第55話 脇役高校生はゲームセンターに行く
「えっと、次はどこに行くんだ?」
「次の目的地は……ゲームセンターよ!」
「なるほど? つまり俺のゴッドハンドが唸るときが来たわけか……?」
「白木さんのゴッドハンドというのは?」
「こいつ、結構ゲーセンに通ってるからクレーンゲームが得意らしいからな。自称だけど」
時々メッセージでこの景品を取ったという報告も送られてくるから、ゴッドハンドと言えるのかは知らないがクレーンゲームは得意なのだろう。
俺も一時期かなりクレーンゲームをやりこんでいて、取るだけ取って妹にあげたりもしていたが、寿司同様高校に上がってからは一つも景品を取っていないから下手になってると思う。
時々禁断症状のようにやりたくなる時もあるが、すぐに取った後にどうするんだという気持ちが湧いてくるから結局やらない感じだ。
というか、モールの上の階に行くとゲームセンターもあり、食料品から服などの必需品、そして本などの娯楽品まで本当に何でもあると言うイメージがあるな。
「ゲームセンターは一度か二度くらいプリクラを撮るためにしか来た事がないので新鮮です」
「クレーンゲームって色々種類あるんだね! 少し見てくるね!」
「ここにあるのはほとんどが実力機だけど、確率機が少し混ざってるから注意な」
ゲームセンター特有の色々な音が混ざった感覚に、ずらりと並ぶクレーンゲーム。コイン制のパチンコとパチスロや格闘ゲームや音楽ゲーム。そしてプリクラと見ていると懐かしい気分になってくる。
「白木さん、確率機って何ですか? 私にはどれも同じようにしか見えないのですが……」
「確率機ってのは、一定以上のお金が入るとアームの強さが最大になって景品が取れるようになるクレーンゲームのことで……まぁあれだ。ゲーム機とか音楽プレイヤーが景品として入ってる鍵付きのやつが一番有名か?」
「なるほど……。でも、せっかくゲームセンターに来たので一つくらいクレーンゲームで景品を取ってみたいです!」
江橋さんが両手を胸の前に持ってきて、ふんすっと効果音が付きそうなポーズをしている。と、そこで何か気になる景品を見つけたようだ。
「あ、あの、これって確率機ですか?」
そう言って指をさしたのは猫なのか兎なのか分からないぬいぐるみが景品となっているクレーンゲームだった。
「これは……台自体は確率機じゃないけど、この設定が運ゲーな奴だ……」
「運ゲーですか?」
「これはフックを揺らすことで棒から景品を落とすやつで、揺らす以外に方法が無いから何円かかるか分からないなぁ。確率機より金がかかるときもあるしワンコインで撮れることもあるから、動画サイトでも攻略みたいなやつは出てないし、まぁ出てても神業だから無理だな」
「おいゴッドハンドはどうした」
「な、何のことやら……」
「そうですか……猫うさ……」
ぬいぐるみの名前は猫うさというらしい。俺から見るとあまり可愛くないのだが、江橋さんは目をそらしてはまた見てを繰り返して、すごく名残惜しそうな目で見ている。
でも、上限金額の決まっている確率機よりもお金がかかる可能性があると聞いたから挑戦はしないようだ。
その表情を見ていると取ってあげたくなるが、俺も運ゲーだと思っているやつだし下手したらネットオークションで買った方が安上がりになる可能性の方が高いだろう。
どうしようかと思っていたら一ノ瀬さんがこっちに小走りでやってきた。
「麗華ー! こっちに猫うさのぬいぐるみ置いてあるよ! あ、これと同じやつ!」
「本当ですか! 行きます!」
「お、違う設定だといいけどなぁ」
「ぬいぐるみだから難しいんじゃないか?」
そして少し離れたところにあったところにある台まで移動する。それは、ぬいぐるみでよく見る掴んで穴まで運ぶタイプのクレーンゲームだった。
「あー、これって確か確率機じゃないっけ?」
「……こっちは確率機なんですか?」
「そうなの? 初めて知ったよ!」
「掴んでもすぐに落ちるから確率機だと思うんだよな……」
「……これを取るには何円くらい必要ですか?」
「うーん……分からん……」
江橋さんはこの猫うさというものがどうしても欲しいらしく、まるで一世一代の覚悟を決めたような表情をしている。
一回百円だが、五百円入れると六回できるため百円玉を六枚数えているが、その横から俺が百円を入れる。
「ちょっと貸してみ」
「は、はい」
クレーンゲームをするときに大切なのは正確さと多少の知識だと思っている。
例えば箱型だと、基本的に回してから棒と棒の間にひっかける横嵌めと、箱を左右に振ることで前か後ろに寄せて棒と棒の間に引っかける立て嵌めという手順の進め方がある。
今どきの箱用のクレーンゲームはワンコインで取れるものなどほとんど無いが、手順さえ間違えなければ取れるようにできている。
だけど、同じ手順を踏んでも初心者と熟練者ではかかるお金に大きく差ができてしまう。その差を決めているものが、一度で動かせる距離の違いだ。
アームが開いたところぎりぎりで箱に引っかけることができる人と、引き寄せたい方に少しだけアームが寄ってる人なら圧倒的に前者の方が箱が動く。
個人的な感覚だと上手い人なら初めての人の三倍は動かすことができるだろう。
何が言いたいかというと、俺は中学生の時にひたすら正確さを求めてクレーンゲームをやりこんでいたわけで……。
「この台は確率機なのかもしれないけど、こうやって……ぬいぐるみに着いているタグを狙ってあげれば……よし!」
狙った通りタグにアームを通すことで、アームの強さに関係なしに持ち上げることに成功した。ただ、引っかけて持ち上げたため穴の上に来てもぬいぐるみは落ちてくれない。
「ひ、引っかかったままですが持ち上がりましたよ!」
「そう。だからこれは……」
俺はもう百円を追加してスタート位置でボタンを押して移動を完了させる。そうすると、アームが閉じたタイミングでぬいぐるみの引っかかりも取れて見事景品をゲットすることができた。
「っし! 取れたぞ!」
「す、すごいです! そんな感じにすればいいんですね!」
「ん? はい。普通にこれあげるぞ?」
貰えると思っていなかったようできょとんとした表情になってしまった。というか、あげなかったら目の前で欲しがっている景品を取ってみせるクズにしかならないだろう。
「良いのですか?」
「あぁ。というか、欲しがってたみたいだから江橋さんのために取ったわけだし」
「私のため……。あ、ありがたく頂戴します……!」
「……まさか静哉が秘技フォールンアウトを会得しているとは……!」
「何それかっこいい! さっきの技術ってそういう名前なの?」
「いや、おれが考えた」
雅人が何か変なことを言っているが、きっとゴッドハンドが破れて恥ずかしいのだろう。まぁ、俺も久しぶりのプレイで成功したからかなり達成感があった。
「仕方がない……。こうなったら他のコーナーに行くしかないな」
「まぁ、景品も取れたからいいんじゃないか?」
「そうですね……。猫うさを取ってもらったのでもう満足しちゃいました……」
「いいね! あ、今度欲しいのあったら日裏くんにお願いしよーっと」
「絶対に取れる保証はないからな?」
今回はタグが入れやすそうな位置にあったからうまく行っただけだから絶対とは言えない。
「それでいいよ!」
「おい、早くこっち来いよ!」
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