう……」


 少し揶揄いを含んだ声でマネージャーさんが言ってくるが、俺もこんなセリフを言う日が来るとは思っていなかった。


 いつの間にか予定は決まってるし、若干流されている感じもするが結局のところ俺も遊んだりするのはかなり楽しんでいる。


 夏休みなんて時々仕事して、終わりらへんに雅人が宿題が終わってないって泣きついてきて終わりってイメージだったからな。


「じゃあ夏祭りがある日は入れないようにしておくわね。まぁ、元から入ってなかったけど急に予定が入るということもないようにしておくから安心してちょうだい」


「ありがとうございます。それは助かります」


 そういうと、マネージャーさんが思い出したように言う。


「あ、そうそう。次の撮影の場所なんだけどね、外の撮影に変更になったのよ」


「二連続外って珍しいですね。了解しました」


「後で位置情報も送っておくわね。……で、まぁそこが本題じゃないくて、撮影場所がプールの隣なのよね。折角だし明華ちゃんと行ってきたらどうかしら?」


「え、涼風とですか? ……俺は別に構わないんですけど、さすがに水着を見られるのには抵抗があるんじゃないですか? 一緒に仕事をして撮影をしているとはいえ水着を見られるのはどこかに出かけるのとはわけが違うんじゃないでしょうか……?」


 江橋さんと一ノ瀬さんもプールは要相談って言ってたしな。そう考えると涼風も同じように思っていると考えた方が良いだろう。


「静哉お待たせ-! マネージャーさん、これ着物です。……って、真面目そうな顔をして何の話をしてるの?」


 そこにちょうど涼風が着替えを終えて出てきた。俺とマネージャーさんを見比べて不思議そうな顔をしている。


「最初は暑くてだるいって話から地球温暖化的な話になって、今は次の撮影についてだな」


「次の撮影というと……明日のこと?」


「いや、明日は涼風のみの撮影だろ? 次の木曜日のことだよ」


「うーんと、ちょっと待ってね」


 そう言って涼風はスケジュール帳を取りだしてめくる。スケジュール帳なんてものを持ってる時点ですごい。


「あぁ、普通にスタジオで新しい服の撮影かな?」


「そうそう。それなんだけどね、モールの先のにある場所での撮影に変わったのよ。で、その隣にプールがあるからせっかくだから明華ちゃんと光生くんで行ってきたらどうかって言ってたのよ」


「ふむふむ、静哉とプールって……えぇ!? ププ、プールですか!?」

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