第53話 脇役高校生は……

 その後すぐにメッセージで江橋さんから似合ってるのか判断してほしいから試着室の前まで来てくれと送られてきたため、みんなで移動してきた。


 軽く雑談をしながらしばらく待っていると、サッと音がして試着室のカーテンが開かれた。


「ど、どうですか……?」


 江橋さんが若干恥ずかしそうに似合っているかと確認をしてきた。……自分で選んでおいていうのも何なんだが、大人っぽい印象に少し見惚れてしまった。


 俺は、その事を江橋さんに悟られないように急いで返事をする。


「うん、大人っぽくていいんじゃないか? 可愛いから可憐といったような風に雰囲気が変わったと思うな」


「そうだね! いつもの麗華と少し雰囲気が違うからもっとドキドキしそう!」


「いつもが……」


「こ、これを買います! でで、では着替えるので閉めますねっ!」


 江橋さんはバッ!と音が鳴りそうなくらいの勢いで試着室のカーテンを閉めた。気に入ってくれたのならいいのだが……。


「なぁ静哉」


「ん? どうした?」


「俺、感想を言おうとした瞬間に閉められたんだよな……」


「……どんまい」


 俺もそうだったが、自分の雰囲気にあっていないような服を着る時は緊張してしまうものだ。モデルの活動を始めたてのデビューして間もない頃、絶対に俺には合わないだろと思っていた固いイメージの服を着る機会があった。


 その時は、似合わなかったら没にするという話で引き受けてみたが、まるで物語の中の執事のような燕尾服を思わせる感じの服だった。


 絶対に似合わないからやめようとマネージャーさんに言ったところ、似合うから大丈夫と言われてきたのだが、人生で一番レベルに恥ずかしくて撮影の時間をかなり短くしてもらった。


 しかし、次に仕事に行った時、その服で撮った写真がネットで話題になっており、一気に俺の知名度が上がって人気になった。


 きっと江橋さんもあの時の俺のような気持なのだろう。周りに似合う似合うと言われているが、自分では似合ってないと思って恥ずかしがっているような感じだったのだと思う。


「お、お待たせしました。日裏くんと白木さんは服を買われないのですか?」


「俺は今日買う予定なかったからな。それに、人のやつ選んで結構満足したし」


「俺はサーッと見てきたけど、去年買った服で着るのと着ないのに分けてから新しいのを買おうかなと思ってる」


「なるほど……。では、会計をしてくるので少々お待ちを」


 江橋さんはレジのほうに並んだ。ほとんど人もいないし、すぐに終わるだろう。


 雅人が言っていたが、俺も着る服と着ない服に分けないと服がどんどん増えて整理や防虫などが大変なことになってしまいそうだ。


 本当なのかどうかは知らないが女子は、毎年流行の服を追わないと馬鹿にされたり遅れてると言われたりすると聞いているため、どんどん服がたまっていくらしい。


 遅れてるとか言われなかったとしても、持っている服の組み合わせを変えて着ている男子と比べて新しい服を買う機会が多いから服がたまることには変わりないだろう。


 ……まぁ、俺の場合は仕事で使った服をそのまま貰っているからどんどん増えていて大変なのだが。


「お待たせしました。無事買うことができました」


「麗華お疲れさまっ!」


「じゃ、次はどこに行くんだ?」


「そういえば見たい服があるとしか聞いてなかった。一ノ瀬さん、今からどこに行くんだ?」


「ほんとはご飯のつもりだったんだけど、日裏くんの活躍で思ってた以上に早く服選びが終わっちゃったから、少し携帯用品見てもいい?」


 携帯用品とは、モバイルバッテリーや、スマホカバーからフィルムまで色々なものが売っているコーナーのことだろう。


「俺は良いぞ。さすがにまだ昼の気分じゃないからな」


「俺も別に構わないかな」


「私も特に問題はありません」


「ありがとう! じゃあ上の階だったはずだから行こ!」


 スマホ用品売り場には、docodemoやPtなどの携帯会社も展開されており、さまざまな種類の用品が揃えられていた。そのうちの一つを手に取ってみてみる。


「おっ! 指を通しておくリングか……。雅人、これ買って付けておけばいいんじゃないか?」


「ん? どれどれ……へー! これに指を通すことでスマホの落下を防ぐのか! ……これはいいかもしれない」


「それよりこれ見て! 足がグネグネしててどこにでも付けられる三脚だって! みんなで写真撮るときにすごく便利だと思わない?」


 試用の三脚をグネグネさせながら一ノ瀬さんが言う。確かに見た目は少し気持ち悪いが、足も絡ませると安心して取り付けそうなくらい安心感がある。


 写真を撮る予定など無いが、もし撮るのなら確かにとても便利だろう。スマホに引っかけるフックなどを買ったら二千円ほどしたが、かなりいい買い物になった。


「うっし! スマホ用品も見終わったし、そろそろ飯食いに行かないか? ここの飯屋っていつも混み合ってるイメージしかないからさ」


「そうですね。あまり遅くなっても待ち時間が発生してしまいますし、もう若干ですがお腹がすいてきてるので行ってもいいかもしれません」


「俺も賛成だな」


「じゃあみんなでご飯食べに行こうか!」


 俺たちは地下にあるフードコートに向かうことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る